(本記事は、谷原 誠の著書『「いい質問」が人を動かす』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

質問を始める前にチェックすべき4つのポイント

質問には、6つの力があります。

①何を目的として質問するか

1 思いのままに情報を得る
2 人に好かれる
3 人をその気にさせる
4 人を育てる
5 議論に強くなる
6 自分をコントロールする

質問をするときは、この6つの力のうち、何を目的にするか、を明確にしておくことが必要です。なぜなら、目的によって、質問の仕方が異なってくるからです。

たとえば「本を読みますか?」という質問があったとします。この単純な質問でも、目的によって質問の方法は異なってきます。相手が本を読むかどうかを知りたいときは、「あなたは本を読みますか?」ということになりますし、どんな本を読むか知りたいときは、「あなたはどんな本を読みますか?」という質問になります。人に好かれる目的であれば、「あなたはどんな本が好きですか?」と聞いて好きな本をイメージしてもらい、「実は私もそういう本が好きなんですよ。趣味が同じですね」と言って相手に合わせたりします。

人をその気にさせることや、人を育てることが目的であれば、「1年後どんな自分になりたいですか?」などの質問で現状とのギャップを認識させ、「そのためにどのような知識が必要でしょうか?」と方法論に入り、「そのような知識を得るためにはどんな本を読むことが必要だと思いますか?」などと、本を読むことが必要だという気にさせていきます。

このように、1つの質問であっても、何を目的とするかで質問の仕方が異なります。したがって、質問を始める前には、「私は何のために質問するのか?」と自分に質問をし、その答えを明確にしてから質問を開始するようにしましょう。

②相手は質問するのに最適な人物か

私は先日、道に迷ってしまいました。誰かに道を聞こうとして周囲を見回すと、2人の通行人がいました。1人はバックパックを背負った旅行者風の外国人です。他にはスーパーの買い物袋を提げた中年女性でした。私は迷わず中年女性に声をかけ、道を聞きました。あなたもそうするでしょう。なぜなら、道を聞くのは、その周辺の土地について知識を持っている人に聞かなければ意味がないからです。

つまり、誰かに質問をし、情報を得ようとしたら、その情報を持っている人に質問をしなければならないのです。会社の警備員に、会社の予算のことを聞いても意味がないかもしれません。やはり経理部に問い合わせる方が適切でしょう。

したがって、質問をするときは、「誰に質問をすると、もっとも望ましい情報が得られるか」を考えた上で質問をする相手を選ばなければなりません。

ただし、「誰に質問をしたらよいか」がわからない場合もあります。この場合には、「誰に質問をするのが最適かを知っている人」に対し、「誰に質問したらよいですか?」と質問をすることです。たとえば、先ほどの道に迷った例での中年女性も、私の目的地を知らなかったときには、「では、どこで道を聞けばよいですか?」と聞けば、「そこの角に交番がありますので、そこで聞いてください」と求める情報を提供してくれるかもしれません。

そうやって1つずつ階段を上り、求める情報に近づいてゆくのです。

③質問に適したタイミングはいつか

質問をするには、タイミングをはかることも必要です。

会社で、ちょうど出かけようとバタバタしているときに、質問や相談をする人がいます。もっと前に質問する余裕は十分あったはずなのにです。これでは、相手は時間的余裕がないわけですから、こちらが求めるのに必要十分な情報を与えてくれないかもしれません。特に忙しい人が忙しくしているときに質問したら、答えてすらくれないかもしれません。情報を得るために質問をするのですから、相手の置かれた状況に配慮し、気配りをした上で質問しなければなりません。

④質問は最適か、他にもっと良い質問はないか

質問の目的を明確にし、質問に最適な人に、最適なタイミングで質問するとして、いよいよどのように質問するかを考えてみましょう。

質問は、どのように質問するかで答え方を決めてしまいます。したがって、質問の仕方を十分考えて質問しなければなりません。たとえば、ある会社に機械を売り込もうとして、営業に行き、「今、御社がお使いの機械が、当社の機械より劣る点をお教えしましょうか?」などと質問してはいけません。そのお客様は、実際にその機械を選び、使っているのです。先ほどの質問は、お客様の決断が間違っていると言っているに等しい質問です。

このような場合には、相手の自尊心に配慮しなければなりません。つまり、相手の決断を正当化した上で、自社の機械の優位性を示せるような質問を慎重に選ばなくてはいけません。そこで、「今お使いの機械もすばらしい機械ですが、気に入らない点をあげるとすれば、どこでしょうか?」という質問を思いつきます。しかし、これでもまだ少しひっかかります。さらに相手の決断を正当化するならば、「今お使いの機械の改良すべき点を1つあげるとすれば、どこでしょうか?」という質問を思いつきます。そして、この質問を相手に投げかけることになります。

この最適な質問を選び出す作業は一瞬のうちに行わなければなりません。私の場合だと、相手に質問しようとするときには、複数の質問の仕方が同時に頭に浮かびます。そこで、「この中でもっとも私が必要とする情報を得られそうな質問はどれだろう?」と自分に質問し、その中から最適と思われる質問を選び出します。そして、さらに「この質問よりも、もっと適切な質問はないだろうか?」と自分に質問し、質問を練り直します。その結果、得られた質問を相手にするのです。この作業は一瞬のうちに行う時もあれば、数秒をかけて行うときもあります。

弁護士は、裁判で証人尋問を行いますが、この証人尋問の準備には膨大な時間を費やします。どの質問を、どの順番で行うか、相手がどう答えたら、次にどのような質問を行うかを徹底的に研究するのです。1つの質問を間違えると、不利な証言を引き出してしまうかもしれません。逆に、1つの質問で依頼者に圧倒的に有利な証言を引き出せることもあります。それで勝敗が左右されるのです。

その意味で、弁護士は、どの質問が最適な質問かを常に考えているのです。

ところで、名探偵シャーロック・ホームズが質問する際に行っていたことをご存じですか?

「いい質問」が人を動かす
谷原 誠(たにはら・まこと)
弁護士。1968年愛知県生まれ。明治大学法学部卒業。91年司法試験に合格。企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題などの案件・事件を、鍛え上げた質問力・交渉力・議論力などを武器に解決に導いている。現在、みらい総合法律事務所を共同で経営

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