輸出の動向
消費・投資と並び中国経済の第3の柱である輸出(ドルベース)を見ると、19年1-4月期は前年比0.2%増と、18年通期の同9.9%増を大幅に下回った(図表-12)。
輸出の先行指標となる新規輸出受注指数を見ると、4月は49.2%と3月の47.1%より上昇したものの、拡張・収縮の境界線(50%)を11ヵ月連続で割り込んでおり、輸出の持続的な回復を期待できる状況ではない(図表-13)。また、米国は5月10日、中国からの輸入製品(2000億ドル相当分)に対する制裁関税率を10%から25%へ引き上げており、米国向け輸出の逆風はさらに強まる。
中国経済の見通し
●経済見通し
以上のような現状を踏まえると、2020年に向けての経済成長率は実質で6%台前半の低迷と予想している(図表-14)。個人消費は、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費を喚起する流れが続いているため、底堅い伸びを維持するものの、米中対立の激化で株価や消費マインドは不安定となり、若干の伸び鈍化を見込む。投資は、中国政府の景気対策により、インフラ投資は勢いを増すと見られるものの、米中ハイテク摩擦に伴う先行き不透明感が足かせとなるため、低位の伸びに留まると予想する。輸出は、米中の関税引き上げ合戦に伴い製造拠点の海外流出が増えるのに加えて、中国政府の輸入拡大方針により、輸入が高い伸びを示すと見られることから、純輸出はマイナス寄与が続くと予想する。なお、消費者物価はサービス価格の上昇を背景に緩やかに上昇していくと予想している。
●リスクシナリオ
また、米中対立の成り行き次第では、上振れ・下振れするシナリオも考えられる(図表-15)。このまま米中対立が激しさを増して行けば、ITサイクルの停滞が長引く上、株価が再び急落して自動車などの消費を押し下げる恐れがある。但し、19年中にそうした事態に陥った場合には、中国政府が景気対策を上乗せする可能性が高いため、経済成長率が6%を割り込むことはないだろう。一方、急転直下、米中首脳会談が実現して米中対立が緩和に向かえば、次世代通信規格(5G)への移行を控えてITサイクルが一気に上向く上、株価が上昇して自動車などの消費を押し上げる可能性もある。但し、景気が上向けば、中国政府は再び「債務圧縮(デレバレッジ)」に動くと見ているため、経済成長率が7%に近付くこともないだろう。今後も米中対立の行方から目が離せない状況が続きそうだ。
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員
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