(本記事は、渡部清二氏の著書『日経新聞マジ読み投資術』総合法令出版、2018年12月19日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

日経新聞マジ読み投資術 誰が儲かるかを連想

日経新聞マジ読み投資術
(画像=Pressmaster / Shutterstock.com)

連想で大事なポイントは「誰が儲かるか」を考えることだ。

これについては、アメリカのゴールドラッシュを思い浮かべるとわかりやすいだろう。

1848年ごろの話だ。

ゴールドラッシュは、カリフォルニアの川で取れる砂金を求め、大勢の人が集まったという出来事だ。

当時のアメリカ西部はまだ開拓が始まったばかりで、そこに何十万人という人が集まったのである。

砂金探しをした人の中には、この出来事で大金持ちになった人もいた。

一方、砂金を探さずに儲かった人もいる。

その1人が、砂金探しをする人たちの作業着としてジーンズを売り、のちに世界的なアパレルメーカーとなるリーバイ・ストラウスの創業者リーバイ・ストラウスだ。

砂金が取れる。ならば、砂金をたくさん集めればお金持ちになれる。

これが一次的な発想だとしたら、彼はもう少し先を読んだ。

砂金集めには作業着が必要だ。ならば、頑丈なジーンズが売れるだろう。

そこに思い至ったことがリーバイスの成功のカギであり、この話の中に半歩先を見る重要性が凝縮されているのである。

同様の連想方法でスコップやタライを売った人も儲かった。

このような例を踏まえた上で、テーマ株の中心にいる企業だけでなく、その周りで儲かっている会社を探す視点が重要なのである。

IoTが普及したときを考えてみる

では、具体的に考えてみよう。

例えば、IoT(Internet of Things)というキーワードがある。この分野はここ数年のテーマ株の1つで、関連銘柄の注目度も高まっている。

証券会社のウェブサイトなどで検索すると、IoTの関連株もたくさん見つかる。たくさんありすぎて困るほどだ。

重要なのは「誰が儲かるか」である。

IoTはあらゆるものにセンサーをつける。ストレートに連想すると、センサーを作る会社が思い浮かぶだろう。

では、連想を半歩進めるとどうなるか。

IoTはセンサー同士がデータをやりとりする仕組みであるから「通信業界が儲かるかもしれない」と考えることができる。

データを安全にやり取りするためにはセキュリティが重要になるし、大量のデータを蓄積するクラウドやデータセンターも必要になる。ならば、そのような事業を手がける企業も儲かる可能性がある。

また、そもそもIoTは製造業の効率化を目的とするインダストリー4.0から生まれている。

ということは、生産工程の効率化によって製造業が儲かる可能性は大きいだろうし、同じような変化がほかの業種で起きる可能性もある。

例えば、物流はどうか。

荷物にセンサーをつけて管理すれば、どこに、どの荷物があるかが把握できる。トラックの位置がわかれば運送ルートを効率化できる。

そんなイメージを膨らませていくと、物流の仕組みが変わり、運輸、運送関連が儲かるかもしれないという考えが浮かぶ。

ほかにも、建設、自動車、医療、農業など、さまざまな業界での応用例が考えられるだろう。

「自動車ならこんな使い方ができそうだ」「医療ならこんな風に活用できる」といった具体的なイメージが湧くかもしれない。

そのような連想を経てたどり着いた会社が、もしかしたらIoT業界のリーバイスになるかもしれない。

出版不況から何を読み取れるか

次に、実際の記事を見ながら連想してみよう。

『青山ブックセンター六本木店閉店へ』(2018年5月8日)

・記事ポイント
1)「青山ブックセンター」の六本木店が6月25日の営業を最後に閉店。
2)今回の閉店で青山ブックセンターの店舗は本店の1店舗のみになる。
3)青山ブックセンターは2004年、債権者の破産申し立てで全7店舗(当時)を閉店。現在は新古書店などを展開する「ブックオフコーポレーション」が運営している。

これは六本木にあった大きな書店が閉店したという記事だ。

背景として、青山ブックセンターが04年に破産申し立てを行い、7店舗閉店したことや、現在はブックオフコーポレーションが店舗を運営していることが書かれている。

この記事からストレートに連想できるのは、出版業界や書店運営が厳しいということだろう。

活字離れによって、書籍や雑誌の売れ行きが低迷していることはよく知られているが、書店が厳しいのは、もしかしたらインターネットで本を買う人が増えたからかもしれない。

そう考えると、ネット通販は投資先候補になるだろうし、通販で買った商品は宅配業者が運ぶわけだから運送業の景況も気になってくる。

もう半歩先を連想すると、紙媒体から電子書籍に移行しているのではないかと考えられる。

その視点でマーケットデータを見てみると、本などの紙媒体が1兆3700億円、電子書籍が現状2200億円くらいの規模だ。

すると、本のマーケットがさらに減り、そのうちの半分くらいが電子書籍に移るとしても、電子書籍マーケットはまだ伸びしろがあるように見えてくる。

キーワードを頭に入れて情報収集を広げる

そこまで見えれば、あとは関連銘柄を探すのも簡単だろう。

電子書籍をキーワードとして頭に入れつつ、日々の記事を読んでいっても良いし、『四季報』で関連銘柄を探すこともできるだろう。

『四季報』を見ると、メディアドゥホールディングスの欄に「電子書籍の取次が柱」という情報が載っている。取次とは卸業のことで、ここは同業他社の買収を通じて売り上げが大きく増え、卸のシェアも8割くらいまで伸びている会社だ。

仮に電子書籍のマーケットが伸びていくとしたら、その中で販売される書籍は卸を通る。そう考えると、連想のポイントである「誰が儲かるか」の答えもおのずと見えてくるのである。

電子書籍をキーワードに見ていくと、おそらく

『海賊版サイト遮断波紋』(2018年4月25日)

・記事ポイント
1)NTTグループは、漫画やアニメを作者に無断で掲載する「海賊版サイト」に対し、接続の遮断を実施すると発表した。
2)検閲につながる恐れがあるとし、ネットの業界団体や法学者から反対意見も相次ぐ。
3)NTTグループは「法制度が整備されるまでの短期的な緊急措置として、準備が整い次第遮断を実施する」としている。

という記事も目に留まりやすくなるだろう。

これは著作権関連の記事で、NTTグループが漫画やアニメを無断掲載する海賊版サイトに接続できなくするという内容のものだ。

電子書籍はデータであるため、書籍や雑誌などの流通と比べてコスト負担が軽い。これは生産・販売する会社にとってメリットである。

ただ、データであるということはコピーができる。このデメリットが大きく、利益を減らす要因にもなる。

どれだけコンテンツがあっても、海賊版をどうにかしない限り、電子書籍の生産や販売はビジネスモデルそのものが成り立たなくなるのだ。

前述したメディアドゥも、海賊版が出回っていたことが原因で業績が不安視され、株価が下がっていた。

しかし、この記事がきっかけとなり海賊版に対する不安が軽減された。低迷していたメディアドゥホールディングスの株価もこれを機に上がっている。

電子書籍に限らず、成長過程にあるマーケットではこのような変化がよく起きる。

変化を捉えるという点から見ると、NTTという業界最大手が対策に乗り出したのは大きな変化だったといえるだろう。

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渡部清二(わたなべ・せいじ)
複眼経済塾代表取締役塾長
1990年筑波大学第三学群基礎工学類変換工学卒業後、野村證券入社。野村證券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最後のページまで読む「四季報読破」を開始。「日経新聞・読み合わせ会議」を主宰。2013年野村證券退社。2014年四季リサーチ株式会社設立、代表取締役就任。2016年複眼経済観測所設立、2018年複眼経済塾に社名変更。2017年3月には、一般社団法人ヒューマノミクス実行委員会代表理事に就任。

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