海外と比較し日本の政府債務の負担が現時点でかなり大きいと言う誤解の一部は、政府予算において、償還費を含まない他国の国債費と、それを含む日本の国債費を単純に比較してしまう誤り、そして利払い費の金利前提を知らないことからきているようだ。
2015年度の政府予算の一般会計の歳出は96.3兆円となり、当初予算としては過去最大となった。高齢化により医療費や年金の支出が増加し、社会保障関係費は30.5兆円から31.5兆円へ増加。基礎的財政収支対象経費(行政及び政策の運営に必要な費用)の73.9兆円(予算総額対比75.7%)に対して、国債費が23.5兆円(予算総額対比24.3%)と大きい。
大きい政府債務残高の負担が日本の財政を圧迫し、予算を硬直化させているという見方がある。
日本の国債費の中には、10.1兆円の利払い費(政府の債務に対する利子の支払い)に加え、13.3兆円の債務償還費が含まれている。債務償還費は、既に発行済みの国債の一部を償還するための費用として毎年度、予算に計上されている。日本は「60年国債償還ルール」という、新規に発行した国債は60年(10年で6分の1ずつ)で全額償還するという他国に見られない独自のルールがあることが理由だ。
しかし、「60年国債償還ルール」に基づき政府債務を「完全に返済する」という考え方を先進国で持っているのは日本だけである。グローバル・スタンダードでは、政府債務(国内で自国通貨で発行されるもの)は完全に返済することなく、債務残高は維持されていくことはほとんど知られていない。
原則として政府債務は完全に返済されることはなく、継続的に借換(満期が来た国債を償還する際、償還額と同額の新規国債を発行し債務の借換えをし、債務残高は維持される)されていく。よって、ほとんどの先進国の国家予算は償還費を計上せず、国債費=利払い費となっている。
日本では、国債費の半分以上(2015年度:13.3/ 23.5=56.6%)が償還費に当てられている。そして、この利払い費の予算も10年国債金利が1.8%程度であることが前提となっており、現在の市場金利の0.4%程度と比較するとかなり高く、実際の利払い費は小さくなる。
市場金利が4倍になっても、この利払い費の予算額に変化はないことになるが、一部には市場金利が4倍になると、利払い費が10.1兆円から4倍になってしまうという誤解があり、過度な恐怖感につながってしまっているようだ。
海外と比較し日本の政府債務の負担が現時点でかなり大きいと言う誤解の一部は、償還費を含まない他国の国債費と、それを含む日本の国債費を単純に比較し、それを含む日本の国債費を単純に比較してしまう誤り、そして利払い費の金利前提を知らないことから来ているようだ。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト
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