2016年の注目ポイント

以上のように、振り返って見ると2015年は「新常態」への移行を目指す構造改革が本格的に動き出した年であった。第2次産業から第3次産業への構造転換、輸出・投資主導から消費主導への構造転換が進んだとともに、"7%前後"とした成長率目標もほぼ達成したことを踏まえれば、ひとまず順調に滑り出したといえるだろう。そして、2016年はさらに構造改革が前進する年となりそうである。

昨年の中央経済工作会議では、サプライサイド構造改革の5大任務の第一に「生産能力過剰の解消」を挙げ、"ゾンビ企業"の淘汰を進める方針を示しているからである。そして、それに伴う負のインパクトを財政政策と金融政策の両面から下支えして景気失速を回避する姿勢を鮮明にしている。

しかし、構造改革の推進は大きなリスクを伴う。第一に"雇用不安"に陥るリスクが挙げられる。構造改革で過剰設備の解消が本格化すれば、失業者が増える可能性がある。雇用の受け皿として、戦略的新興産業や消費サービス関連企業が発展してバトンタッチできれば良いが、バトンを落とすようなリスクは残る。

第二に"金融不安"に陥るリスクが挙げられる。構造改革の過程では経営破綻は避けられないため、銀行の不良債権が増えて金融不安に陥るリスクも高まる。

第三に"消費失速"のリスクが挙げられる。昨年は輸出・投資の減速を消費の堅調が支えて目標達成に漕ぎ着けた。特に①電子商取引(EC)の隆盛(図表-15)、②住宅販売(家具など)の持ち直し(図表-16)、③自動車販売の復調(図表-17)が3つの柱となった。

中国経済11

今年もECはセキュリティ不安が浮上しない限り好調と見られるが、自動車販売は小型車減税が年末まで続くとはいえ株価下落が懸念材料に浮上、在庫を抱えた住宅販売には昨年末から陰りが見え始めている。従って、第2次産業から第3次産業へ、輸出・投資主導から消費主導への構造転換が2016年も順調に進むかに注目するとともに、"雇用不安"、"金融不安"、"消費失速"の3つのリスクにも注意したい。

(*1)中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には"(推定)"と付して公表された数値と区別している。

中国経済12

三尾幸吉郎
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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