経済財政運営と改革の基本方針2015では、これまでの名目GDP成長率=前提・プライマリーバランス黒字化(財政健全化)=主目標から、名目GDP成長率(デフレ完全脱却・経済再生)=主目標・プライマリーバランス黒字化=副次的目標へ、政策哲学は大きな転換をしたと考えられる。

名目GDPが縮小していることを最大の問題と考え、まずその拡大を目指すリフレ政策は正しいと考える。成長戦略・構造改革の成功、イノベーション、生産性の向上、企業の競争力・収益力の向上、家計の所得・生活水準の向上、財政再建、そして社会の安定、即ち日本経済の復活には、名目GDPが拡大していることが必要条件であると考えられるからだ。

名目GDPが拡大しているほうが、イノベーションや生産性の向上につながる企業のリスクテイクは容易であり、成長戦略・構造改革の推進に不可避に伴う負担も軽減することができるし、もちろん総賃金の拡大にともなう消費者心理の改善にもつながる。

政府債務は完全返済する必要があるというグローバルに異質な日本の財政スタンスが、成長を犠牲にする過度な緊縮財政として名目GDPの拡大を妨げ、日本経済の長期低迷の大きな原因になってしまっていた。財政安定化を優先して名目GDPが縮小してしまうのは本末転倒であり、名目GDPを持続的に拡大するために見直す必要があり、新たな財政健全化計画はその第一歩となる。

もちろん日本経済の復活の十分条件ではないことは、リフレ政策を主張するエコノミストの誰もが認識しているだろう。しかし、必要条件である以上、名目GDPの拡大にまず取り掛からない限り、日本経済の復活は期待できない。

これまでは政府債務の増加を恐れるあまり、財政再建による金利の低位安定だけが重要視され、名目GDPが縮小し、経済・社会に必要のない負荷を与えてしまっていた。リフレ政策の効果もあり、これまで縮小していた名目GDPが拡大に転じ、しかも名目GDP成長率(膨張の力、税収増)が国債10年金利(抑制の力、歳出増)をトレンドとして上回り始めている。

バブル期以来はじめての大きな局面変化となっており、膨張の力が抑制の力を上回り日本経済のリフレイトする力が強くなることは、その必要条件がようやく満たされつつあることを意味する。必要条件が満たされ、日本経済の復活につながる成長戦略・構造改革の成功、イノベーション、生産性の向上、企業の競争力・収益力の向上、家計の所得・生活水準の向上、財政再建、そして社会の安定への挑戦を、これから本当の意味で始めることができるようになろう。

日本経済の復活の必要条件を十分条件に変えることができるかどうかは、日本国民が衰えておらず、不断の挑戦心と創造性をまだ持ち合わせているのかどうかが左右することになる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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