財政,経済財政諮問会議,GDP
(写真=PIXTA)

5月11日に開かれた経済財政諮問会議で、財政制度等審議会での議論を基にした各国の財政収支の対GDP比の推移の資料が提出された。

リーマンショック後、各国が2010年のG20 の合意等を基に財政健全化に取り組み、「2009年から2015年の財政収支の改善幅を見ると、多くの国で、日本よりも、早い段階で、速いペースで、改善している」と指摘し、日本の財政改善のペースが遅いと結論付けている。

日本には緊縮できる余地あり?

財政緊縮などによる財政健全化を早めるための根拠として使われているようだ。データは2015年10月にIMFが発表した世界経済見通しである。

日本の数字を見ると、2009年から2015年までの財政収支の改善幅は4.5%(-10.4%から-5.9%)と、イギリスの6.6%やアメリカの9.4%と比較し、かなり小さいように見える。最もペースが速い年の改善幅をみると、日本の+1.4%に対して、イギリスは+2.1%、アメリカは+3.2%となっている。

この数字が意味するのは、日本では過度な緊縮策はとられておらず、まだ緊縮を強める余地があることを示しているのだと考えられる。

しかし、IMFは2016年4月に新しい経済見通しを発表しており、日本の財政はより改善していることが分かっている。2014年度の国民経済計算確報が2015年12月に公表されたことを反映し、日本の財政収支が2014年が-7.3%から-6.2%へ、2015年が-5.9%からー5.2%へ大幅に上方修正された。日本の2009年から2015年までの財政収支の改善幅は+5.2%となり、イギリスの+6.3%と遜色はなくなっている。

実際はすでにイギリスと遜色なし

更に、日本の最もペースが速い年の改善幅をみると、2014年の+2.4%となっており、イギリスの+2.1%(2013年)を上回り、消費税率引き上げが強い緊縮になっていたことも明らかになった。

この2016年4月のIMFの推計にも問題がある。予算は、税収を過小に、金利支払いを過大に見積もる傾向があり、それに基づいた2015年の財政収支の赤字幅の推計も過大で、年末の国民経済計算確報でまた修正される可能性があるからだ。

理論的には同水準になるはずである日銀資金循環統計では、一般政府の収支が2015年まで既に公表されている。(資金循環統計は既に新基準に移行しており、国民経済計算確報が年末に新基準に移行すれば、資金循環に近い結果に変化する可能性がある。)

2020年度までに財政赤字解消の可能性も

資金循環統計ベースでは、日本の2009年から2015年までの財政収支の改善幅は+6.0%となり、イリスにほぼ追いつくことになる。更に、日本の最もペースが速い年の改善幅は2014年の+3.8%となり、財政の崖があった米国の+3.5%(2013年)をも上回る強い緊縮になっていたことが分かる。

そして、日本の2009年から2015年までの平均改善ペースをみると、年率1%程度になっており、他国(イギリスは+1.0%)と遜色はないことが分かる。最新のデータを見ると、日本の財政健全化が他国と比較して遅れていなことが分かる。

アベノミクスによる景気拡大が継続すれば、このまま年率1%程度の平均ペースで財政収支が改善していき、2020年度までには財政赤字を解消することも可能であろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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