トランプ氏が大統領に当選して以降、アメリカ、日本、中国などの株式市場が上昇するなか、韓国市場は下落している。トランプ氏の当選は韓国経済にどのような影響を与えるのだろうか。
対米輸出で外貨を稼ぐ韓国
実業家のトランプ氏が、経済政策を重視するとみられている理由は2つある。ひとつめは大規模減税や雇用創出、インフラ投資など経済成長率を押し上げること、もうひとつは保護主義的な動きである。環太平洋経済連携協定(TPP)の離脱を宣言し、北米自由貿易協定(NAFTA)も見直しが予想されている。韓米自由貿易協定(KORUS)の再協議も避けられないだろう。
内需が小さい韓国は輸出で経済を支えている。2014年のGDP1兆4100億ドルに対し、輸出額はおよそ5726億ドルと輸出依存度が極めて高く、主要輸出品目は、無線通信機器、自動車、半導体などだ。サムスン、LG、現代をはじめ、日本などから輸入した部品を加工した製品や半製品を中国やアメリカなどに輸出している。対日貿易は慢性的な赤字体質だが、対中貿易や対米貿易は黒字である。
韓国の2015年のアメリカ向け輸出額は698億ドルで、中国に次ぐ第二の輸出先である。輸出総額5267億ドルの13%を占め、対米貿易の黒字258億ドルは韓国の貿易黒字全体の28%を超える。アメリカとのFTAが再協議になると、結果によっては韓国の対米輸出はもとより、国内経済にも影響が出ることは避けられない。
困惑する韓国経済界
韓国の柳一鎬経済副首相兼企画財政部長官は、2016年11月10日の経済懸案点検会議で、トランプ氏のインフラ投資拡大や製造業復活などの政策が韓国にとって新たな機会になり得るとしながら、貿易と投資を積極的に拡大する方策を模索すると述べ、トランプ氏の経済面の公約を分析して輸出や貿易など韓国経済に及ぼす影響を見極めたい考えを示した。
韓国貿易協会も貿易摩擦の深化につながらないよう、貿易国間での相互協力が求められるとした上で、韓国経済に及ぼす影響をできるだけ小さくするため、さまざまなケースに対応するシナリオを用意しなければならないとし、韓国経営者総協会も韓国の経済と金融市場に及ぼす否定的な影響を最小化するよう政府、企業が一致協力して迅速な対応システムの準備に着手しなければならないと指摘する。
アメリカと中国、狭間に揺れる韓国
朴槿恵政権は大統領就任以来、アメリカと中国の狭間で揺れてきた。環太平洋経済連携協定(TPP)には乗り遅れたが、中国と二国間FTAを締結し、両国との関係をなんとか保ってきた。中国は最大の貿易相手国であり、アメリカは第二の貿易相手国であると同時に軍事上の重要なパートナーである。
二大国に良い顔を見せてきた韓国だったが、アメリカが主導してきた環太平洋経済連携協定(TPP)への参加表明に加え 2016年7月には米最新鋭ミサイル防衛システム「THAAD」の在韓米軍への配備で合意。アメリカを選択したことから中国との関係は悪化の兆しを見せはじめた。
二国間FTAを推し進める韓国にとって、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加は、経済政策というより、アメリカとの関係を強化する政治的な意味合いが濃い。トランプ氏が離脱を宣言したことで、TPPに参加する意味合いは薄れた。トランプ氏はまた、軍事面でも韓国と日本の防衛のために米国人の税金が使われているとして、韓国、日本、ドイツなど同盟国に米軍駐留費用を請求すると発言している。
このタイミングを中国が見逃すはずはない。韓国はアメリカか中国かの再選択を迫られることになるだろう。
友か、敵か
トランプノミクスが韓国経済にチャンスとなる側面がないわけではない。
トランプ氏は中国を「為替操作国」に認定して45%の高関税を課すなどと強い姿勢を示しているが、アメリカ市場において、韓国のライバルは中国である。
なかでも半導体・ディスプレーなど情報技術(IT)分野で、韓国がアメリカ、ドイツ、日本など先進国との技術差を狭められずにいる間に、中国は韓国との技術差を縮めてきている。パネル面積ベースの生産量は、トップの韓国が47.0%(2014年)、46.5%(2015年)、45.0%(2016年)と微減傾向にある一方で、中国は12.7%(2014年)、17.4%(2015年)、22.2%(2016年)と大幅に増加。テレビや携帯電話といった韓国企業が大きいシェアをもつ分野でも中国勢のシェアが拡大している。もし、トランプ氏が公言通り中国製品に高額関税を課すことになれば、韓国には追い風になるかもしれない。
ただし、トランプ氏はこれまでのような八方美人は許さないという観測もある。「友か、敵か」を問う可能性が高いのだ。韓国政府はこれまで、南シナ海に対する立場を明らかにしてほしいというアメリカの要求に沈黙を通すなど、中国が絡む問題では立場を曖昧にしてきた。
中国への依存度が高い韓国は、経済と政治の両面でジレンマに陥るだろうが、一日も早く国政を正常化し、アメリカの同盟国としての立場をはっきりさせることが鍵になるに違いない。(韓国在住CFP®佐々木和義)
【編集部のオススメ記事】
・「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
・資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
・会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
・年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
・元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)