〔株〕ノハナ代表取締役社長/ファウンダー 大森和悦
スマホが普及したことで、成長していく子供の姿を、手軽に、たくさんの写真に収められるようになった。しかし、「撮った写真はスマホの中やクラウド上にあるだけ」ということが多く、かつて紙焼きの写真をアルバムに貼っていた頃のように、家族で見返す機会は減っているのではないだろうか。〔株〕ノハナは、今の時代に合った子供のフォトブックを提供するベンチャー企業だ。創業社長の大森和悦氏に話を聞いた。
スマホの普及で写真が形に残らない時代に
――御社は、アプリを使ってフォトブックを作るサービスを運営しています。
大森 「ノハナ」のアプリを無料でダウンロードしていただいて、ユーザー登録をしていただいたら、自分のスマホから写真をアップロードするだけで、自動的にフォトブックの形に編集されます。写真にコメントをつけてアップロードすることもできます。そして、写真が20枚溜まって、注文をしていただくと、紙に印刷して製本されたフォトブックがお手元に届きます。
特長は、スマホだけで簡単にフォトブックを作れるということと、多くの方に利用していただきたいので、毎月1冊は無料(送料のみ)にしていることです。
――ユーザーにはどのような人が多いのでしょうか?
大森 小さなお子さんがいる、お母さんがメインです。
――簡単にスマホで子供の写真を撮れる時代になっていますが、やっぱり紙で見たいという需要があるのでしょうか?
大森 スマホの中やクラウド上に写真があっても、なかなか見返す機会がないんだと思います。SNSにアップして「いいね!」がついても、それだけで流れていってしまう。「歩けるようになった」というような成長の記録が、形に残らなくなってしまっているのです。
私も、子供の写真を撮りながら、何かモヤモヤした感じを抱えていました。「これってなんなんだろう?」というところから、当時のチームメンバーとディスカッションをしたり、お母さんたちにインタビューをしたりするうちに、明確に浮かび上がってきたのが、「紙に印刷されていない」という課題でした。これが、「ノハナ」を開発したきっかけです。
私たち親世代には、紙焼きの写真を貼ったアルバムを通じて親の愛情を感じたという原体験があります。だから、自分の子供にも同じことをしてあげたいという潜在的な意識があるのだけれども、デジカメやスマホの登場によって、それがしにくい状況になっている。
今日も、小学校4年生の私の子供が、2年生の頃のフォトブックを手に取って、「このときは楽しかったね」という話をしていました。紙で写真を見返すことから、家族のコミュニケーションが生まれて、家族がより仲良くなる。私たちが提供する本当の価値はそこにあるのかな、と思います。
――御社は、フォトブックの他に、年賀状の事業もしています。これも、子供の写真を紙に印刷するものですね。
大森 そうです。フォトブックのお客様には、年賀状にも子供の写真を印刷して送りたいという方が多くいるので、そのニーズに応えるサービスです。
――創業以来、売上高が伸び続けていますが、フォトブックと年賀状のどちらが好調なのでしょう?
大森 両方ですね。フォトブックのお客様が増えるほど、年賀状のお客様も増えるという構造になっています。
――年賀状の需要は季節的なものですよね?
大森 年に1~2カ月しかありません。それでも、売上げの3割くらいは年賀状が占めています。
――毎月1冊、無料でフォトブックを提供するというのは、収益の面では厳しいのではないかとも思いますが……。
大森 当社は〔株〕ミクシィの社内起業制度に手を挙げたことから始まっているのですが、その際に、「空振り三振してもいいから、ホームランを狙ってほしい」と言われました。ミクシィは、今は「モンスターストライク」というゲームが主力事業になっていますが、もともと「Find Job!」という求人サイトを運営していて、その後、SNSの「mixi」が中心になっていました。社内起業制度ができたのはmixiの調子が悪くなってきた時期で、これらの事業と同じくらいの規模のビジネスを作ってほしいということだったんです。
そこで、フォトブックを売るだけだと数億円規模にしかならないだろうから、思い切って毎月1冊無料にすることでお客様を増やし、小さなお子さんがいる家族のためのプラットフォームを作ったうえで、その上に年賀状などのビジネスを乗せていこうというプランを描きました。
――今、ユーザー数とフォトブックの注文は、どれくらいあるのですか?
大森 お客様は200万ファミリーほどいます。フォトブックは毎月18万冊くらいお出ししていて、そのうち13~15%が有料のものです。その他、各種オプションの利用を加えると、おそらく半分くらいのお客様は、なんらかの追加の課金をしていただいていると思われます。
――ミクシィからは、規模以外については、何か指示のようなものはあったのでしょうか?
大森 事業内容については、なんでもありでした。強いて言えば、インターネットを活用したサービスということでしょうか。
――フォトブック事業は、インターネットを使っているとはいえ、素人目には、提携工場で写真をプリントし、製本するだけの、単純なサービスのようにも見えますが……。
大森 確かに、すごく尖った技術を使っているわけではありませんが、サービスを始めた当時は、こうした挙動をまともにできるアプリはほとんどなくて、そもそもアプリのエンジニアも業界に全然いなかったんです。
また、ネット業界だけにいた人には、こうした紙のビジネスは思いつかなかったんじゃないでしょうか。私はミクシィの前は出版社にいましたから、紙とネットの良いところを組み合わせられたのだと思います。