シンカー:2018年度の政府予算編成に向けた骨太の方針では、財政再建よりもデフレ完全脱却を重視する姿勢がより明らかになった。2020年度のプライマリーバランスの黒字化の方針(財政再建の手段)は維持されたが、債務の名目GDP比率の安定的に引き下げること(財政再建の目標)も強調された。財政再建の手段が目標より重視されるこれまでの異常な状況は修正された。政策として優先すべきはデフレ完全脱却であり、過度な懸念による財政緊縮はその動きを妨げてしまうという見方がある。一方、財務大臣の諮問機関である財政制度審議会の建議は、日本の財政状況が深刻で財政健全化は将来世代に対する責務であると主張している。両者の主張を比較しやすくするため、財政制度審議会の建議の冒頭の文章を、デフレ完全脱却優先の主張に書き換えてみた。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

デフレ完全脱却優先の主張

日本のデフレ完全脱却の動きを加速させることが急務であることは言うまでもない。

日銀資金循環統計では、一般政府の収支は2012年の8.8%の赤字から2016年の2.0%まで、アベノミクスなどによる経済ファンダメンタルズの好転を背景に大幅に改善している。

ここへ来て、財政赤字に対する過度な懸念から更なる財政緊縮を早急に求める動きがあり、景気を停滞させ、日本のデフレ完全脱却を妨げてしまうリスクが再び大きくなっていることは看過できない。

内閣府「中長期の経済財政に関する資産」によれば、「ベースラインケース」において、2025年度にGDP対比3.9%の財政赤字の発生が見込まれている。

しかし、同じ推計では、民間の貯蓄率は8.5%もあり、国際経常収支の黒字も4.6%あることをみると、会計ではなくマクロ経済の視点では、2025年度までの時間軸では、財政赤字が経済の足かせになっていることは全くなく、懸念すべきは民間の需要不足とデフレのリスク、そして生産性の向上に向けた投資の不足であろう。

また、国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」によれば、2026年には人口は8808万人まで減少し、65歳以上の高齢者は全人口の38.4%になると推計されている。

21世紀前半に高齢化率が上昇するため、高齢化による社会保障関連需要の増大に対し、少子化による支え手の減少という厳しい現実が待ち受けている。

これらの実態に目をそむけず、早期にデフレから完全に脱却し、名目GDPが拡大する良好なビジネス環境を作ることで企業を刺激し、投資を拡大し、雇用機会と教育により若年層に急なラーニングカーブを登らせ、経済の生産性の改善に着実に取り組んでいく必要がある。

ロボティクス・AI・IoTなどの産業の大きな変化を追い風にし、経済の縮小均衡ではなく、生産性を著しく向上させ、それに支えられた所得の増加による財政健全化への道筋をつけることは、将来世代に対する我々の責務である。

財政再建優先の主張(2017年度の財政制度審議会の建議)

日本の財政状況が深刻であることは言うまでもない。

政府2020年度(平成32年度)のプライマリーバランス(以下、PB)黒字化達成に向けて、歳出削減や効率化を進め、平成28年度、29年度と2年間にわたって一般歳出の伸び及び社会保障関係費の伸びについて「経済・財政再生計画」が示した「目安」を達成した。

こうした成果は評価すべきであるが、ここへ来て、財政規律が緩んでいるのではないかと指摘されるような状況が生じているのは看過できない。

内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(平成29年1月25日)(以下、中長期試算)によれば、「経済再生ケース」においても 2020年度(平成32年度)に8.3兆円のPB赤字の発生が見込まれ、前回(平成28年7月)より赤字見込み額が拡大している。

また、国立社会保障・人口問題研究所が本年4月10日に発表した最新の「将来推計人口」によれば、2065 年(平成77年)には人口は8808万人まで減少し、65歳以上の高齢者は全人口の38.4%になると推計されている。

前回の調査時に比べ出生率が若干改善したものの、21世紀前半に高齢化率が上昇することに違いはなく、高齢化による社会保障費の増大、少子化による支え手の減少という厳しい現実は変わらない。

これらの実態に目をそむけず、財政の持続可能性の改善に着実に取り組んでいく必要がある。

財政健全化は、将来世代に対する我々の責務である。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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