誰も住んでいない空き家が年々増加し、社会問題になっている。日本では、世帯数はそのままなのに、人口が徐々に減少しているのだから、当然と言えば当然の現象である。

行政書士である筆者は以前、成年後見制度の件で相談を受けたAさんから、今回は「空き家問題」についての相談を受けた。「現在実家に母が一人で住んでいるが、今度特別養護老人ホームに行くことになったため、空き家になってしまう。どうしたらいいだろうか」というものだ。

実家の処分をどうするか?

相談者のAさんには、同じ市内に住む「要介護3」の母親がいる。父親は、5年前に既に他界している。今までは、自分名義の土地を持ち自分名義の家に住んでいた。今回その母親が特別養護老人ホームに入所することになった。またAさんには他に弟がいるが遠方に住んでいる。Aさんも弟も家族をもち自分名義の家を所有している。

Aさんは、母親が特別養護老人ホームに入所することを機会に実家を処分したいと考え、当職のもとに相談に来られたのである。母親は、認知症ではないが、自分で契約等の手続きを行うことは、難しい状態であるということだ。

家を処分することについてAさんにもまったく迷いがなかったわけではない。実家だから自分の生まれ育った家でもあり、家族との思い出も詰まっている。できればそのままにしておきたいが、誰も住まなくなった家の維持や保存にかかる費用も馬鹿にできない。固定資産税も毎年支払わなければいけない。

そこで家と土地を売却して母親が入所する特別養護老人ホームの費用に充てたいと考えるようになったのである。家と土地を売却すれば、今後の家の維持費や税金もかからないため、一挙両得と考えたのである。

このような場合、Aさんが母親の成年後見人になって代わりに家や土地の売買契約を行うことも考えられる。

しかし以前Aさんから、母親の契約関係の相談を受けた際にこの「成年後見制度」について説明を行ったところ、Aさんは手続きの煩雑さに驚き断念したという経緯がある。

そこで私は今回Aさんに「家族信託」を紹介した。この「家族信託」にはあまりなじみがないかもしれない。「信託」とあるので、文字どおり相手を信頼して自分の財産を託すというということであり、その相手が家族ということになる。

「家族信託」とは自分の資産を信頼ある家族に預ける方式をいう。高齢者が自分の財産を第三者に預け管理を任せる方法が「成年後見制度」。手続きが煩雑な上に成年後見人に報酬を支払う必要があり、さらに最近では専門家(弁護士や司法書士など)が成年後見人を担当していても、知らない間に使い込んでしまう使い込みをするトラブルが頻発している。

しかし「家族信託」では身内である家族に自分の財産を託すわけで、第三者に使い込まれることもなく報酬を支払う必要もない。

家族信託の具体的な手続き

当職がAさんに行ったアドバイスとしては、契約書、具体的には「信託契約書」を作成である。この契約書には、主に「信託の目的」、「受託者(Aさん)」、「委託者(Aさんの母)」、「受託内容」などを明記することになる。

受託内容は受託者と委託者との話し合いで決まるが、Aさんの場合には母名義の家や土地の処分権ということになる。またその他に将来的に発生する可能性がある財産の処分を追加しても構わないとAさんにアドバイスをした。

この「信託契約書」は、必ずしも「公正証書」にする必要はない。財産の処分権という権利・義務が発生する書面であるから、契約書に押印する印鑑は実印を用い、印鑑証明書を添付する必要はある。契約書を公正証書にしなかったからと言って、決して契約そのものに欠陥があるわけではない。

しかしAさんには、契約書を「公正証書」にすることをお勧めした。今回はAさんの第一の目的は、母親の所有する家・土地という、高価な財産の管理・処分であることから、かなり重要な契約であるため、公正証書という公的な証拠を残しておくことは、後々のトラブルを回避できると思ったのである。

私はまず「信託契約書」の原案を作ってAさんに確認してもらった。その後公証役場に連絡を取り、公証人と細かな文言の修正を行った上で公正証書にしてもらった。

Aさんのような状況に置かれる人はますます増えてくるだろう。「成年後見制度」は、専門家に財産の管理を任せる厳密な制度である。しかし、厳密なために手続きが煩雑であり、成年後見人に対して報酬の支払い義務が生じる。親の財産管理の一方法として検討してはどうだろうか。(井上通夫、行政書士)

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