上を狙うなら経済新聞やビジネス誌を読め

就職活動をしている学生たちの中に、日経新聞を読んだほうが就職に有利になると言われ、実際に読み出す学生もいる。本当にそういう新聞を読んだほうがいいかと言えば、答えは「どうでもいい」だ。

全国紙では、読売新聞の発行部数が一〇〇〇万部、朝日新聞が七五〇万部に対して、日経新聞は三〇〇万部だ。その程度しか読まれていないし、日経新聞を読んだからといって、希望する会社に行けるわけでも、すぐに仕事ができるようになるわけでも、バンバン出世するわけでもない。実際、中小企業で働いていて、日々の仕事に役に立つことが書いてあるかというと、ほとんどの場合は、たいして役には立たないだろう。

しかし、ちょっと考えて見てほしい。サラリーマンが五五〇〇万人いて、日経新聞の読者が三〇〇万人。つまりサラリーマンのうちの約五%。この数字をどこかで見たことはないだろうか。そう、第2章で述べた「年収一〇〇〇万円以上の人」の数字だ。

目の前の就職や仕事には直接役に立たないが、出世した人や成功者と言われる人のほとんどは日経新聞を読んでいるという事実がある。ある一定レベル以上の人たちが集まるところに行くと、今朝の日経新聞の話題などはわざわざ出ない。なぜなら、読んでいるのが当たり前だからだ。それをみんな知ったうえで会話をする。

それと同じく、たとえばビジネス誌(日経ビジネス、週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済など)も、目を通していることが前提での話しかしない。

これらの事実をふまえて、もし出世したい、一流の領域に行きたいというのであれば、新聞やビジネス誌は絶対に読むべきだ。ある一定以上レベルにいる人たちの共通言語だと思ってほしい。就職するためだけではなく、「新聞や雑誌を読む」という習慣は、今後の社会人人生に必ず有益に働いてくるだろう。

では、日経新聞などを読むとき、どこの面を読めばいいのか。それはパラパラでいいから、まず全面に目を通すことだ。しっかり読まなくても目を通す。

わからないことがあるかもしれないし、興味がわかないのなら無理して読む必要はない。興味がないことを読んでいても、アンテナにはかからない、頭には入ってこないからだ。ただ、そういう項目であっても、目をサッと通しておくのは大事なこと。頭のどこかには断片が残るからだ。

さらに、直接自分の携わっている業界新聞を読むことも必須だ。繊維関係の仕事なら繊維新聞を、食品業界なら食品新聞を、住宅なら住宅新聞を。どの業界にも必ず業界新聞はある。これは当たり前に読んでもらいたい。今やっている仕事の深掘りになるからだ。

そしてもう一つ、できることならば自分とは関係のない業界の新聞や雑誌にも目を通してもらいたい。食品業界の人がペットビジネスの新聞を、繊維業界の人が医療の新聞を、鉄鋼を扱っているのであれば、たまにはアミューズメント新聞を読んでみる。まったく違うジャンルのものにパッと目を通すことが重要だ。そうすることで、新しいアンテナが立ち、仕事や視野に広がりが出てくる。

実は視野を広げるという意味でも、日経新聞は全ジャンルのさまざまなことが書かれているので、新聞一紙でとりあえず数多くの業界が俯瞰できるメリットがある。いろいろな専門業界紙の一面ニュースが、インデックス的に掲載されているからだ。

本当なら、他業界の新聞も取り寄せて読めばいいが、新人にはそんな権限も、自腹で出す余裕もない。だからこそ、インデックス的に載っている日経新聞やトレンドを特集しているビジネス雑誌に目を通すことが必要になってくる。

それと同じように、できれば書店へ行って、自分が一番手に取らないだろう雑誌をあえて手に取りパラパラと見てほしい。第3章で話した「寄り道の法則」はここにも当てはまる。興味があったり、趣味にしていたりすることについての情報は、人に言われなくても手に取るので、あえて自分と一番遠い雑誌を取ってみる。そこには、何か新しい刺激があるはずだからだ。

たとえば、ある業界ではもう一〇年前から当たり前だったことが、自分のいる業界ではまだできていなかったりする。逆に、自分の業界ではすでに当たり前になっていることが、他業界で悩みの中心になっているときもある。

実は、そういうところが次のビジネスチャンスにつながっていく。他の業界の情報を見ることでしか、そういうことには気づけない。つまり、広がりのある情報の莫大なシャワーを浴びることが、仕事の範囲を広げ、新たな仕事を生み出し、周りからの評価を受け、出世につながっていくのだ。

今はインターネットでも記事がを読めたり、見出しだけでも情報を得たりすることができるが、それは紙面で見るのとは大きく異なる。残念ながら、ネットではどの記事もみんな同じ大きさ、扱いにしかならない。

しかし新聞の紙面は、意図を持って重要な記事は記事の扱いを大きくするし、数回に分けて報道したりもする。そうすると、今何が世の中で話題になっているのかが、記事の大きさや扱い方から読み取ることができる。

雑誌も同じだ。一ページの扱いなのか、五ページの特集を組むのか、全部にそういうものがかかわってきている。レイアウトなどもすごく考えて作られているので、頭に入ってくる印象がネット上で見ているものとはまったく違う。

だからこそ、紙媒体で読むことが大事だと思っている。ネットニュースのヘッドラインだけでは記事の中身のイメージはできない。ヘッドラインの情報だけでイメージできるというのは、バックボーンにも情報があり、「あれのことか」とわかるから読める。新人には、そんなバックボーンがあるわけではないのだから、きちんと紙面を見て、読んでもらいたい。

見出しだけでは、記事の結論が異なることもある。トリッキーな見出しをつけている場合など、記事を全部読まずにいると間違った情報を知ったふりをしてしまうおそれがある。だからこそ、きちんと情報を確認する意味も込めて紙媒体に目を通してもらいたい。

会社に入ったら三年間は「はい」と答えなさい
園部 貴弘(そのべ・たかひろ)
中小・オーナー企業の経営指導機関の日本経営合理化協会教育部次長。オーディオ・ビジュアル局、セミナー企画部、出版局を経て現職。新入社員から、中堅、幹部、経営者・・・の実務に直結したセミナーや教材、書籍を200テーマ以上企画・製作。また、人材教育コンサルタントとして、多くの経営者・一流コンサルタント・士業・専門家と親交を持ち、企業経営者とコンサルタントや仕業などの専門家を結びつけたり、企業においての人材育成や社員研修の指導をする。実家である、440年続く京都の老舗料亭「山ばな平八茶屋」の監査役も務める。1971年京都市生まれ。名古屋商科大学商学部卒業。京都造形芸術大学芸術学部卒業。

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