公的年金だけでは老後の生活が不安な人は、老後資金を自助努力で準備する必要がある。実際に老後資金を準備する方法として、「個人年金保険」を勧められたことのある人も多いだろう。個人年金保険は一体どんな保険で、どういう人に向いているのだろうか。また、個人年金保険はおすすめしないといわれることもあるが、それはなぜだろうか。ここでは個人年金保険の特徴と問題点、またそれを踏まえた活用方法を紹介する。
自分に合ったお金の専門家(FP、保険の専門家、IFA、税理士など)を無料で紹介してもらえるサービス。保険だけでなく資産運用全般の相談が可能で、中立的な立場からアドバイスをもらうことができる。相談申し込みはこちらから。
個人年金保険とは

個人年金保険は、60歳もしくは65歳といった一定の年齢まで保険料という形でお金を積み立て、その後はそれまで積立てきたお金を原資として年金を受け取っていく仕組みの保険である。
個人年金保険にはいくつか種類があるが、最も一般的なのは、保険会社が積み立てたお金を契約時に決めた「予定利率」によって運用を行うタイプのものだ。月々に支払う保険料と将来受け取れる年金額はあらかじめ決まっており、「定額個人年金保険」と呼ばれる。通常「個人年金保険」といえばこちらを指すことが多い。
また、将来受け取れる年金額が変動する個人年金保険もある。これらは運用実績によって解約返戻金や年金額が変わるので、「変額個人年金保険」といわれる。円建てで運用するか、外貨建てで運用するかといった運用タイプでも区別され、外貨建てで運用されるものは「外貨建て個人年金保険」といわれる。
個人年金保険はおすすめしないと言われる理由
個人年金保険は将来の年金額を増やすことを目的とした保険だが、資産運用の観点からはおすすめされないこともある。ここでは個人年金保険がすすめられない理由を紹介する。
中途解約のリスクが高い
個人年金保険は、銀行預金よりも金利が高く安全な商品と思われることが多い。しかし、商品名に「年金」と入っていることからもわかるように、基本的には老後のための保険であるため、途中で解約すると損をするリスクがある。これは保険の途中解約に「解約控除」が発生するためだ。
保険契約を途中で解約する場合、掛け捨て型の保険でなければ「解約返戻金」を受け取ることができる。これは支払った保険料のうち、保険を契約した人の持ち分である積立金(責任準備金)が返還されるためだ。しかし、契約期間中に解約すると、この解約返戻金から手数料が差し引かれる。この手数料が解約控除である。通常、解約控除額は保険契約日からの経過年数が短いほど高くなる。
銀行預金の場合、定期預金を満期前に解約したとしても、利息は少なくなるものの元本を割ることは無い。しかし、個人年金保険を2〜3年で解約した場合、保険会社や契約の内容にもよるが、解約返戻金が払込保険料の70〜80%程度になることもある。また、一般的な個人年金保険では、解約時に受け取れる解約返戻金が払込保険料を上回るのには15年〜20年程度必要である。つまり、それ以前に解約してしまうとお金が減ってしまうのだ。
資産の流動性が下がる
一度個人年金保険に加入すると、保険料として支払ったお金は他の投資に回しづらくなる。これも個人年金保険のデメリットである。
資産の現金化のしやすさは「流動性」と呼ばれる。たとえば、銀行預金を現金として引き出すことは日常的に行っているはずである。銀行預金は現金化して生活費として即座に利用できるし、株や債券といった他の資産に交換することも容易であるため、流動性が非常に高い。
一方、個人年金保険は現金化するまでに手続きが必要になるし、年金受け取り前に現金化すると解約控除が差し引かれるため、途中解約の心理的ハードルも高い。つまり資産として流動性が低いといえる。
流動性は資産の特徴を決める大きな要因の1つである。流動性の高い資産であれば、万一の事態が起こってまとまったお金が必要になったとき即座に現金化できるし、将来的にリターンが良い金融商品が現れた場合でもそれらの商品を購入することが容易にできる。
資産の特徴というとリターンに注目しがちだが、資産全体で流動性の高い金融商品がどれだけあるのかもしっかり把握しておきたい。
満期まで保有していても運用効率は高くない
今の資産を将来に向けて増やしたいと考えている人にとって、個人年金保険は決してリターンがいい商品とはいえない。例えば、次のような個人年金保険を考えてみよう。
<個人年金保険の契約の例>
被保険者 :35歳の男性
保険料払込期間 :25年間
据置期間 :5年間
毎月の保険料 :2万円
受取方法 :10年確定年金
基本年金年額 :62万8,000円
この例では、35歳から60歳まで毎年24万円ずつ合計600万円の保険料を払い、65歳から毎年62万8,000円を10年間、合計628万円受け取ることになる。受取率は628万円÷600万円×100≒104.67%である。2023年時点でこの受取率は個人年金保険としては標準的なものだ。
4%も増えたのだから運用は成功と思うかもしれないが、これは30年間(受取期間も含めると40年間)運用しての結果である。年率に換算するとわずか0.203%にしかならない。
インフレに弱い
先に紹介したとおり、通常の個人年金保険は契約から15年〜20年以内に解約すると払込保険料より解約返戻金が少なくなり、また満期まで保有していたとしても年率換算だとリターンは高いとはいえない。
また個人年金保険(変額個人年金保険や外貨建て個人年金保険を除く)は、契約時に保険料と将来受け取れる年金額が決まっているため、インフレが進んだとしてもそれに応じて年金額が増えることは基本的に期待できない。
2022年はインフレが進み、特に10月以降は消費者物価指数が前年同月比で3〜4%程度上昇している。実際スーパーなどに買い物に行っても物の値段が上がっていることを実感する機会は多かったのではないだろうか。今後このようなペースでインフレが進むとは限らないが、物価が上がらないと考えるのも楽観的だろう。
変額タイプは為替リスク・価格変動リスクがある
個人年金保険には、保険料として積み立てたお金を運用に回す変額個人年金保険や、外貨で運用する外貨建て個人年金などの種類がある。これらは「保険」という名前がついてはいるものの、実質は投資を行っているため、通常の個人年金保険のように将来受け取れる年金額が決まっていないことは知っておくべきだ。
たとえば、外貨建て個人年金保険では将来円高が進めば受け取れる年金額は少なくなるし、変額個人年金保険も、運用がうまくいかなければ年金額が支払った保険料を下回ることは十分にあり得るのだ。
保険会社の破綻リスクがある
保険契約におけるリスクの1つに、保険会社の破綻(倒産)リスクがある。現時点で経営状況が良好な保険会社であっても、将来経済の状況が大きく変わって経営が傾くことはあり得るし、実際に2000年代に入ってからも破綻した保険会社はある。特に個人年金保険は、実際に年金を受け取るまでの期間が長くなりがちなため、破綻リスクは常に考えておくべきである。
もっとも、保険会社が破綻しても、契約者を守る仕組みとして生命保険契約者保護機構がある。これにより、保険会社が破綻した後は、別の保険会社(救済会社)か、上記の保護機構が保険契約を引き継ぐことになっている。
ただし保険会社が破綻した場合、支払った保険料の全額が保証されるわけではない。保険契約が引き継がれた場合、会社にもよるが、保険の条件は見直され、結果として将来の年金額が少なくなることもあり得る。
個人年金保険をおすすめするのはこんな人
ここまで個人年金保険がおすすめできないといわれる理由を紹介してきたが、個人年金保険もデメリットばかりではない。条件が合えば選択肢の1つとして検討すべきだ。ここでは個人年金保険をおすすめする人を紹介する。
保険料控除を活用したい
生命保険などに支払う保険料は所得控除の対象となるため、支払った保険料のうち一定の金額が所得から差し引かれ、契約者の所得税・住民税が軽減される。これを生命保険料控除という。
2012年1月以降の生命保険料控除は最高で12万円だが、契約する保険の種類によって「一般の生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」に分類され、それぞれで最高4万円までとなっている。つまり、現在死亡保障の生命保険(一般の生命保険)に加入し生命保険料控除を受けていても、個人年金保険料は別枠で控除が受けられるため、生命保険料控除の額を最大4万円増やせるのである。
ただし、個人年金保険料が「一般の生命保険料」とは別枠の「個人年金保険料」として認められるには、個人年保険の契約に「個人年金保険料税制適格特約」を付加する必要がある。この特約を付加していない個人年金保険は「一般の生命保険料」の控除になるので注意が必要だ。
個人年金保険料税制適格特約が付加できる個人年金は以下の条件を満たす必要がある。
- 年金の受取人は保険料を支払う者、あるいはその配偶者であること
- 保険料は年金の支払いを受けるまでに10年以上の期間にわたって定期的に支払う契約であること
- 年金の支払いは受取人の年齢が60歳になってから、かつ10年以上の定期または終身の年金であること
老後資金の準備に集中でき、iDeCoだけでは不安
「老後資金」「教育資金」「住宅資金」は人生の3大支出といわれるが、子どもの教育資金と住宅ローンに目処がつき、老後資金の準備に集中できそうな人は個人年金保険も選択肢となり得る。
老後資金を貯めるための私的年金制度としてはiDeCoもあるが、iDeCoは会社員や専業主婦の場合、掛金の上限が1万2,000円〜2万3,000円と決して多くはない。したがって、iDeCoだけでは老後資金が不安なのであれば、個人年金保険も検討に入れよう。
iDeCoと個人年金保険は別制度であるので、併用することは可能である。個人年金保険の用途を老後資金に限定できる場合、途中解約のリスクの高さや、資産の流動性が下がるデメリットは大きな問題にはならないだろう。しかし、依然としてインフレに弱いリスクがあることは留意しておきたい。
個人年金保険をおすすめしないのはこんな人
個人年金保険には、先に述べたような様々なリスクや制約があるので、それらのデメリットの影響を強く受ける人にはおすすめできない。ここでは具体的にどのような人に向いていないのかを紹介する。
資産運用をする意欲がある、または知識を学ぶ時間がある人
個人年金保険は契約後15年〜20年以内に解約すると解約返戻金が払込保険料を下回るものが多く、また満期まで保有していたとしてもリターンは高くないことは紹介した。
高いリターンが期待できずとも将来の年金額が決まっており、予定が立てやすいというのは確かにメリットだが、資産の運用先としては決して優れているものではないことがわかるだろう。
老後までの長い運用期間が確保できるのであれば、より高いリターンが期待できる運用先や、途中で現金化しやすい他の選択肢が存在する。具体的な金融商品は後述するが、自分で資産運用をする意欲がある人は他の運用方法を検討してみるといいだろう。
貯蓄が少ない人
手元に余剰資金がない時に個人年金保険を始めるのもおすすめはできない。というのも、突然お金が必要になった時にすぐ使えるお金(流動性の高い資産)がないと、結局は個人年金保険を中途解約することになり損をしてしまうからだ。
どの程度の貯蓄が必要かは人それぞれだが、1カ月の生活費の3〜6カ月分はみておきたい。
特に個人年金保険は保険料の支払い期間が長くなりやすい。病気や事故で働けなくなったり、会社が倒産したりなどの理由で突然まとまったお金が必要になることはある。
20〜30代で独身の人
独身の時に貯蓄代わりに個人年金保険に加入していた人が、結婚して支出状況が全く変わってしまい、保険を解約することになるケースは意外と多い。独身の時は無理なく保険料を払えていても、結婚資金や住宅ローン、教育費などが重なり月々の保険料が負担になるためだ。
また、保険料の支払いを継続できたとしても、20代〜30代であれば年金の受け取りまで30年以上ある。その間物価が上がらない保証はないことにも留意すべきだろう。
個人年金保険を始める時は、今の状況だけではなくライフプラン全体を通して中途解約のリスクやインフレのリスクを考慮しておきたい。
すでに別の個人年金保険に入っており、保険料控除を活用できない
個人年金保険に加入すると生命保険料控除という所得控除が受けられるが、この控除額には上限がある。具体的には次の通りだ。
▽生命保険料控除の金額(2012年1月1日以後に締結した保険契約分)
年間の支払い保険料 | 控除額 |
2万円以下 | 支払保険料の全額 |
2万円超 4万円以下 | 支払保険料×1/2 + 1万円 |
4万円超 8万円以下 | 支払保険料×1/4 + 2万円 |
8万円以上 | 一律4万円 |
年間の保険料が8万円以上になると、所得控除の額は4万円に固定される。したがって、すでに年間8万円以上の個人年金保険に加入しているのであれば、追加で新たな個人年金保険に加入しても生命保険料控除額が増えるわけではない。
生命保険料控除のメリットを生かすのであれば、年間の支払保険料にも注意する必要がある。
個人年金保険をおすすめしない人に推奨される金融商品
個人年金保険がおすすめできないと言われる理由と、実際におすすめしない人を紹介してきたが、では他に老後資金を貯めるためにはどのような方法があるだろうか。ここでは有力な金融商品を紹介する。
投資信託
個人年金保険の代わりとなる金融商品としてまず考えたいのが投資信託である。投資信託は元本が確保されている金融商品ではないが、個人年金保険に比べ様々なメリットがある。
まず1つめが、インフレに対応できる商品が多い点である。投資信託の中でも株式を組み入れた株式投資信託は、景気に応じて成長することが期待できる。物価が上がる時は一般的に景気がよくなり、株価も上昇するからだ。
2つめは、中途解約によって手数料を取られることがない点だ。投資信託は銀行の定期預金や保険と違って、満期のある商品ではない。売買のタイミングは自分で決める商品である。したがっていつ売却してもペナルティーを受けることはない。ただし、売却するタイミングで投資信託自体の価額が下がっていると、受け取る金額が元本を下回る可能性はある。
2つ目は、比較的現金化しやすいことだ。投資信託はいつでも売買できるため、まとまったお金が必要になった時でも売却して現金化しやすい。もちろん、価額が下がっている時は売却することに抵抗はあるが、投資信託では自分で売却するタイミングを選べるため、価額が上がっている時に現金化しておくことや、損失が出ていても自分が許容できるタイミングで売ることが可能だ。
投資信託は銀行や証券会社で購入できるが、「つみたてNISA」や「iDeCo」などの非課税制度を利用して積立を行うとより有利に運用ができるだろう。これら2つの制度では運用によって生じた利益にかかる税金が非課税になる。
ただしiDeCoには原則として60歳まで引き出せないという制約があるので、上記で紹介した投資信託の「現金化しやすい」というメリットがなくなることには注意が必要だ。その分iDeCoではさらに掛金が全額非課税になるという税制上のメリットがある。
債券
債券は国や地方自治体、会社が資金を調達するために発行する有価証券だ。基本的に発行体が破綻しなければ満期まで保有することで借入元本(額面)が戻ってくるし、その間に利子も受け取れる。安全性が高い金融商品であるため、銀行預金の延長として始めやすい。
日本国内で最も安全な債券は日本国が発行する国債だが、身近な銀行でも購入できる「個人向け国債」の2023年3月時点の金利は、固定5年で0.18%、変動10年で0.33%(いずれも税引前)である。利率を見ても個人年金保険の比較対象となりうる。
株式
運用期間が充分に確保できるのであれば、株式投資も選択肢の1つである。ただし、株式投資の一般的なイメージである、安い時に買い高い時に売って利益を追及するという投資は大きなリスクも伴う。
個人年金保険との比較対象としておすすめする株式投資は、長期間じっくり保有して、会社から分配される配当金や株主優待で利益を得るスタイルである。こうした利益が積み重なると、売却するときに株価が下がっていてもトータルで損になる可能性を低くすることができる。
個人年金保険の概要
個人年金保険は中途解約のリスクが高く、資産の流動性という点からはおすすめできないことを述べてきたが、逆にいえば他の用途に使いづらいため、老後資金を確実に貯めることができるという点はメリットともいえる。
ここでは老後資金としての個人年金保険の種類を紹介する。
終身年金/確定年金/有期年金とは
一口に年金といっても、その受け取り方はそれぞれである。個人年金保険を選ぶ時はそれぞれのニーズに合った受け取り方式の年金を選ぶことが大切だ。個人年金保険の受け取り方による主な種類は次の3つである。
終身年金 | 契約時に決めた年齢から、契約者が死亡するまで年金を受け取れる保険 |
確定年金 | 契約時に決めた年齢から、契約者の生死に関わらず一定期間年金を受け取れる保険 |
有期年金 | 契約時に決めた年齢から、一定期間年金を受け取れる。ただし、受け取れるのは契約者が生きている時に限られる |
個人年金保険が自分に合わないと感じたら
個人年金保険がおすすめされない理由を紹介してきたが、自分に合っていないと感じても慌てて解約すると損をしてしまうかもしれない。もし見直しや他の投資を検討するのなら、資産アドバイザーなどに相談するのも1つの方法だ。払い済みにして損失を少なくする提案や、老後資金に適した金融商品の紹介など、広い視点のアドバイスを得られるはずである。
ZUU onlineでは完全無料で投資家と資産アドバイザーのマッチングを行うサービスを提供しているので、利用を検討してはいかがだろうか。登録は以下のフォームから行える。
文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)