(本記事は、谷原 誠の著書『「いい質問」が人を動かす』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)
質問するだけで、子供が急に勉強をするようになる
私は、なぜか知人の子供に会わされることがよくあります。「全然勉強をしないので、言ってやって欲しい」とか「将来弁護士を目指しているので、仕事の内容とかを話してやって欲しい」などの理由からです。
私は、親の意を受けて子供と面談します。面談後、「急に勉強しはじめました。何を話したんですか?」などと聞かれることがあります。嬉しい限りですが、特に秘訣があるわけではありません。私は質問しているだけなのです。ある知人の子は、中学生だったのですが、将来社長になる、という夢を持っていました。
少年が読んだ本で、小学校しか出ていなかったにもかかわらず大会社の社長に上りつめた人の話があったようで、「学校の勉強なんか関係ない」といって、全然勉強しなかったそうです。
私が少年と話したときの会話を要約します。
私「将来社長になるんだって?」
少年「うん」
私「どんな会社の社長になるの?」
少年「なんでもいいんだけど、電車の会社とか」
私「それはいいね。そのときは僕も特等席に乗せてくれよ。ところで、電車会社の社長は、勉強しなくてもなれるのかな?」
少年「本に、学校の勉強なんて関係ないって書いてあったよ」
私「だったらそうかもしれないね。ところで君は学校を出てからスイスイと社長になるのと、色々な妨害にあって辛つらい思いをした後で社長になるのと、どっちがいい? 」
少年「そりゃ、スイスイなるほうがいいと思う」
私「僕が知っている限り、学校を中退したり、学校で勉強をしなかったのに社長になった人たちは、ものすごく努力をして辛い思いを乗り越えているんだけど、その本にもそのような苦労が書いてなかったかな? 」
少年「そういえば書いてあったような」
私「そうだよね。たとえば電車会社の社長になるにはお金の計算ができないといけないから、数学を勉強しないといけないね。電気系統や物理の勉強も必要じゃないかな。電車の歴史も知っておかないといけないね。燃料も知らないといけないんじゃないかな。結局社長になる人は、学校時代に一生懸命勉強するか、学校を出てから一生懸命勉強するかじゃないのかな?」
少年「それはそうだね」
私「僕はね、弁護士になるときに、朝起きてから寝るまで、時間のある限り勉強したよ。風呂に入っているときや、ごはんを食べているときまでね。もしかしたら、君の友達で同じように社長になりたい人がいて、僕と同じくらい死にものぐるいで勉強している友達がいるかもしれないよ。友達じゃなくて他の学校の子かもしれないけど。今、勉強しなくて、その人たちに勝てるかな?社長といっても誰でもなれるわけじゃないからね」
少年「もしかしたら負けるかもしれない」
私「君の人生だから、好きに生きるのがいいよ。今勉強しなくても、卒業してから死にものぐるいで勉強すれば、もしかしたら社長になれるかもしれないしね。社長になれるための方法を1つ教えてあげようか? 」
少年「うん」
私「『今、自分は何をすれば、将来社長になれるのか?』という質問を自分にするんだよ」
少年「............」(考えている)
私と少年が交わしたのは、こんな簡単な会話でした。特に熱く語ったわけでもなく、私は実体験をふまえて質問を続けただけです。ところが、後日、少年の親から連絡があり、「急に勉強しはじめました。何を話したんですか?」と聞かれたのです。私は質問しただけですが、注意したポイントがあります。
1 相手の意見を肯定する。
2 相手の立場に立ち、どうすれば相手が望む結果が得られるかを考える。
3 相手に答えを出させる。
この3つです。
相手は子供ですが、自尊心があります。自分の意見を持っています。それを肯定する必要があります。そして、相手は、自分の夢が実現するかどうかに関心があり、私の人生などには関心がありません。だから、相手の立場に立ってともに考えることが必要です。さらに、私が押しつけた意見にずっと縛られるのは苦痛のはずです。しかし、自分で出した結論には喜んで従うはずです。だから、自分で答えを出させるのです。
そうすれば、人は育ってくれるはずです。