消費税引き上げ,物価
(写真=Thinkstock/Getty Images)

2月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比0.0%と、11・12月の同+0.1%の上昇の後、2ヶ月連続で上昇が止まってしまっている。確かに、これまでの円安とパートタイマーを中心とする賃金上昇などによるコストプッシュ(価格転嫁)の進展が、物価の押し上げに働いてきた。

コア消費者物価指数が0%近傍なのは原油価格の下落の影響が強いからで、コアコア消費者物価指数(除く食料及びエネルギー)は、2月も前年同月比+0.8%(1月同+0.7%)としっかりとした上昇となっている。

問題なのは2%の物価上昇である日銀の目標に向けた加速感が感じられないことだ。消費税率引き上げにより下押しを受けた2014年の弱い実質GDP成長率(0%)の後も、2015年は+0.5%と潜在成長率なみの水準にとどまってしまった。

2016年は、遅れてしまったが政府と日銀の政策効果がこれから出てくること、これまでの原油価格の下落による交易条件の大幅な改善が企業収益を支えること、労働市場の引き締まりにより総賃金の拡大が強いこと、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が徐々に出てくること、そしてグローバルな景気後退とならず円高が持続的にならないことを前提にすれば、+0.5%程度である潜在成長率はまだ若干上回ると考える。

しかし、2014年に潜在成長率を下回り、2015年が潜在成長率なみ、そして2016年が潜在成長率を若干上回る程度にとどまるとみられ、需要超過幅の拡大のペースは明らかに遅れており、原油価格が緩やかに持ち直したとしても、これまでの大幅な下落の影響が残り、物価上昇のペースは遅れるだろう。

2%の物価目標の達成時期は先送りか

内閣府は2015年10-12月期でGDP対比1.6%(8兆円程度)の需要不足があると推計している。コア消費者物価指数の前年同月比は3月以降秋口までは明確なマイナスに沈むと考えられる。

それ以降、原油価格が緩やかに持ち直すことを前提としても、年末までに若干の上昇、今年の原油価格下落の反動が出る年度末までに+0.5%程度に戻るのが精一杯だろう。

これまで物価上昇が堅調であるという日銀の見方を支えていたコアコア消費者物価指数の前年同月比の強さも、この数年間で需要超過幅の拡大がほとんどないこともあり、この2・3月がピークとなり、秋までにゼロ%近傍まで低下していくリスクが出てきている。

ポジティブに考えれば、2016年は、物価上昇が賃金上昇に遅れることによる実質賃金の上昇が消費活動を刺激するという、2014・5年とは逆の展開になっていくと考えられる。

しかし、そのような需要の拡大が、需要超過幅の拡大につながり、物価上昇に加速をもたらすにはかなりの時間がかかる。

もともと困難であるとみられたが、日銀が目指している2017年度前半頃の2%の物価目標の達成は不可能となり、再び達成時期の先送りが検討されるだろう。

消費税率引き上げの影響

消費税率引き上げがこれほどのデフレ圧力をかけることは政府・日銀の想定外であり、2017年4月の消費税率引き上げの延期の確率は30%程度へ高まったと考える。今さらではあるが、日銀内部でも消費税率引き上げ先送りは物価上昇目標の達成に追い風になるとの見方が出てきているとの報道が出てきている。

政府・日銀は、消費税率引き上げの景気・物価下押しの分析を避けてきたように見える。消費税率引き上げなどの財政再建によって、将来の金利高騰への懸念が小さくなり企業が投資を増やし、社会保障の持続性への信頼感が増し家計は消費を増やし、経済には刺激効果があるという、消費税率引き上げを推進してきた「安心効果」が、政府・日銀でも信じられてきた。

消費税率再引き上げの延期につながりかねない「安心効果」の否定はなかなか難しかったのだろうが、政治的思惑を除いて純粋に分析すれば、「安心効果」は否定されるだろう。

3月24日の経済財政諮問会議で、内閣府は「消費税率引上げに伴う予想外に大きな駆け込み需要の発生により、2013年度まで賃金・所得の伸びを上回って個人消費が増加したため、消費・貯蓄水準の調整が現在まで続いている可能性」を指摘した。

この指摘は、現在の消費活動の低迷が、消費税率引き上げの大きな下押し圧力がまだ残っていることが原因であると解釈できる。

「安心効果」があればこれほど長く駆け込み需要の反動が続くことは考えられないため、事実上「安心効果」は否定されたことになる。

実際に、消費税率引き上げによる消費者心理の萎縮がまだ残っている中で、食料品を中心とした値上げが続き、更に2017年4月に再度の消費税率引き上げが控えていることで、消費者は防衛的になってしまっているようだ。

「消費税が景気を下押しする効果を持ち、かつ、そのマイナス効果が物価にも下押し圧力をかける」との原田日銀審議委員の指摘は正しいだろう。

確かに、物価上昇は停滞気味で、4月の日銀展望レポートで物価見通しがまた引き下げられる可能性は高い。

しかし、日銀が早期に追加金融緩和に踏み切れば、消費税率引き上げはかなり大きな景気下押しとデフレ圧力をかけることを認めたことになり、安倍首相の消費税率再引き上げの判断、またはそれに関連した衆議院の解散の決断に影響する可能性がある。

2017年4月の消費税率再引き上げまで1年程度しかないところで、前回の駆け込み需要の反動が残り、消費が自律的な回復を示していないことは、安倍首相の再引き上げの決断の高いハードルになってしまっていると考えられる。

財務省出身の黒田日銀総裁は、消費税率引き上げはできる限り実施するほうがよいと考えているとみられ、政治判断に影響を与えないためにも、ぎりぎりまで2017年度前半頃に物価目標達成できるというスタンスは維持しようとするだろう。

2016年中の追加金融緩和の可能性は30%程度で、まだメインシナリオではないと考える。3月の東京都区部のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比-0.3%と、1・2月の-0.1%に続き三ヶ月連続の下落となり、下落幅も拡大してしまった。

原油価格の下落の影響を受けたエネルギー以外にも、需要の弱さに起因する下押し圧力も徐々に出てきているとみられ、進行してきた円高の影響も出てくるだろうから、日銀の物価シナリオのリスクが高まっている。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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