シンカー:物価は確かに持ち直しているが、政府・日銀の2%の物価目標に向かった加速感はない。日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中でも、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。政府も、財政を拡大してでも、2019年10月の次の消費税率引き上げまでにデフレ完全脱却を成し遂げる決意を持っているとみられる。しかし、2020年度のプライマリーバランスの黒字化への拘りが余りに強く、財政政策による本格的なデフレ完全脱却の試みはマーケットに信用されておらず、それが期待インフレ率の上昇を妨げているようだ。景気回復がしっかりしてきてもデフレ完全脱却への政策の手を緩めない政策当局の意志をしっかり見せないと、期待インフレ率は強く上昇しないだろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

4月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.3%と、3月の同+0.2%から上昇幅が拡大した。

エネルギーの寄与がマイナスからプラスに変化する中で、昨年12月までのマイナスの状態から水面上に浮上した形だ。

日銀は4月の展望レポートで、景況判断を「緩やかな回復基調を続けている」から「緩やかな拡大に転じつつある」へ上方修正した。

「拡大」は需要超過の領域に入りながら、景気が引き続き上向いていることを示す。

確かに、2017年の実質GDP成長率は3年連続で潜在成長率を上回る可能性が高く、「マクロ的な需給バランス」は更に改善していく可能性が高い。

企業の強い雇用不足感によりパートタイマーの時給は大きく上昇しており、サービス業でも物価上昇圧力が徐々に強くなっていくだろう。

4月の新年度入り後、企業はコスト増を背景とした値上げに踏み切り、物価上昇率は拡大していく可能性が高い。

5月の東京都区部のコア消費者物価指数は前年同月比+0.1%(4月の同-0.1%)と、17ヶ月ぶりに上昇した。

季節調整済前月比では4月の新年度入り後に2ヶ月連続で+0.1%となっており、まだ弱いが、物価の方向性は上向きつつあるようだ。

しかし、4月の全国コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品およびエネルギー)は前年同月比0.0%と、物価上昇圧力はまだ強くない。

2014年の消費税率引き上げ後の消費者の生活防衛意識、すなわちデフレマインドが強く、低価格戦略からなかなか企業が脱せていないようだ。

物価上昇に加速感はなく、2017年末までにコア消費者物価指数で1%程度に戻るのが精一杯だろう。

消費者の生活防衛意識が緩み、デフレマインドからインフレマインドに変化していくには、失業率が2.5%程度に近づき、賃金上昇が加速する必要がある。

そのような動きが明確になるのは、2018年になるだろう。

それまで日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中でも、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。

政府も、財政を拡大してでも、2019年10月の次の消費税率引き上げまでにデフレ完全脱却を成し遂げる決意を持っているとみられる。

しかし、2020年度のプライマリーバランスの黒字化への拘りが余りに強く、財政政策による本格的なデフレ完全脱却の試みはマーケットに信用されておらず、それが期待インフレ率の上昇を妨げているようだ。

海外の投資家の間でも、2014年4月に消費税率を引き上げ、デフレ完全脱却のモメンタムを弱体化させてしまったことは、かなり評判が悪いようだ。

2019年10月にも再度の消費税率引き上げが控えており、デフレ完全脱却のモメンタムが強まっても、また財政緊縮により腰折れさせてしまうリスクを強く感じているようだ。

日本の財政問題は深刻で消費税率引き上げを含め財政再建を早急に進めなければいけなという見方はほとんど聞かれない。

また、2020年度のプライマリーバランスの黒字化が国際公約であり、それが達成されないと日本の信認が低下するという見方もほとんどないようだ。

一方で、財政政策のストップ・アンド・ゴーを続け、デフレ完全脱却に失敗した場合の信認の低下に対する警戒感は強い。

景気回復がしっかりしてきてもデフレ完全脱却への政策の手を緩めない政策当局の意志をしっかり見せないと、期待インフレ率は強く上昇しないだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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