(本記事は、掛越直樹氏の著書『なぜかお金持ちを引きつける経済トークの磨き方』秀和システム、2017年6月21日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
金メダル数と株価の関係とは
金メダルと言って、まず思い浮かべるのが「オリンピック」です。
オリンピックの開催時期が近づくと、テレビの買い替え需要が発生したり、顕著な成績を上げた選手にはその人が関わったスポーツグッズが売れたりなどといったことが挙げられます。
このような傾向が続けば、株価もそれに反応して上昇する可能性も出てくるのでしょうが、ここで金メダル数と株価には相関関係があるのでしょうか?
1952年以降の夏季・冬季オリンピックで日本人が金メダルを1個以上獲得した大会を抽出して、開会式前日の日経平均と閉会式当日のそれを比較して、騰落率を算出してみました。
大会数は全部で22(夏季16、冬季6)に上り、うち、騰落率がプラスになったのは12 、マイナスになったのは10、最大は1952年のヘルシンキ大会で+7.6%、最小は1992年のアルベールヒル大会で▲5.1%ということになりました。
次に、これを金メダル10個以上獲得した大会と「アジア・オセアニア」、「ヨーロッパ」、「北米・中南米」といったように地域別で見てみましょう。
まず、前者については騰落率プラスが5、マイナスが1となり、プラスが優勢になりました。
後者については、アジア・オセアニアがプラス2、マイナス5、ヨーロッパがプラス7、マイナス3、北米・中南米がプラス3、マイナス2という結果になり、プラスが優勢なのはヨーロッパ、一方、劣勢だったのはアジア・オセアニアという結果になりました。
このように考えると大会期間中に株価が上昇しやすいのは日本人が金メダルを10個以上獲得して、かつヨーロッパでの大会が有利だといえそうです。(過去の事例では1972年のミュンヘンと2004年のアテネ)
今後のオリンピックの予定は、2018年冬季の韓国・平昌、2020年夏季の東京、2022年冬季の中国・北京とアジアが3大会連続で続きます。
金メダルと株価のアノマリーからは不利といえそうですが、それを払拭できるよう日本選手と株価には頑張ってほしいものです。
●まとめ
・1952年以降日本人が金メダルを1個以上獲得した全大会と株価の騰落率はプラス12、マイナス11となり、プラスが若干優勢だった
・また金メダルを10個以上獲得した大会とヨーロッパで開催された大会については騰落率プラスが全大会と比べてもさらに優勢であった
・逆にアジア開催の大会では、騰落率プラスが劣勢であり、2018年以降、アジアで3大会連続で開催される夏季・冬季オリンピックにとっては不利なアノマリーである
ノーベル賞ウィークに上昇しそうな株とは
次はノーベル賞と株価との関係についてです。
ノーベル賞は例年毎年10月上旬頃から各賞が発表されます。
これまで日本人は1949年に物理学賞を受賞した湯川秀樹氏から2016年に医学・生理学賞を受賞した大隅良典氏まで計25 名、ノーベル賞を受賞してきました。
ノーベル賞を受賞した各氏は企業と連携しているケースが多く、受賞が決定すると、業績への期待から当該企業の株価が上昇するケースがあります。
たとえば、先の大隅氏の場合は細胞の中で役目を終えたタンパンク質の分解と再利用を促す「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明してノーベル賞を受賞した訳ですが、この受賞を受けて、翌日、「コスモバイオ」という企業の株価が急騰しました。
コスモバイオは、オートファジーの関連試薬を手掛けていることに加え、大隅氏と共同開発している水島昇・東大教授とオートファジーに関する研究を続けてきました。
大隅氏が日本時間で2016年10月3日にノーベル賞を受賞したという一報が伝わると、翌、2016年10月4日、コスモバイオの株はストップ高をつけました。
他にも2014年に青色発光ダイオードの発明でノーベル物理学賞を受賞した赤崎勇氏は豊田合成とともに共同研究をしていた関係で、赤崎氏のノーベル賞の一報が伝わると、豊田合成の翌日始値の株価は前日比+2.4%上昇した経緯があります。
このように、ノーベル賞受賞者と関係している企業はその恩恵を授かる可能性を秘めており、株価も大きく反応するケースが多いのですが、紹介した以外にも、ここ数年、9月から10月にかけて上昇する銘柄があります。
それは「文教堂グループホールディングス」という会社です。
文教堂は首都圏を中心に店舗を構える書店で、文教堂グループホールディングスは文教堂の持ち株会社にあたります。
ここの株価は例年9月から10月にかけて急騰することが多く、たとえば2016年のケースで言えば、2016年8月31日の文教堂グループホールディングスの終値は519円でしたが、約1カ月強経過した10月5日の株価は高値631円をつけています。
この間の騰落率は+21.6%となり、同期間の日経平均の▲0.25%を大きく上回っています。
文教堂グループホールディングスが上昇した要因としては、村上春樹氏のノーベル文学賞受賞に対する期待によるものが大きいと思われます。
村上氏がノーベル賞を受賞すれば、彼の著作が大きく売れ、それが書店の売上に大きく貢献する可能性があることか ら、同社の株価が上昇しているのではないかと思われます。
ただ村上氏は毎年のようにノーベル文学賞候補に上がっていながら、受賞を逃しています。
ですから、文教堂グループホールディングスの株も村上氏ノーベル賞落選の報とともに株価は下落していく傾向にあるようです。
ちなみに2016年10月5日は高値631円をつけていたとお伝えしましたが、1カ月以上が経過した2016年11月7日には終値が336円と高値から▲46.8%も下落しています。
もし、村上氏がノーベル賞を受賞していたら、受賞日決定以降も株価が上昇する可能性はあったかもしれません。
しかし、落選決定以降の文教堂グループホールディングスの株価は、毎年のようにこの傾向にあるように思われます。
今回は同社の株価がどうなるのか、注視しておきたいところです。
●まとめ
・ノーベル賞受賞決定をうけた直後は受賞者と共同研究をしている企業などは今後の期待から株価が上昇する傾向にある
・その一例としては、大隅良典氏がノーベル医学・生理学賞を受賞した翌日のコスモバイオの株価が挙げられる
・その他としては、村上春樹氏のノーベル文学賞受賞期待から文教堂グループホールディングスが9月から10月にかけて上昇する傾向にあるが、2016年までは残念ながら村上氏はノーベル賞を受賞したことがなく、落選の報が入る度に、同社の株価は大きく失速する傾向にあるようだ
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