株式等の売却益や利子・配当等の「金融所得」に対する税率の引き上げが検討・議論されている。まだ正式に税制改正大綱等に内容等は盛り込まれていないが、検討されている内容はどのようなものか、増税された場合には投資家にとってどのような影響が出るのかを確認していこう。

検討段階に入っている内容は ?

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(写真=PIXTA)

政府与党の2018年度税制改正大綱の中では、金融所得に対する課税のあり方について「家計の安定的な資産形成を支援するとともに税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から、関連する各種制度の在り方を含め、諸外国の制度や市場への影響を踏まえつつ、総合的に検討する」としている。

また上記検討内容の具体的な根拠の一つとして、2016年9月の第3回税制調査会での意見の内容が挙げられる。この内容は金融所得の分離課税の税率を「国税、地方税合わせて20%から25%に引き上げていくことも課題ではないか」となっている (復興所得税を除く) 。

具体的な引き上げの時期や正式な税率等は決まっていないが、5%の税率の引き上げが行われた場合には、2014年の上場株式等に係る軽減税率の撤廃 (軽減税率10%→本則20%) 、2016年の金融所得課税の一体化と並ぶ、金融税制の大きな改正となる。

過去の改正時の市場への影響は ?

では上記の軽減税率の撤廃と金融所得課税の一体化の決定を受け、実施される前年の2013年と2015年の市場はどのような反応や動きを見せただろうか。ここでは日経平均株価の推移を例に挙げて確認していきたい。

2013年は年初10,688円でスタートし、5月に15,942円の高値を付けたのち年末に16,291円の年初来高値を付けて取引を終えた。また2015年は年初17,219円でスタートし、6月に20,952円の年初来高値を付けたのち年末19,033円で取引を終えた (年初・年末はいずれも大発会・大納会の終値) 。

2013年は日本銀行による量的・質的金融緩和、いわゆる「異次元緩和」の導入が決定された年である。この決定を受けて株価が上昇した他、年末にかけて企業業績の好調さが発表されたことや米国の株価が史上最高値を更新した等の好材料に後押しされるかたちで高値を付けて1年が終了している。また2015年は円安・原油安の恩恵等を受けて企業業績が改善し、それに反応して株価も堅調に推移していった。年末に若干の下落に転じたものの、20,000円台に迫る株価で1年を終えている。

外部環境の好影響を受けた形ではあるが、2013年・2015年ともに年末の終値が年初の終値よりも高い水準で取引を終えており、市場全体として見れば軽減税率の撤廃・金融所得課税の一体化の影響は限定的だったといえる。つまり株式市場において、税制改正が投資家心理に影響を及ぼし株価変動要因となる可能性は残しつつも、その年の景気動向や企業業績といった市場環境による影響をより強く受けると考えられる。

ただ今回の税率引き上げは、2019年10月に予定されている消費税率の引き上げと時期が近くなる可能性もあり、実施される時期によっては消費意欲の低下とともに投資意欲の低下も懸念される。そうなった場合には株価への影響も少なからずあると想定でき、また増税前の換金売りの動きも考えられる。

日々の情報にはより敏感に

金融所得に対する増税の内容は明らかになっていないが、実施される場合の時期と内容については今後注視しておく必要がある。また、消費税率の引き上げについてもまだ正式決定されていないため、合わせて動向を確認しておく必要がある。いずれにしても、保有資産にどのような影響があるのかを考え、制度が改正されても資産を守っていけるような方策を考えていただきたい。

最後に、平成30年度の与党税制改正大綱が取りまとめられたことを受けて、日本証券業協会・投資信託協会・全国証券取引所協議会が連名で談話を発表している。その談話の最後は、この記事の冒頭にお伝えした与党の「検討」について、「経済成長を支え国民の資産形成を支援する金融資本市場の重要性を踏まえるとともに、投資者の資産選択や金融資本市場に重大な影響を及ぼす懸念にも十分留意した検討をお願いしたい」と締めくくられている。「重大な影響を及ぼす懸念」に十分留意した検討がされるかどうか、今後は日々の情報にはより敏感に反応していく必要がある。(提供:大和ネクスト銀行

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