目の前いっぱいに広がる仮想世界。現実と見間違えるようなその世界で、いろいろな体験ができる「VR(バーチャルリアリティ)」がメディアで取り上げられるようになってきている。
VR、VRと最近の報道ではかまびすしい一方で、新しく出てきたようなVRだが、構想自体は50年以上前からあり、現在の形になるまでは紆余曲折もあったという。そこで今回は、VRが辿ってきた歴史について解説する。
黎明期の1960年代:VRの原型が誕生
インターネットがそうであったように、VRも元は軍事目的で開発が進められてきた経緯がある。後にゲームなどの娯楽産業へと用途が拡大されていき、PCゲーム用のヘッドマウントディスプレイとして注目されるOculus Riftや、ソニーの <6758> プレイステーション(PS)VRも登場してきた形だ。
現在のヘッドマウントディスプレイでVRを使うというVRの原型はしかし、1960年後半にまで、その歴史をさかのぼることができる。VRの原型は、米国、ユタ大学で教鞭を執ったアイバン・サザーランド教授が、1968年に開発した言われている。当時のディスプレイは大型で、非常に重かったため、天井から吊されていたものの、ヘルメット付きゴーグルを頭に着けて映像を見る点では、現在VRに広く使用されている形と共通している。
サザーランド教授は「VRの父」とも呼ばれ、ITの最先端ともいえるVR分野の原型を、およそ50年前に考案していたということだ。
ちなみに、同教授は「CGの父」でもある。サザーランド教授の研究所には多くの優秀な人材が集まっており、パーソナルコンピューターの生みの親であるアラン・ケイや、ピクサー・アニメーション・スタジオの創業者で映画「トイ・ストーリー」を制作したエド・キャットムルも、師事していたのだ。
第一の波:1980年代後半~90年代前半にVR映画が登場
サザーランド教授の構想により生まれたVRの成長は一直線だったわけでない。むしろ何度かその発展が注目されるような「波」があったといえそうなのだ。その一つが1980年代後半の、VRのおもむろな盛り上がりだろう。
同年代の後半には、ヘッドマウンドディスプレイ以外にもさまざまなセンサー付きアクセサリーが作られた。VPN社が製造した「DataGlove」というセンサー付きの手袋も同時期に発売され、手の動きを読み取り、VRに活用することが可能になった。
また日本の企業もVR分野で存在感を放っていた。1993年には松下電工が3Dの技術を使って「VRシステムキッチン」というサービスを始めた。消費者が仮想空間で自分の好みにあったシステムキッチンをデザインできるというもので、多数のメディアに取り上げられた。2000万円もするシステムキッチンの発注もあったという。
1999年にはCGも駆使した映画「マトリックス」がヒット。作中で、主人公のネオは当初、日常生活を送っていたが、後にその世界がすべて人の脳内だけにある「仮想現実」だと明らかにされる。架空の世界をあたかも現実であるかのように感じさせるという点では、VRを上手く取り入れた映画だといえるだろう。こうした契機を経て、広く一般にもVRが浸透していったと言える。
第二の波:Oculus Riftの発売とPSVRの登場で普及も本格化か?
さて、再びVRの波が来るにはさらに、10年の月日を要した。2000年以降の冬の時代には、目立った商品や作品は生まれなかった。
他方で、「Oculus Rift」(オキュラスリフト)というヘッドマウントディスプレイが市場に現れるなど、2016年は「VR元年」だと言われ、次の「波」が来ているといえそうだ。
「Oculus Rift」は、仮想現実を手軽に体験できるヘッドセットだ。スキーのゴーグルを大きくしたような形をしており、PCと接続後、頭に装着すると視界には3Dで作られた仮想世界が広がる。またヘッドトラッキングという機能を搭載しており、例えば頭を右に動かせば、仮想世界内でも右側が見え、自分がまるで仮想世界にいるような感覚が味わえるだろう。
またOculusには、大きな味方を得ている点でも普及拡大の旗手になっている。同社がfacebookの傘下に入ったことから、米IT大手、SNSのリーダー的な企業のバックアップを受ける形になり、今後、さらに発展、成長していくとみられているのだ。
もう一つ、注目されているのはPSVRだ。同製品はソニーのPS4で使えるヘッドマウントディスプレイとして市場に登場する予定で、さまざまなゲームソフトの開発も進んでいる。人気ゲームシリーズでもVR対応版が登場する見通しで、バンダイナムコホールディングス <7832> のエースコンバットシリーズや、カプコンの「バイオハザード」もVRに対応する予定だ。
「第三の波」は来るか?
Oculus RiftとPSVRが市場投入となり、「VR元年」となりそうな2016年。第二の波だとすれば、「第三の波」は来るのだろうか。実際、米Googleや、Oculusを買収したFacebook、韓国のサムスンなども本腰を入れて、VRに取り組み始めており、競争激化も視野に入っている。
他方で、VRの進化スピードは日に日に加速。人間には五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)があり、現段階では目(視覚)と耳(聴覚)を通じて仮想現実を体験できるところまで来ている。そして、次の段階として進められているのが、手(触覚)で仮想現実の中の物体を感じられるようにするというものだ。
すでに市場にも登場しており、2016年5月に発売された「アンリミテッドハンド」と呼ばれるコントローラーは、前腕の特定の筋肉に電気的刺激を与えることで、筋肉を動かし、あたかも物をもっているような感覚を与えるという。
またVRの利用はエンターテイメント分野以外にも広がっている。例えば、外科医から整備士まで、さまざまな職業のトレーニングに利用できる可能性がある。高所恐怖症や飛行恐怖症の治療など医療の分野でもVRが利用されている。こうしたVRの応用が広く普及していく段になれば、「第三の波」となるのも夢物語では決してないだろう。(ZUU online 編集部)
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