米国の国際貿易委員会(ITC)が、富士フイルムHD <4901> の磁気テープ部品が特許侵害の可能性があるとして、関税法に基づく審査を開始したと発表した。ソニーの訴えを受けて富士フイルムなど日米5社を対象に調査するもので、特許侵害が認められると米国内での販売停止などを命じられる。

米国内あるいは第三国の企業がこのところ、企業を狙い撃ちにする提訴は多くなっている。ITCはドイツ、オランダの企業が4月訴えた特許侵害の訴えで、ニコンのデジタルカメラの調査も開始する。ニコンは、これら2社が特許を無断で使用していると販売停止や損害賠償などを求めて、日本などの裁判所に提訴している。両ケースとも、極めて似通った争いといえる。

安全、低価格で大容量の磁気テープ

日米貿易,裁判,特許侵害
(写真=FreshStock/Shutterstock.com)

磁気テープは、大容量・安全性・低価格を売り物にして、この2,3年再び注目されている。富士フイルムは既存のテープの40倍、広辞苑3万冊に相当する100テラバイト(TB)余りの大容量テープをすでに実用化した。

この磁気テープはリニアテープオープン(Linear Tape-Open、LTO)と総称されている。LTOは、IBM、シーゲイト・テクノロジー(現クアンタム)、ヒューレット・パッカード(HP)の3社によって開発されたオープン規格の磁気テープ技術。2000年に第1世代LTO-1が発売されて以来、現在はLTO-6まで開発された。富士フイルムのLTOはその最新世代に属する磁気テープである。

富士フイルムは2015年、磁気テープで世界最高の記録密度を実証した。製品にするとテープ1巻で220TB(テラバイト。1テラは1024ギガバイト)という大容量である。

富士フイルムは製造・販売差し止めと賠償求め東京地裁に提訴

富士フイルムは昨年8月、自社開発した磁気テープの製造技術特許(2008年登録)が侵害されたとして、製造・販売の差し止めと1億7600万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしている。

東京地裁に提出された訴状によると、富士フイルムは磁気テープの製造技術の特許を2003年に出願、08年に登録した。ソニーが15年から製造・販売している製品が、この特許を侵害していると訴えている。

富士フイルムの技術は、データを記録する際に必要な磁性体を独自に均一に微粒子化して、100TBの大容量を実現したという。ソニー製品は185TBの大容量化を実現して、販売を開始していた。

磁気テープめぐる対決深刻に

磁気テープは、1980年代にはTDKなどの製品で全盛期を迎えていたが、光ディスクやデジタルメディアに押されて後退。しかしこの数年、磁気テープは再評価されている。ハードディスクと異なり、ランニングコストが安く,ネットワークにつなげず大容量のデータを保存できることから、セキュリティー上も安心という利点があるのがその理由である。

ソニー、富士フイルム初め、内外の企業を巻き込んだ磁気テープに関連する訴訟は、こうした事情を反映して、国際的な場で雌雄を決するという深刻な事態となっている。(長瀬雄壱 フリージャーナリスト、元大手通信社記者)

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