(本記事は、谷原 誠の著書『「いい質問」が人を動かす』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)
妻に携帯を見せろと言われたらどうするか〜議論における立証責任
「立証責任」という言葉を聞いたことがありますか?
法律用語なのですが、たとえば、殺人事件において、犯人が殺人を犯したことを証明する責任は検察側にあります。検察側がすべてを立証しなければなりません。
弁護側は、犯人が「殺人を犯していない」ことまで立証する必要はなく、検察側の立証にケチをつけ、「殺人を犯した」ことの立証を邪魔すれば足りるのです。
「疑わしきは罰せず」の言葉どおり、検察側は、「殺人」について、疑いを入れられないほどに立証しきらなければならないのです。
民事事件において、たとえば貸し金請求の場合には、原告が、「お金を被告に渡したこと」「そのお金を返してもらう約束をしたこと」「約束の期日を過ぎたこと」を立証しなければなりません。
この点について原告に「立証責任がある」といいます。原告は、これらを立証しきらなければ、敗訴することになります。
被告側は、これらの点について、原告の立証にケチをつけ、立証を邪魔すれば足ります。この立証責任の考え方を、議論に応用してみましょう。
たとえば、任意の税務調査では、「質問検査権」というものがあり、納税者は、これを受忍する義務があります。ただし、机の引き出しや金庫等を無理矢理開ける義務はありません。
そこで、調査官は、納税者に、何とか金庫や引き出しを開けさせようと、色々なテクニックを駆使します。そこで多用されるのが、次のような問答です。
税「ちょっと金庫内を見せていただけますか?」
納「それは困ります」
税「なぜですか?見られて困るようなものが入っているのですか?」
納「そんなことはありません。税金をごまかすような書類は入っていません」
税「だったら見せていただいてもいいのではないですか?」
納「何も入っていません。このビルの賃貸借契約書等が入っているだけです」
税「でしたら見せていただいても大丈夫ですね。何も入っていないということを証明して気持ちよく調査を続けましょう」
納「............」
先ほど、任意調査では、金庫を無理矢理開ける義務はないと言いました。したがって、納税者には、金庫を開けることを拒否する権利があります。
しかし、「見られて困るようなものが入っているのですか?」というマジックワードにやられてしまって最終的には金庫を開けざるを得ない結果になっています。
これは一種の立証責任の転換です。いつの間にか自分が金庫内に何もないことを立証しなければならない立場に追い込まれてしまっているのです。
最終的に拒否することができるのだという認識を持つことが必要です。そのうえで、立証責任を調査官側に転換してみましょう。
ちょっとやってみます。
税「ちょっと金庫内を見せていただけますか?」
納「なぜですか?」
税「金庫内に調査に関係のある資料があるか確認するためです」
納「金庫内にそのような資料があると判断したのですか?そう判断した根拠を示してください」
税「一般的に考えて金庫内には、調査関係資料が入っていることが多いからです。何か見られて困るようなものが入っているのですか?」
納「そんな一般論を言われても困ります。私が提出した資料のどこから考えて、金庫内にどのような資料があるとお考えになったのですか?」
税「それは言えません」
納「それでも私は法律上金庫を開ける義務がありますか?」
税「法律上の義務ではありません」
納「では、金庫は開けられません」
たとえば妻に「携帯電話見せて」と言われて、夫が「嫌だよ」と答えると、妻は、「見せられないようなやましい理由があるの?」と質問します。夫が「そんなことあるわけないだろう」と言うと、妻は「じゃあ見せてよ」と迫り、結局見せることになってしまいます。
しかし、こんな場合にも、立証責任の転換で上手にかわすことができるはずです。ドキッとした方は、研究してみてください。
さて、ここまでは他人に質問する方法でしたが、実は、質問を自分にすると、自分を思い通りに変えられることをご存じですか?
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