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(写真=PIXTA)

これまでの レポート でも紹介してきたように、オランダでは公的年金と職域年金が非常に発達しており、この二つだけで現役時代に近い年金を受け取ることができると言われてきました。公的年金が最低保証に近い性格を有しているのに対して、職域年金は現役時代並みの生活水準を維持するために重要な役割を担っています。

しかし、2000年代に入ってから企業会計ルールの変更やリーマンショック等の影響から、オランダの職域年金にも大幅な見直しが必要になりました。その影響は現在まで続いています。第二回目の今回は、オランダの職域年金がどのように変化してきたのかを整理してみます。


始まりはDB

前回のレポートでは、わが国の企業年金制度のあり方を検討する際に、オランダのCDC(Collective Defined Contribution)が参考とされていることを紹介しました。

CDCはその名称からDC(Defined Contiribution)の一つと理解しがちですが、その発生経緯からするとDB(Defined Benefit)の一種と解釈した方が良いと筆者は考えています。CDCの仕組みについては色々な形で紹介されていますが、ここではどういう経緯でこのような仕組みが生まれたのかを中心に説明したいと思います。

オランダでは公的年金と職域年金が非常に発達していると冒頭に述べました。このうち公的年金はAOWと呼ばれる制度で、15歳から65歳の間に毎年2%ずつ年金の受給権が積み上がって行き、半年毎に改定される基準値を使って毎月の年金支給額が決まることになっています(i)。

この制度は国民が納付する社会保険料で賄われており、国民に対する最低生活保障の色彩が強いものです。これに対して伝統的な職域年金はDBの形を取り、その資産は独立した年金基金で運用され、給付もこの基金から行います。雇用主と加入者が掛け金を負担し、報酬の2%程度の額が加入者の年金受給権として毎年積み上がって行きます。

こうした職域年金の多くは、AOWと合わせた年金額が現役時代の平均報酬の80%程度になるように設計されています。オランダの公的年金と職域年金は密接に連動する仕組みになっている点が特長です。

公的年金が終身年金であると同様に職域年金も終身年金であり、Indexationと呼ぶ物価スライド機能も用意されています。こうした理想的ともいえる年金制度を支えたのは「Collectivity」というオランダ独自の考え方です(ii)。実際オランダではこのよう制度を2000年頃まで順調に維持してきました。

しかし、2002年にEUがIFRS(国際会計基準)の導入方針を決めると、その影響はオランダの職域年金にも及びました。特に影響が大きかったのは企業別年金です。図表1の通り、オランダの職域年金には大きく分けて三つの運営パターンがあります。その中で最も制度数が多いのが企業別年金です。

図表1 オランダの職域年金

企業別年金は企業及びそのグループ会社単位で運営されるもので、こうした企業別年金を採用している代表的な会社の名前としては、フィリップスなどを挙げることができます。

上場企業に対するIFRS適用の影響は、年金の分野では退職給付に係る未認識債務の顕在化という形で現れました。株価や金利水準等が大きく変化することで退職給付引当金が増加し、それが直ちに企業の決算へ大きな影響を与えることが懸念されたわけです。

こうした影響を嫌った一部の企業が選択したのがCDCと呼ばれる仕組みです。2004年から2005年にかけて、化学品会社のAKZONobelなどいくつかの企業が自らの企業別年金制度をそれまでのDBからCDCに切り替えました。