(本記事は、谷原 誠の著書『「いい質問」が人を動かす』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

人を動かす質問のシナリオを作る

シナリオ
(画像=Thinkstock/GettyImages)

質問力によって、人をその気にさせ、動かすには、「まず感情を動かし、その後理性で正当化できるようにしてあげる」ことが必要と言いましたが、より強力に人を動かしていくには、「質問のシナリオを作る」ことが必要です。

また通販番組の構成を振り返ってみましょう。腹筋運動器具の通販番組では、最初に、使用前のお腹の出たシーンを流します。これによって、視聴者に、「自分が抱えている問題点」を改めて認識させ、「お腹をへこませたい!」という欲求を顕在化させます。その後、キュッと引き締まったモデルを登場させ、今の自分の状態とのギャップを認識させます。 それと同時に、「あるべき姿」「理想の姿」をイメージさせて「そうなりたい」という欲求を喚起します。そして、その後は、「理想の姿に到達する方法」として腹筋運動器具を使用しているシーンを流し、「イメージで体験」させます。それによって感情が「この腹筋運動器具が欲しい」という状態になります。そのような「これが欲しい!」という感情を十分にあおっておいて、ようやく金額を出し、その金額が正当であること、分割払いもあるから経済的にダメージを与えないこと、トレーニングは楽であること、収納が楽であること、おまけがつくこと、など購入を正当化する理由を並べ立てます。

このように、人を動かすには、人が実際に行動するまでにたどる思考を忠実に体験させてゆくことが必要です。この順番が狂ってしまうと、「よし。買おう!」という気にならないのです。たとえば、腹筋運動器具の通販番組で、最初に「この商品は3万円です」と告知すると、その時点で理性が働き出し、「3万円も出すと、今月飲みに行けないなあ。そもそもそれだけの価値があるだろうか?本当に効果があるだろうか?様子を見たほうが良さそうだぞ」などと考えてしまい、その後でいくら説得しても、すぐに購入することにはならない人が多いでしょう。

その意味で、人を動かすために質問をする際には、相手が動かざるを得なくなるような「質問のシナリオ」を作り、そのシナリオ通りに質問を続けてゆく必要があります。

たとえば、夫が、家族でゴールデンウィークに温泉に行きたいと思ったとします。そんなとき、「ゴールデンウィークにどこか行かない?」と妻に質問します。すると妻は、「いいわねえ。たまには海外に行きたいな。グアムとかはどう?」と返事をします。そうすると、夫は、「温泉に行きたいんだけど」と言ったとしても、「グアムvs.温泉」の対立構造が生じてしまい、後は交渉になります。これは質問の順番が、対立構造を生み出すような順番になってしまっているからです。

質問のシナリオを作るというのは、相手の思考をコントロールし、会話をコントロールするものです。次のように質問のシナリオを組み立てたら、どうでしょうか。

まず宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」のDVDをレンタルしてきて、妻と観賞します。

夫「たまには温泉とか行きたくない?」
妻「行きたいわねえ」
夫「あんな映画みたいな温泉あったら行ってみたいでしょ?」
妻「絶対行ってみたい」
夫「『千と千尋の神隠し』のモデルになった温泉があるって知ってた?」
妻「え?本当?知らなかった」
夫「〇〇にあるんだけど、行ってみたいと思わない?」
妻「すごく行きたい」
夫「じゃあ、調べておくから、映画の感動がさめないうちに、ゴールデンウィークあたりに行ってみない?」
妻「行く行く!」

こんなに簡単に行くかどうかは別として、さきほど失敗した質問のシナリオと比べると、成功率は格段に高まるでしょう。なぜでしょうか。失敗した例は、「ゴールデンウィークにどこに行くか?」というオープンクエスチョンになっていますので、妻は自由に思考することができます。その結果、妻は、「どこに行きたいだろう?そうだ!グアムがいい」という思考になり、グアムに行きたいという「感情が喚起」されてしまいました。その結果、夫がその後「温泉に行こう」と言うと、すでに行きたい感情が喚起された「グアム」と「温泉」とが対立してしまったのです。

これに対し、成功した例では、温泉に関する映画を観て、潜在的に温泉に対する欲求が高まっている状態で、「温泉に行きたくない?」というクローズドクエスチョンで「イエス」「ノー」の回答を迫っています。通常、「イエス」と答えます。そして、映画とリンクさせる質問で、温泉に対するイメージがふくらんできます。さらに、興味をかき立てるために、映画のモデルとなった温泉が存在することを示唆する質問をします。「知っていた」と言っても「知らなかった」と言っても興味が喚起されます。そして、またクローズドクエスチョンで「行きたいか?」と聞けば、「行きたい」と答えるに決まっています。

あとは、「温泉に行くことは決まったが、いつにするか」という問題が残るだけであり、ゴールデンウィークを提案するだけです。

このシナリオで質問をすると、先ほどのように「グアムvs.温泉」という対立構造は生じません。温泉に行くことはすでに決まっており、行く時期を「ゴールデンウィークにしよう」と提案しているだけだからです。仮に、妻の方がもともとゴールデンウィークにはグアムに行きたいと思っていたとしても、すでに感情は温泉に行きたいモードになっています。この状態で、グアムにするか、温泉にするかという葛藤をするのと、ニュートラルな段階でグアムと温泉とで対立させるのでは、結果は断然違ってくるでしょう。多くの弁護士が読んでいる本に『弁護のゴールデンルール』(キース・エヴァンス著、高野隆訳、現代人文社)があります。その中に、コメディーシリーズの「はい大臣」(“YesMinister”)の一場面の紹介がありますので、引用します。部下に世論調査で思い通りの結果を得る方法を教える場面で、話題は国民徴兵制の復活についてです。

「さあバーナード、きれいな若いご婦人がクリップボードを抱えてやってきたぞ。まずは良い印象を与えなければならない。能なしに見られたいかね、君?」
「いいえ」
「彼女は質問をはじめる。あなたは、多くの若者が失業しているのを心配していますか?」
「はい」
「あなたは10代の若者の犯罪が増えているのが心配ですか?」
「はい」
「あなたは、わが国の中等学校には規律が欠けていると思いますか?」
「はい」
「あなたは、若い世代の人々も人生において多少の権威と指導を喜んで受け入れると思いますか?」
「はい」
「彼らは、挑戦に応じると思いますか?」
「はい」
「あなたは、徴兵制の復活を支持しますか?」
「ああ、......ええと、そう思います」
「はいですか、いいえですか?」
「はい」
「もちろん君は賛成だ、バーナード。いずれにしても、すでに君はノーとは言えない風情だ。
......その若い御婦人が君から正反対の答えを引き出す方法もある」
「どうやって」
「ウーリイさん、あなたは戦争の危険を心配されますか?」
「はい」
「あなたは、若者に武器を持たせ、人殺しを教えるのは危険だと考えますか?」
「はい」
「人々にその意思に反して武器を取ることを強要するのは誤りだと思いますか?」
「はい」
「あなたは、徴兵制の復活に反対されますか?」
「はい!!」
「ほら、このとおりだ、バーナード。君は完璧などっちつかずの見本だ」

これは、論理のシナリオによって、相手の思考を方向付け、自分の思い通りの答えを引き出す方法です。

このように、人の思考というのは、一定の思考をたどって結論に辿り着きます。人を動かそうと思ったら、こちらの望むような道順で思考してもらうように質問のシナリオを作成しておくことです。その際に「質問が思考を強制する」という機能が最大限に発揮されるのです。

「いい質問」が人を動かす
谷原 誠(たにはら・まこと)
弁護士。1968年愛知県生まれ。明治大学法学部卒業。91年司法試験に合格。企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題などの案件・事件を、鍛え上げた質問力・交渉力・議論力などを武器に解決に導いている。現在、みらい総合法律事務所を共同で経営

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