(本記事は、谷原 誠の著書『「いい質問」が人を動かす』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)
全てを聞き出す6つのベーシック・クエスチョンとは?
他人に質問をするとき、答える人が質問者の意図を正確にくみ取って、欲しい情報だけを過不足なく答えてくれれば苦労はしませんが、実際にはそんなことはあり得ません。やはり質問する側が、どのような情報が欲しいかを相手に伝え、上手に質問しなければ、欲しい情報は手に入らないものです。
このときに重宝するのが「5W1H」です。これは、「What(何)」「Who(誰)」「When(いつ)」「Where(どこ)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」から構成されます。これらは文章の基本であると同時に情報の基本でもあるのです。
たとえば「セミナーを受けたい」と言っている人に対して「5W1H」で質問してみましょう。
「何のセミナーを受けるの?」(What)
「誰のセミナーを受けるの?」(Who)
「いつセミナーを受けるの?」(When)
「セミナーはどこで行われるの?」(Where)
「なぜセミナーを受けるの?」(Why)
「セミナーをどのように生かすつもり?」(How)
このように、「セミナーを受けたい」という1つの情報について、「5W1H」を使って質問するだけで、様々な情報を得ることができます。
ただし、「なぜ(Why)」の使い方だけは注意が必要です。「なぜ?」と質問されると、「なぜなら~」と答えるように、答えに論理性を求めるからです。答えに論理性を求めるとなると、答える方は、論理的に答えなければなりませんので、頭を使わなければなりません。論理性がないことを言うと「バカ」と思われるので、一生懸命に頭を使って理由を考えて答えるのです。つまり、質問した相手が「苦痛」を感じるのです。苦痛を感じてしまうと、相手の気分を害する場合もあります。
たとえば、次のようなことになります。
「なぜセミナーを受けるの?」
「仕事で生かそうと思って」
「なぜ仕事で生かそうと思うの?」
「もっとスキルアップしようと思うからだよ」
「なぜもっとスキルアップしようと思うの?」
「将来は社長を目指しているからだよ」
「なぜ将来は社長を目指すの?」
「裕福な生活をしたいからだよ」
「なぜ裕福な生活をしたいの?」
「......いい加減にしろ(怒)!」
このように、「なぜなぜ攻撃」をされると、論理的に答えようと考えるとともに非常に苦痛を感じて嫌になってしまいます。ですから、質問者は、気持ちよく答えてもらうためにはなるべく「なぜ」を使わないようにしなければなりません。
「なぜ」を使わないためには、「なぜ」を「何」や「どのように」に置き換えるとよいでしょう。たとえば、「なぜセミナーを受けると仕事に生かせるの?」という質問は、次のように言い換えることができます。
「セミナーを仕事で生かせるのは何の場面でしょうか?」
「どのように仕事で生かせるでしょうか?」
図2をご覧下さい。このように言い換えることによって、答える方は、「論理性」にとらわれることなく答えを具体的にイメージして答えようとし、苦痛が軽減されることになります。
では、「なぜ」は使わない方がよいのでしょうか?
実は「なぜ」にも非常に有効な使い方があります。それは、論理的に答えを突き詰めたい場合です。ビジネスの場面で有効でしょう。トヨタでも問題を解決するには「なぜを5回繰り返す」という伝統があるそうです。
具体的には次のように突き詰めていきます。
「なぜ先月は営業目標に達しなかったの?」
「契約にいく前に話が終わってしまうのです」
「なぜ契約にいく前に終わってしまうの?」
「そこまで信頼関係が築けないからです」
「なぜ契約までの信頼関係が築けないの?」
「飛び込みでいくと、初めから警戒されてしまうからだと思います」
「なぜ飛び込みでいくの?」
「紹介がもらえないからです」
「なぜ紹介がもらえないの?」
「うーん。今まで既存のお客様に紹介をお願いしたことがなかったからでしょうか。今月は、既存のお客様に紹介をお願いすることから始めたいと思います」
このように、「なぜ」を繰り返していくと、論理的に考え、次第に問題の核心に迫ってゆくことができます。特にビジネスで部下に対して質問する場合や、自分で問題を突き詰めて考えるような場合に有効です。
では、「なぜ」の他に、質問する際に注意すべきことはどんなことでしょうか?