2016年の実質GDP成長率予想1.7%から0.7%へ下方修正した。主な理由として、1)グローバルな景気・マーケットの不透明感がかなり強く、米国の実質GDP成長率見通しも2.8%から1.9%へ大きく下方修正したこと、2)拙速な消費税率引き上げの大きく長い下押しと暖冬による消費の弱さだったこと、3)円高が大きく進行し、企業心理が下押されていること、4)10-12月期に果断に踏み込むべきであった日銀と政府の政策対応も1-3月期へと遅れてしまい、政策の限界をマーケットが意識しはじめてしまったこと、などが挙げられる。

景気が強く拡大する前に2017年4月に更なる消費税率引き上げが待っていることが、消費者心理の回復を妨げているようだ。遅れてしまった政策効果がこれから出てくること、原油価格の下落による交易条件の大幅な改善が企業収益を支えること、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が徐々に出てくること、そしてグローバルな景気後退とならず円高が持続的にならないことを前提にすれば、+0.5%程度である潜在成長率はまだ上回ると考える。

デフレ完全脱却に向けた政府のコミットメントは強く、財政による更なる経済対策が期待できる。1%程度の安定的な物価上昇率と整合的な自然失業率(3.5%)から3.0%に向けて失業率が更に低下を続け、実質総賃金が強く拡大し、デフレ完全脱却を実感する局面に入るだろう。名目GDPは着実に拡大しており、アベノミクスの経過はいまのところまだ順調であると判断できる。

そして、海外景気の回復による円安トレンドの再開と、成長戦略の推進による更なる企業活動の回復が、デレバレッジからリレバレッジへの転換(企業貯蓄率のマイナス化)となり、デフレ完全脱却の局面を一気に加速させることが、アベノミクスが成功するという予測の前提条件だ。

2016年に潜在成長率を十分に上回る成長率を維持することはアベノミクス成功のための必要条件であると考えられるが、リスクが高まって来ていることは確かだ。アベノミクスは正念場に来ており、政策対応を間違えれば、デフレに逆戻りしてしまうリスクもある。

物価予測:2%の日銀目標の早期達成は困難

総賃金の拡大とこれまでの円安の効果により、1%程度の物価上昇の中期的なトレンドは継続すると考える。短期的には原油価格下落の影響が残り、トレンドを大きく下回り、テクニカルに下落含みの0%程度の推移となろう。

2014年に消費税率引き上げにより潜在成長率を下回り、2015年が潜在成長率なみ、そして2016年が潜在成長率を若干上回る程度にとどまるとみられ、需要超過幅の拡大のペースは明らかに遅れており、原油価格が安定したとしても、物価上昇のペースは遅れるだろう。

2016年は、物価上昇が賃金上昇に若干遅れることによる実質賃金の上昇が消費活動を刺激するという展開になっていくと考えられる。しかし、日銀が目指している2017年度前半の2%の物価目標の達成は不可能となり、再び達成時期の先送りが検討されるだろう。

経済政策:追加金融緩和の確率は30%

金融機関は日銀当座預金の残高にマイナス金利が付されるため、より貸出や投資に積極的になり、景気刺激効果と円安効果があるというのが日銀の目論見である。内需の動向を最も敏感に反映すると重要視している日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIが今後上昇し、貸出態度が緩和していることを示すと予想するが、そうならなかった場合、日銀に対する批判の拡大と信任の低下が懸念されるリスクとなろう。

景気・マーケットの不透明感がかなり強い状態が続き、2016年のうちに日銀が追加金融緩和に踏み切る確率が10%から30%へ高まったと考える。日銀が2%の物価目標を達成するのは2019年で、最初の利上げは2020年と予想している。

財政政策:新たな経済対策の実施の可能性が高まる

連立与党(自民党と公明党)が衆議院で三分の二以上、参議院でも過半数の議席を確保しているため、国会運営は順調である。リフレを目指すアベノミクスは選挙で国民に強く信任され、成長戦略による構造改革を推進する力は維持されている。

国家戦略特区・電力・観光を含む規制緩和、法人税率引き下げ、少子高齢化対策、年金改革、地方創生、TPPなどの施策の進展が見えてきている。既に、企業の経常利益・売上高比率は史上最高まで改善してきている。

しかし、デフレ完全脱却に向けた需要拡大に対して、金融政策の緩和だけでは限界に来ていることが明らかになりつつある。リフレ政策であるアベノミクスと本来無関係である消費税率引き上げを含む緊縮財政により、ネットの国内資金需要が減少し、金融政策の効果が小さくなってしまっているからだ。

2016年度政府予算の国会可決後、新たな経済対策が成長戦略の改定とともに実施される可能性が高まってきた。名目GDP成長率が長期金利を持続的に上回るようになっており、税収の大幅な増加により、財政バランスの急速な改善が見込まれる。2020年度までには財政赤字は解消するだろう。2020年度の東京オリンピックの成功に向けて、官民挙げて日本経済を復活させる意気込みはまったく衰えていない。

リスク:構造改革の進展を注視

日本経済は内需だけで景気拡大を続ける力はまだなく、海外経済が低調で輸出が底割れてしまえば、景気後退となってしまう。景気回復力と物価上昇力が一時的に弱い中で、マーケットの政策期待は大きく、政府・日銀のデフレ完全脱却へのコミットメントの信任が失われれば大きなリスクとなる。

一方、企業のデレバレッジからリレバレッジに早期に転じる(異常であったプラスの企業貯蓄率がマイナス化)ことがあれば、成長率のアップサイドとなる。選挙で国民に信任されたことでアベノミクスの成長戦略による構造改革を推進する力が強いことがアップサイド・ポテンシャルであるが、それでも構造改革が進展しなければ、その後の反動によるダウンサイドが大きくなるだろう。

安倍内閣の支持率の動きに注意する必要がある。7月の参議院選挙に合わせ衆議院も解散総選挙、それに伴う経済対策の実施と消費税率引き上げ先送りの可能性も高まっている。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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