租税回避地のパナマを舞台に、世界中の富豪や権力者が税金逃れをしていた有様を、つぶさに明らかにしつつある「パナマ文書」。世界を騒然とさせており、「今世紀最大級の金融スキャンダル」とも言われ、米メディアでも連日、中国・英国・ロシア・アイスランドをはじめとする各国のドタバタ劇が伝えられている。

ところが、同文書に数百人の米国人の名が含まれていることが明らかになったにもかかわらず、米国の反応は、「対岸の火事」である。そこで明らかになってきたのは、米国の特定の州が租税回避地のような役割を果たしており、米国の富豪や権力者は、わざわざ外国にマネーを動かす必要のないという、驚きの実態だ。

米商務長官の親戚や米音楽産業のドンの名も

現在までに報道されている、「パナマ文書」に含まれる米国人の名は、中国生まれで、米国に帰化したウォール・ストリートの金融業界大物、ベンジャミン・ウェイ(魏天冰)氏、富豪で不動産王のイゴーリ・オレニコフ氏をはじめ、マサチューセッツ州を拠点とする著名実業家のジョナサン・カプラン氏などである。

特にウェイ氏は、中国企業を米国株式市場に続々と上場させてきた立役者であり、その過程で不正取引があったとして、現在、米当局が捜査中の人物でもあり、注目されている。さらに、元ハリウッドの有名子役であり、ハイアット・ホテルズの遺産相続者の一人でもある、リーセル・プリツカー・シモンズ氏の名もある。彼女は、現在、米商務長官を務めるペニー・プリツカー氏の親類であり、「パナマ文書」がオバマ政権中枢を巻き込むスキャンダルに発展するのか、興味のあるところだ。

また、ハリウッド関係では他にも、米音楽産業のドンで、映画プロデューサーでもあるデヴィッド・ゲフィン氏の名が挙がっている。こうしたなか、米民主党左派の大物で、ヒラリー・クリントン前国務長官と並ぶ大統領候補級の米上院議員、エリザベス・ウォーレン氏は4月7日、「パナマ文書で名前が挙がった米国人について、税金逃れの不正や犯罪がなかったか、米司法省に加えて、米財務省も捜査すべきだ」との書簡を発表した。

ウォーレン上院議員は、こうした租税回避地が、テロリストの資金集めやマネーロンダリングに悪用される可能性を指摘している。ウェイ氏やシモンズ氏やゲフィン氏がテロリスト支援に手を染めていたとは考えにくいが、単純な個人資産増加の手段として、税逃れをしていた可能性は否定できない。司法省や財務省の捜査で、驚くべき「財テク」の事実が明らかにされるかも知れない。

ネバダやデラウェアが「米国内のパナマ」

一方、これだけの著名人物の名が挙がっているにもかかわらず、米国内の受け止めは冷静だ。それには、それなりの理由がある。現在、「パナマ文書」データを解析中の、米ワシントンに本部を置く国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は、「同文書内で、あまり多くの米国人の名が見当たらない理由は、彼らがわざわざパナマの法律事務所を頼らなくてもよいからだ。租税回避のための『オフショア企業』が、ネバダ州・デラウェア州・ワイオミング州などで、簡単に設立できるからだ」と解説している。

政治評論サイト『ポリティコ』の分析記事によると、「もし『パナマ文書』が1980年代初頭に世に出たのであれば、文書中に含まれる米国人の数は、とてつもなく大きかっただろう。当時の米国人富豪や有力者にとって、パナマは金融機関による報告義務や為替の制限がゆるい、人気の場所だったからだ」という。

「だが、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領(パパ・ブッシュ)が1989年に米軍をパナマ侵攻させて、当時の独裁者、マヌエル・ノリエガ・パナマ大統領を政権から追い落とした時から、パナマは米国の監視下に置かれ、それに伴って米国人富豪は、パナマを避けるようになったのだ」と、同記事は説明した。

そうした動きとほぼ時を同じくして、米国内の特定の州が、マネーを引き付けるための規制緩和を断行した。特に、「ショーンK」こと川上伸一郎氏がダミー会社をいとも簡単に設立したデラウェア州をはじめ、ネバダ州などで怪しいペーパーカンパニーが雨後の筍のように涌いて出ることとなった。

カリフォルニア大学バークリー校のガブリエル・ズックマン教授は、「昨年、複数の国際機関が、米国を世界有数の租税回避地として認定した」と嘆く。今や、米国そのものが税逃れ天国と化しているのである。

例えばネバダ州では、ネット(www.Nevada123.com)で309ドルを支払えば、簡単にペーパーカンパニーを設立することができ、土地や財産をその企業の所有にしてしまえば、それらが米国の内国歳入庁をはじめ、連邦政府機関やメディアの目から、きれいに隠れてしまう。捜査機関でも、なかなか入り込みにくい仕組みなのだ。デラウェア州政府は、こうした企業からのペーパーカンパニー維持費用として、1年に10億ドル(1086億円)もの収入を得ており、取り締まる動機は薄い。

だが、「パナマ文書」に米国人の名があまり見当たらなかったことで、これらの州の租税回避機能が、かえって明るみに出てしまった。米大統領選の争点になる可能性もあり、富豪や権力者は今から戦々恐々だ。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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