DAとは何か

Defined Ambitionという言葉が生まれた時期について正確な情報はありませんが、一説によると2006年頃ではないかと言われています(vi)。しかし、実際の議論の場に登場したのは2010年頃のことです。その年に雇用主、加入者、年金基金(これをSocialpartnersと呼びます)に政府を加えた関係者の間で新しい年金協定(PensionAccord)が結ばれ、オランダの年金制度を見直す方針が決まりました。

この年金協定では、年金支給開始年齢の引き上げと共に、従来の制度のままでは上昇が避けられないDBの掛け金率に上限を設けることが合意されました。そして掛け金率が上がらないことへの対策として、浮上してきたのがDAです。その最大の特長は掛金率を完全に固定する点にあり、先に説明したCDCが一定期間ごとに掛け金率の見直し前提にしていた点とは異なります。

給付内容が、従来のDBにおける「確定したもの」あるいは「Hardな約束」から、関係者の「目指すべきもの」あるいは「Softな約束」へと位置付けが変わったことを示唆してDefinedambitionという名称が付けられています。このDAを制度として導入することを前提に、2012年から新しいFTKの議論が始まりました。その原案には、(1)Nominalcontractと(2)Realcontractという二つの選択肢が提示されています。

Nominalcontractは、これまでのDBの仕組み(積立比率とIndexationなどに対応関係はあるが、回復期間が設けられており、加入者や受給者の権利削減に進むまでに一定の時間的猶予がある)を踏襲する一方、Realcontractは積立比率がIndexationや年金額の削減に直結する内容となっています(図表7)。

図表7 Nominal contract と Real contract の仕組み

Realcontractでは加入者が従来以上のリスクを引き受けることを意味し、まさにDAの考え方を反映している訳です。一方、企業等の雇用主は引き続き年金基金が、より良い給付条件を達成するよう協力する責任を負いますが、掛け金の追加負担する責任はありません。

当初は早ければ2014年にも新しいFTKが導入される見通しでした。しかし、制度の在り方を巡る議論に時間が掛かったことに加え、その間の政権交代等が重なり、なかなか新しいFTKの内容が決まりませんでした。ようやく2014年末に新しいFTKの内容が公表され、従来よりも厳しい積立比率の適用や、様々な情報開示が求められるようになりました。

しかし、そこにはRealcontractに該当する規定は無く、これまでの仕組みの部分的強化に留まる結果となりました。どうやら年金制度関係者の間で、Realcontractに対する抵抗感が払拭されていないことが原因のようです。