(本記事は、渡部清二氏の著書『日経新聞マジ読み投資術』総合法令出版、2018年12月19日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

日経新聞のマジ読み投資術:データを2種類に分ける

日経新聞マジ読み投資術
(画像=PIXTA)

データを見るポイントは、いろいろあるマーケットデータをストックデータとフローデータに分けることである。

ストックは蓄えや貯蔵を意味する言葉で、その時点での保有・保管されている量のことを指す。

一方のフローは流れのことで、一定期間に取引された量を指すものだ。

ストックを表すデータとしては、現金預金の量、負債額、ある商品の保有量などが挙げられるだろう。

フローの例としては、生産量、流通量、販売量、消費量などがあり、貿易収支やGDPなども毎年の変化や流れを表すデータであるため、フローに分類できる。

この2つは連動するデータで、フローがプラスならストックが増え、マイナスならストックが減る。ただし、基本的には別の種類のデータと考え、切り分けて扱わなければならない。

フローを見るだけではストックはわからず、逆にストックを見るだけでフローを語ることもできないのだ。

例えば、ある商品の販売量が前年より増えたという記事を読んだとしよう。販売量が増えれば保有者数も増えるため、フローの増加によってストックも増える。

しかし、フローのデータは一定期間に限定したものなので、来年のことはわからない。投資先候補として見るなら、この商品の市場そのものがどれくらいの規模なのかを把握する必要があり、そのためにはストックのデータを見なければならない。

そのため、新聞からデータを拾っていく場合も、まず記事が伝えている数字がフローなのかストックなのかというフィルターで分ける。

フローはフロー、ストックはストックでデータを集めていき、その上でマーケットの規模や成長を分析していくということだ。

マーケット規模を表すのはストックデータ

実際の記事を見てみよう。

『国富、16年ぶり高水準16年末1.6%増、地価上昇』(2018年1月18日)

・記事ポイント
1)土地や住宅、工場などの資産から負債を差し引いた国全体の正味資産(国富)は2016年末時点で3350.7兆円と、15年末に比べ1.6%増えた。
2)企業の設備投資や公共投資で固定資産が10.1兆円(0.6%)増えたほか、対外純資産も経常収支の黒字などを受けて9.9兆円(2.9%)増えた。
3)国民総資産は2.9%増の1京496 兆円、負債が3.5%増の7146 兆円となり、ともに過去最大だった

これはストックデータである。

国富は、個人、企業、政府などが持つ資産から負債を引いた金額のことで、この記事は、国富が増え、リーマンショック以前の水準まで回復したことを伝えている。

『マネー膨張躍らぬ経済世界のカネ1京円、10年で7割増』(2017年11月14日)

・記事ポイント
1)世界のドルの量を示す「ワールドダラー」は17年10月末で約6.9 兆ドル(約785 兆円)。10年で3.4倍。
2)世の中に出回る現金に預金などを足した世界の通貨供給量は、実体経済の規模を上回るペースで膨らんでいる。
3)起点はリーマン危機後に主要中央銀行が推し進めた金融緩和策。

この記事には、世界で流通するドルの量(ワールドダラー)が約6.9兆ドルであることや、2016年の通貨供給量が87.9兆ドルで、世界のGDP総額より16%多いことなどが書かれている。

これらもストックデータだ。

世界経済の中でドルがどれだけの力を持っているか。

経済活動から生まれる付加価値と通貨の供給量がどんな関係性になっているか。

そのようなことをイメージしながら読んでいくと、世界で供給されている通貨の規模感が捉えやすくなるだろう。

『空前のカネ余り世界翻弄』(2017年11月14日)

・ 記事ポイント
1)世界経済は空前の低金利とカネ余りに向き合う未知の局面を迎えた。
2)1619年にイタリアの都市国家ジェノバで付けた金利の最低記録を
1990年代後半、日本が更新。そこから世界は低金利時代に突入した。 3)世界的な低金利で、投資のための借金の利払い負担は軽く、投資利回り
から利払いを引いた最終利回りは、まだ投資魅力があると考える投資家が多い。

これもストックデータを含んでいる記事で、本文内には、日米欧の企業の貯蓄が合計50兆円なると書かれていた。

企業がお金を持っているので、銀行が金利を下げても借りる人が増えない。

結果、金利はどんどん低くなり、過去500年の中でもっとも低水準になっているという話である。

このような記事を読んでいくと、なんとなくかもしれないが「世界にお金が余っている」「余ったお金を持て余している」といったイメージが湧いてくるだろう。

個人や企業はお金を持っている。そのお金をどう扱っているのだろうかと考えると、前述した世界株高の記事ともリンクする。

そのようなイメージを基礎情報として頭に入れておくことが大事だ。

ちなみに、新聞は日々の出来事を伝えるメディアであるため、フローデータの方が多い。売上高や販売量などに関する数字もよく載っているため、見つけやすいだろう。

一方、ストックデータにはあまりニュース性がなく、新聞に載る機会が少ない。

時期的には、年末年始や年度末の前後によく載る傾向があるので、その時期を中心に探してみると良いだろう。

フローデータで業界や企業の勢いを見る

次にフローデータを見てみよう。

『インド車市場独を抜く昨年400万台、中米日に次ぐ』(2018年1月12日)

・記事ポイント
1)インドの2017年の新車販売台数は401万台となり、ドイツを抜き世界4位に浮上した。
2)インド市場は今後も年率1割近い成長が続き、20年にも日本を抜き世界3位に浮上する。
3)全体の8割を占める乗用車では、最大手マルチ・スズキが前年比15%増の160万台超となりシェアは49.6%と前年より2.6ポイント高まった。

これはインドの新車販売台数に関する記事で、フローデータである。

記事の内容は、インド内での販売台数が400万台に伸び、中国、アメリカ、日本に次ぐ世界4位の規模になったというものだ。

この記事の読み方としては、まずインドの市場が成長しているという内容であるため、関連企業の業績も伸びるだろうと期待できる。

記事内にもスズキ(マルチ・スズキ)という企業名が出てくるが、自動車が投資先候補として有望なセクターであることもわかる。

フローの視点で見ると、スズキのシェアが前年より2.6ポイント高まり、49.6%になったという点が重要といえるだろう。

インドでは年間400万台新車が売れている。

インドの人口は日本の約10倍だ。

日本では約500万台が売れていることを考えると、インドは若い人の比率が大きい経済成長中の国であるから、理屈的にはこの数字が今後10倍以上の5000万台くらいまで膨らむ可能性もある。

仮にそうなったとき、スズキはどうなるか。

シェア50%を維持したとしたら、年間2000万台くらい売ってしまうかもしれない。

国内最大手のトヨタ自動車でも、世界での販売台数は1000万台ほどだ。

そのデータと紐づけて考えると、スズキがひたすら右肩上がりで伸びていくイメージがより具体的になってくるのだ。

データに注目しなければ、もしかしたらこの記事も「インドの経済成長はすごいなあ」という程度の感想で終わってしまうかもしれない。

もう少し読んだとしても、せいぜい「スズキってインドで人気があるんだ」くらいで、次の記事に行ってしまうのではないか。

そこが、ただの流し読みとマジ読みの違いだ。

銘柄選択にほぼ直結する情報を読み流してしまうのはもったいない。

それを避けるための有効な手段が、データに注目することであり、データをもとにして企業や株価の伸びを想像することなのである。

日経新聞マジ読み投資術
渡部清二(わたなべ・せいじ)
複眼経済塾代表取締役塾長
1990年筑波大学第三学群基礎工学類変換工学卒業後、野村證券入社。野村證券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最後のページまで読む「四季報読破」を開始。「日経新聞・読み合わせ会議」を主宰。2013年野村證券退社。2014年四季リサーチ株式会社設立、代表取締役就任。2016年複眼経済観測所設立、2018年複眼経済塾に社名変更。2017年3月には、一般社団法人ヒューマノミクス実行委員会代表理事に就任。

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