期待を裏切ったDB

オランダのDBによる職域年金制度が2000年頃まで極めて順調に運営されていたことは既に述べました。しかし、その後2000年から2003年にかけての株式市場の不振により、多くの年金基金で積立比率が大きく低下しました。そこで、2002年の9月には当時の監督官庁であったPVKから積立比率に関する指針(図表5)が発表され、この時から年金基金は一定の積立比率の維持を求められるようになりました。

図表5 2002年当時の積立比率に関する主な指針内容

こうした指針への対策として年金基金が実施したのは、年金額の計算に用いる基準報酬の変更です。それまでは退職時の報酬(FinalPay)をもとに年金額を計算していたのですが、これを勤務期間中の平均報酬(AveragePay)へと数多くの年金基金が変更をしました。この変化を加入者数で見ると顕著です(図表6)。

図表6 オランダDB加入者の推移

こうした変更の狙いは、年金額のIndexation(物価または報酬水準に対するスライド制)によって発生する負担を軽減することにあります。退職時の報酬比例であれば、勤務期間中のインフレリスクを年金基金が負担することになります。一方、これを平均報酬に変更し、その際にIndexationの実施幅を年金基金の積み立て比率に連動させることにより、年金基金の負担を減らすことが可能になりました。

この2002年に発表された指針は、その後にいくつかの修正を加えられて、2007年1月からFTK(FinancialAssessementFramework2007)として法律の一部となりました。このFTKでは、積立比率が目標とする水準を下回った場合、(1)掛け金の増額、(2)Indexationの制限、といった手段による積立比率の改善計画の提出が義務付けられています。

さらに「最後の手段」として、年金額の削減も許容しました。但し、このFTKが導入された当時、この「最後の手段」が現実のものとなることは誰も考えていなかったようです。

その期待が幻想に過ぎないことを示したのが、2007年以降の金融危機とそれに伴う急激な金利の低下でした。この影響で2008年末の平均積立比率は95%まで低下し、308の年金基金が積立比率の改善計画を提出し、そのうち7つの年金基金が年金額を削減せざるを得なかったようです。

その後も金融危機と金利低下の影響は続き、さらに長寿化に伴う負担(LongivityRisk)も加わり、オランダの職域年金制度は新たな対応が必要になりました。そこに登場したのがDAという考え方です。