「昼顔」「あなたのことはそれほど」など不倫を題材にしたドラマがヒットしている。ひと昔前は、不貞、つまり浮気と言えば夫が行う例がほとんどというイメージだったが、最近はそうでもなさそうだ。

先日相談に来たAさん(男性)も、「実は別れた妻が、婚姻中に浮気をしていたようなのです。」と、妻の不貞についての悩みを持つ一人であった。

Aさんと妻のBさんが離婚した理由は?

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(写真=Antonio Guillem/ Shutterstock.com)

Aさんと妻Bさんが離婚したのは3年前、当時2人の間に4歳の女の子がいた。離婚する3年程前から会話が少なくなり、どちらかともなく離婚話が出た。半年程度話し合いが続き、親権はBさんが持つことで離婚が成立した。

離婚理由は、いわゆる「性格の不一致」であり、どちらかに落ち度があったわけではないので、慰謝料はなし、養育費はAさんがBさんに毎月3万円ずつ支払うことで決着した。

ところが最近になって、BさんがBさんの会社の上司Cさんと同居していることが分かった。まだ、BさんとCさんとは籍を入れてないようだが、いずれは結婚するつもりだと聞かされた。

しかも、Aさんがもっとショックだったのは、BさんがAさんとの婚姻中にCさんと交際していたということである。「それって浮気じゃないのか?」とAさんがBさんに問いただしても、「交際は離婚話をしていた時期だから、不貞に当たらないと弁護士に言われた」と言って、自分の正当性を主張するばかりだった。

Aさんとしては、婚姻中にCさんと交際していたことをBさんが認めたのだから、どうにかして「慰謝料」をもらいたい、「今からでも請求できますか?」と、相談に来られたのである。

「慰謝料」は請求できるか?

Aさんの相談はやや複雑なので、いくつかに分けて説明する必要がある。まず、BさんがCさんと交際していたことが不貞、浮気に当たるのかということである。

民法第770条第1項では、離婚の理由を5つ示しているが、その1つ目に「配偶者に不貞な行為があったとき」と書かれている。これは、夫婦は相手に対して「貞操義務」を負っているためで、それを裏切ることは大きな背信行為に当たるからだ。

この「不貞行為」が原因で離婚をした場合は、不貞行為をされた人は、不貞行為をした配偶者に、離婚を申し出ることができると同時に、慰謝料を請求できることになる。ただ、この「不貞行為」には、いくつか難しい点がある。

まず不貞行為の証明である。例えば、興信所に依頼して、決定的な証拠を押させるなどの方法を執らない限り、相手が浮気をしている立証はむずかしいのである。ホテルへ出入りする写真があったとしても、「何もしていない。具合が悪かったから休んでいただけ」と白を切られる可能性もある。

また、Aさんの場合、BさんとCさんとが交際を始めた時期も問題である。Bさんが言っていた「交際は離婚話をしていた時期だから……」が本当なら、不貞には当たらないのである。これを聞いて「そんなことがあるのか」と思われる人も多いとかもしれないが、これは実際に「離婚裁判」で、しばしば論じられことである。

不貞について、「たとえ不貞が事実であっても、夫婦生活が破たんしていた場合には、慰謝料の請求は認められない」という大原則があるのである。この場合の「夫婦生活の破たん」とは、具体的にどういうことか

多くの場合は、夫婦が既に別居していて、通常の夫婦関係ではない状態を指すのである。しかもこの場合、一方が勝手に家を飛び出し、もう一方が夫婦関係の修復を望んでいるケースは含まれず、あくまでお互いが「夫婦生活の修復は不可能」と、認識している場合に限られる。つまり、「離婚」に向けて話し合いを続けているなどの具体的なものが必要となるのだ。

Aさんの場合、これに当たるか?いやそれ以前に、Bさんが浮気をしていたことをAさんが今から立証できるのかという問題がある。

「慰謝料」の時効

さらに、Aさんにとってはショックな現実がある。それは「慰謝料」の時効の壁である。実は離婚の場合、財産分与の時効が離婚後2年、慰謝料の時効が同じく離婚後3年となっているのである。

この時効、何のために設けているのかというと、慰謝料を請求できる権利があるのに3年間それを使わなかった人を法律は保護しない、という意味なのである。またこのA さんのように、離婚後何年も経って、離婚原因の証明は難しいという現実も踏まえていると言える。従って、残念ながらAさんの場合は、今から元妻に慰謝料を請求することは難しいということになる。

ちなみに、それでは現在支払っている「養育費」を支払わずに、それを慰謝料代わりにすればいいのでは、と思う人がいるかもしれないが、残念ながら養育費の請求は子どもが行っているという形になるので、それもできないのである。(井上通夫、行政書士)