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(写真=PIXTA)

「この国は、いずれ中国に侵略されるぞ」−−。豪州在住の筆者の友人(オーストラリア人)が冗談交じりにこぼした言葉だ。

中国と豪州は政治的、経済的に長年に渡って相互援助の関係にある。そんな間柄で「侵略」という言葉は思いつかないが、あながち間違ってもいないようなのだ。武器は莫大なカネ。中国人投資家が仕掛けた「不動産戦争」が勃発している。

勢い止まらぬ中国人投資家 農場を丸ごと購入

中国人投資家が豪州の大手ビーフメーカー「S・キッドマン&コーポレーション」所有していた農場地1100万ヘクタール、国土の1%に値する土地を買い占めた。報道によると、契約額は3億7100万ドル、アイルランド一国に値する面積だというから驚きだ。

ここで、少しだけ豪州での不動産事情について触れてみよう。土地には「自由保有権」たる曖昧な権利が制定されている。これは国内の土地は「王」に属しており、完全な所有権は認められないというものだ。

とは言うものの、自分名義で土地を購入し家を建て、投資目的で家賃収入を得たり、担保物件としての設定なども普通にできる。

では、今回の騒動がなぜ起きてしまったのか? それは、外国人投資家が豪州での永住権がなくても、カネさえあれば自由に土地が購入できるからである。住居用または商業用土地、農地、鉱山作業場のそれぞれ異なる土地分類に対し、莫大な費用を要する事前許可は必要になるが、それをクリアすれば問題はないのである。

事前許可の金額は国によって上下がある。中国、米国、日本などは一番高く、商業用土地では10億9千400万ドルと桁違いではあるが、中国人投資家のような半端のないカネ持ちは考えもアイデアも規格外であるのかもしれなせい。

豪州人の「不動産観」とは

豪州人にも日本人と似たような「不動産信仰」が根付いていると言えるだろう。土地や建物は決して安いとは言い難く、日本と同等かそれを上回る場合が多い。

そういった背景はあるが、ANZやコモンウェルスバンクなどを中心に、ほとんどの銀行が「First Home Loan(ファースト・ホーム・ローン」と呼ばれる、「初めて家を購入する人向けのローン企画」を強く推奨している。なぜなら、家を初めて購入する人に対し助成金が200万円近く出るからである。

たとえ頭金が少なくても、「よし、頑張ってみるか」そんな気分にもなってくるだろう。「マイランド・マイハウス」は究極の夢であり、率直なところ家賃を他人の為に払う「Dead Rent(デッド・レント)」はこりごりなのである。

宙に浮いたような存在「王」に対し、国民の不動産に対する「土地は王に属する」という認識は曖昧と言えるかもしれないが、「所有」することに対しての意欲は人一倍高いのである。

家のオークションに現れるのは中国人ばかり

不動産信仰が厚いオーストラリア人が思う事はやっぱり「自分の家を持ちたい」ということである。

銀行でローンの相談をして購入の目途が立ち、早速気に入った物件を不動産屋に連絡をするも、「売却されてしまいました」

何日か前に出たばかりの広告だというのにどうしてだろう。理由を聞くと、中国人ファミリーが周辺の家を3件まとめて購入したらしい。

また豪州には「オークション制度」があり、日を設けて家を競売にかけることが多い。一軒家のオークションは主要都市を中心に車で一時間以内の郊外でもよく見られる。またシドニーやメルボルンの中心地などでは高級マンションにも注目が集まっている。

そのオークションで驚くのは「ここは中国?」と思うしかないような中国人の多さだ。

こういった背景の裏側には中国での不動産事情が絡んでくる。中国人は原則的に自国の土地を所有することは認められていない。不動産に関しては、日本で言う「定期借地権」に近い法律が適用され、家やマンションを購入しても「土地使用権」のみが与えらるといった厳しい法律である。

こういった中国人の不動産事情が国民を海外物件に目を向けさせ、新たな考えへと導いていったのであろうか。

今回の中国人投資家による農地売却には、多くの意見が飛び交った。ギラード首相からアボット首相に政権が渡った頃から既に中国人投資家への不動産売却は始まっていたが、これだけの規模で行われた売却がなかっただけなのである。

しかし、今回の中国人投資家の農地売却によって考えなければいけない問題は、土地が他国に渡ったということだけではなく、国民が必要とするミルクやオージービーフの生産高減少にもつながることである。それに反して何が増加するのか。国民の不安である。

疑心暗鬼な政府のパフォーマンスに疑問の声は高まるばかり。タンブル首相の今後の対応にも注目が集まるところだ。(トリ―・雪香、豪州在住のフリーライター)

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