仏大手自動車メーカー、ルノーのカルロス・ゴーン取締役兼CEOの報酬をめぐって、5月3日エマニュエル・マクロン仏経済相から法規制の介入をともなう「協議要請」が発せられた。

フランス政府がゴーンCEOの高額な報酬に異議を唱えていたことは数年前から報じられていたが、引き下げられるどころか過去3年間で3倍以上に吊り上がっている現状に、政府がついに業を煮やしたといったところだ。

しかしルノーの筆頭株主であるとはいえ、民間企業の役員報酬に国家が「法的権限」を振りかざして介入する事態は極めて異例であることから、ゴーンCEOへの批判的な意見に混じり急拡大中のフランス政府の影響力に疑問を唱える声もあがっている。

大規模な人員整理が進む中、CEOの報酬は3倍に増加

ゴーンCEOの高額な報酬に対しフランス政府が眉をひそめはじめたのは数年前のことだ。

2013年1月、販売の伸び悩みを理由に、2016年までにフランス国内の従業員の17%に相当する8000人の人員削減を発表したにも関わらず、ゴーンCEO自身は247万ユーロ(約3億171円)の報酬を受け取っていたことが発覚。

従業員の生活を犠牲にし、フランスの経済成長を凍結させてまで高額な報酬を確保しようとするゴーンCEOの姿勢に、世論の反発はもちろん、フランス政府も警告を発した。

これに対し「ボーナスの30%の受け取りを2016年まで延期する」ことに同意したゴーンCEOだが、同じくCEOを務める日産自動車からも2013年度の報酬として9億9500万円(約813万ユーロ)が支払われていたことなどを自ら明らかにした。

その後もゴーンCEOは謙虚な姿勢を見せる気配はなく、2014年にはルノーから722万ユーロ(約8億8193万円)の報酬を確保。翌年、今度はインドのチェンナイ近郊に位置する製造工場から3000人の大量人員削減を発表する一方で、725万ユーロ(約8億8632万円)の報酬額が提案された。政府の介入が本格化したのはこの時だ。

マクロン経済相の反撃 着実な根回し

4月30日の株主総会ではゴーンCEOの報酬に関する採決が行われ、政府を含む54%が「ゴーンCEOの報酬が高額過ぎる」と反対。マクロン経済相は政府が所有する株を15%から20%に引き上げ、反対派が過半数となるように根回しをするなど、念入りに準備を整えていた。

また昨年5月には「2倍議決権(保有期間が2年を超えた株への議決権が2倍になる法案)」を導入し、ルノーへの関与力を着実に強化していた。

ゴーンCEO側は2014年のルノーの業績が3倍に増したことを理由に報酬の正当性を主張。勢いを増す政府の圧力から何とか逃れようと「2倍議決権」の廃止を試みるなど骨を折っていたが、功は実らずの結果となった。株主総会で隣席していた主席者の話によると「(ゴーンCEOは)驚がくのあまり口もきけない様子だった」という。

フランス政府の狙いは日産?

「大規模な人員削減を行い、利益を独占する行為はフランス経済を凍結させる」として、個人の利欲より国家の利益を優先させようというフランス政府の意向と、「CEOとして当然受け取る権利のある報酬」を確保しようというゴーンCEOの意向は真っ向から対立。

しかし採決自体には拘束力がなく、株主総会後には予定通りの報酬を支払う取り決めがなされたため、マクロン経済相は5月3日、「報酬水準の見直しに応じないようであれば立法措置も辞さない」との意思を表明。法的権限をもった筆頭株主としての権力を世界中に誇示するに至った。

メディアの報道の多くはゴーンCEOの高額な報酬に焦点を当てているが、一部では「政府が最高経営責任者よりも優位な立場にある」というイメージに違和感を抱く声があがっているほか、今回のフランス政府の対応をの裏をよみ、「ルノーを介して金の卵を産む雌鶏、日産への影響力を拡大する狙いではないか」との見方まででている。

政府が要求している「協議」は数週間以内という期限が設けられているため、今後事態はますます緊迫した展開を見せるだろう。(アラン・琴子、英国在住のフリーライター)

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