(本記事は、渡部清二氏の著書『日経新聞マジ読み投資術』総合法令出版、2018年12月19日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

指数の役目を果たす記事もある

日経新聞マジ読み投資術
(画像=Dean Drobot / Shutterstock.com)

何気なく読み飛ばしてしまいそうな記事の中にも、景気の方向性を示唆する情報が含まれているという点だ。

例を挙げて考えてみよう。

まず経済活動の土台となっている世界のマーケットがどうなっているかというと、以下のような記事がある。

『自由貿易迫る危機 鉄・アルミ輸入制限 中国は報復も/米に代償大きく』(2018年3月3日)

・記事ポイント
1)トランプ米大統領はアメリカの安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの関税を引き上げ、輸入制限を課すと明言。
2)中間選挙を控えたトランプ氏は強硬策を貫く。
3)鉄鋼の関税引き上げにより、米国製の自動車は価格競争力を落とす恐れがある。

記事に書いてあるように、これはこれから迫ってくる危機の話で、先行データと捉えることができるだろう。

記事の内容は、トランプ大統領が鉄鋼とアルミニウムの関税を引き上げる方針を出したというものだ。

周知の通り、世の中では関税を減らし、貿易を活性化させようというトレンドが続いていた。

TPPなどがその代表的な取り組みだが、トランプ大統領はまったく逆の方針を出した。

関税をかけて保護貿易に近づけようとしているわけだ。

関税を引き上げれば、相手国も関税を引き上げる。結果、戦争になるかどうかはわからないが、貿易が鈍化することは間違いない。

貿易の低迷はモノの流れが鈍くなるということなので、世界経済にはマイナスだ。現状はアメリカも日本も株価が上がっているが、少し先には輸出・輸入の低迷による不況が起きるかもしれない。

そんな未来が想像できるのである。

投資家としては、この記事に目を止めたことが、その後のアメリカの関税方針に注目するきっかけになるだろう。

例えば、前述した「迫る危機」の記事の3週間後には

『対日圧力再びトランプ氏「もうだまされない」』(2018年3月24日)

・記事ポイント
1)トランプ米政権が鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動した。
2)日本政府は日本を適用対象から外すよう求めるも、要求は通らなかった。 3)日本がアメリカに輸出する鉄鋼とアルミニウムにはそれぞれ25%、10%の
追加関税が課される。

という記事がある。

これは、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動したという内容のもので、前記事を見ておくと、世界的な貿易不況に一歩近づいたということがわかる。

単にアメリカの動向を知るだけでなく、世界経済を見るための先行データとして捉えることで、景気の方向性を考えるヒントが得られるということだ。

関税引き上げの記事は警戒が必要

世界史を見てみると、関税引き上げ→保護貿易→貿易悪化という流れは世界に不況をもたらす流れである。

1929年に起きた大恐慌のときもそうだった。

このとき、ニューヨーク市場のダウ平均は9割下落した。今の株価でいえば、2万ドルが2000ドルになるようなものだ。

実は、その後にもアメリカは関税を引き上げる政策を実行している。

大統領であったフーバー政権の「スムート・ホーリー法」で、農作物など2万品目の輸入関税を50%引き上げたのだ。1930年のことだ。

当然、周りの国々は反発し、アメリカからの輸入品に高い関税をかけた。結果、32年ごろまでに世界の工業生産量は半分になり、貿易量も半分になった。

アメリカの株価暴落が引き金となる形で、世界恐慌へと波及していくわけだ。

歴史に学ぶという点から見ると、大恐慌のような大きな出来事について知っておくのは重要なことといえるだろう。

トランプ大統領の政策と重ねて見ると、最悪のシナリオとして貿易量が今の半分になるかもしれない。

これに対して「飛躍しすぎだ」と言う人もいる。

しかし、本当にそうだろうか。

大恐慌の発端となったアメリカの経済状況を見てみると、株価の暴落は10月に起きるが、その2カ月ほど前にすでに製造業の生産指数がピークをつけている。

一方、市場では、あらゆる銘柄が値上がりしていることもあり、多くの人が投資をしていた。

その様子のエピソードとして残っているのが、ケネディ大統領の父親と靴磨きの少年の話だろう。

ケネディは株で大きく儲けていたが、あるとき、靴磨きを頼んだ少年に株を勧められる。「こんな少年が株をやるのは異常だ」と感じたケネディは、すぐに全株売却した。

それから1年も経たないうちに大恐慌が起きる。

少年が損したかどうかはわからないが、ケネディは無傷で売り抜けられたという話である。

その点から見ても、ダウ平均が史上最高値を更新し、日経平均がバブル崩壊後の高値を更新している状態は、大暴落が起きた当時の市場と同じではないが、似てなくもない。

リスク管理重視で考えるのであれば、保護貿易が進んでいるという内容の記事は、大きな不況や株価の暴落を警戒するのに十分なインパクトがある記事なのである。

各業界の方向性も記事から読み取れる

では、国内経済と各業界の景気について見てみよう。

『中型テレビ向け液晶パネル一段安』(2018年7月5日)

・記事ポイント
1))テレビ販売が世界的に伸び悩むなか、中型テレビ向け液晶パネルが一段と安くなっている。
2)指標となる32型の201)8年6月の大口価格は、前月と比べて12%安い1枚45ドル前後。
3)主要部材であるパネルの値下がりにより、液晶テレビ価格にも波及する可能性がある。

これは、テレビの材料となる液晶パネルの価格が下がっていることを伝えている記事だ。

記事の中に具体的な指数の話は出てこない。ただ、パネルという材料の動向であるから、私はこの記事は先行データとして見ることができると思う。

その視点で見ると、なぜ価格が下がるのかを考えることがカギになる。

もしかしたら需要が減っているからかもしれない。

仮にそうだとしたら、需要が減っているのはなぜなのだろう。

理由はいろいろ考えられる。

買い替えが一巡したのかもしれないし、テレビを持たない人が増えている可能性もある。

いずれにしても、需要が減れば売り上げや利益も減りやすくなる。その点から、製造業の景気が低迷するかもしれないと考えることができる。

先行データに表れた変化は、やがて一致データ、遅行データに表れる。

この記事を先行データと捉えるのであれば、製造業の一致データや遅行データを見ていくことで、景気の方向性がより正確につかめるようになるだろう。

また「需要が減っているかもしれない」という意識を持っておくと、その後の記事を読んでいく意識も変わる。

「テレビ」「液晶」といったキーワードを頭に入れておけば、景気を見るための情報をより多く集めていくことができるだろう。

『アルミ対日割増金2割上げ提示』(2018年6月19日)

・記事ポイント
1))海外資源大手と日本の需要家とのアルミニウム地金の2018年7~9月期の割増金交渉。
2)英豪リオ・ティント、米アルコアなどが日本のメーカーや商社に提示した額は1トン150~160ドル。4~6月期の決着額に比べ2割高い。
3)日本向けの交渉は四半期ごとに行い、引き上げで決着すれば3四半期連続となる。

これはアルミニウム地金の価格が四半期前に比べて2割ほど高くなったことを伝えているものだ。

この記事も、貴金属の先物相場に関するマーケットデータであり、先行データと捉えることができるだろう。

その視点から見ると、資源高は材料の需要が高まっているときに起きるため、景気の先行きが明るいと見ることができる。

ただ、材料の値上げは国内製造業にとってマイナスだ。その視点から見れば、今後の景気に悪い影響を与える可能性が考えられる。

そもそもこの話は、アメリカの関税引き上げからスタートしているため、関連記事として関税に関する情報も注視する必要性も出てくるだろう。

あるいは、アルミを2割高い値段で売買するという点に着目するなら、販売の話であるから一致指数と同じ分類の情報と見ることもできる。

一致データとして見る場合も、製造業にはコスト負担が増えるというマイナスの影響が考えられる。

アルミをキーワードに調べていくと、アルミの輸入やアルミ合金の製造などを直接扱う会社だけでなく、自動車や自動車部品、建築資材などへの影響も考えられるようになるだろう。

日経新聞マジ読み投資術
渡部清二(わたなべ・せいじ)
複眼経済塾代表取締役塾長
1990年筑波大学第三学群基礎工学類変換工学卒業後、野村證券入社。野村證券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最後のページまで読む「四季報読破」を開始。「日経新聞・読み合わせ会議」を主宰。2013年野村證券退社。2014年四季リサーチ株式会社設立、代表取締役就任。2016年複眼経済観測所設立、2018年複眼経済塾に社名変更。2017年3月には、一般社団法人ヒューマノミクス実行委員会代表理事に就任。

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