(本記事は、辻村明志の著書『ゴルフのトップコーチが教えるスウィングの真髄』日本文芸社の中から一部を抜粋・編集しています)
左ひざは柳と同じ。スピードと強さを柔らかさで受け止める
ダウンスウィングのどの段階かは別にして、右ひざをクルッと回すことが、回転スピードを上げるポイントでした。その回転のスピードと強さを受け止めるのが、左ひざと左足親指のつけ根です。いわゆる左のカベと呼ばれるものですが、ここで重要なのは柔らかく受け止める、ということです。
スウィングにおいて、左のカベが重要なのはいうまでもありません。しかし、カベという言葉の印象でしょうか。強く、硬い印象があり、リキんで体を強ばらせてしまう人が多い気がしてなりません。リキみがブレーキ、脱力がアクセルであることはすでに述べました。大雪で松は折れても、柳が折れないのは柔らかいからです。左のカベは、そのようなイメージを持つべきです。実際、荒川先生がバットやクラブを持ってシャドースウィングをすると、85歳とは思えぬスピードで振りながら、その動きは日本舞踊のようなしなやかさでした。
回転とスピードを柔らかく受け止めるのが左ひざです。ひざに限らず関節は緩衝材の役割を果たしますから、これを柔く動かせるよう意識することはとても重要です。
そのための練習法として私たちは、左の足の甲に砂を乗せて素振りしたり、ボールを打っています。砂が落ちないように振ることで、いわゆる左ひざの割れが防げ、柔らかく、強い左サイドのカベができます。
イチローはベースの前でボールをつかまえる。インパクトは左足のかかと線上
かつてNHK・BSが、イチロー選手のメジャーリーグ通算3000本を記念して、そのすべてのヒットを特別番組で放送したことがありました。荒川先生から「参考になるから絶対に観ておけ」と紹介され、録画したDVDはいまも大切な教材になっています。
さて、最初にそれを観たとき、私などはその技術の高さ、ヒットの美しさに、ただただ感動したのですが、荒川先生の洞察力と本質を見抜く眼力には舌を巻いたものです。
先生が注目したのは、バットがボールをつかまえるヒッティングポイントでした。3000本のヒットは、ほぼ例外なくベースの前、左打ちのイチロー選手の場合、右足の前でボールをつかまえていました。
荒川先生は、ヒットを打ったときのイチロー選手のバットは「絶対にベースを横切っていない」といいます。これは王さんも同じで、ボールに向かって一直線にバットを振り降ろすダウンブローだからです。バットがベースを横切るのは、バットが寝てヘッドが垂れるからで、ボールに食い込まれて空振りか打ち損じにしかなりません。その原因は特に上体のムダなリキみ、そのリキみが生む反動であることは、これまで述べてきた通りです。
荒川先生はまた、「これが体の真正面で打つということ」ともいいました。なぜベースの前でボールをつかまえるのが、体の真正面かといえば、それはスウィングで体が回転、遅れてきたバット(クラブ)が手元を追い越して、いわゆるヘッドが走ってボールをつかまえるからです。
これをゴルフに当てはめると、ベースの前はドライバーでなら左足かかと線上、ボールを打った後に最下点がくるアイアンならボールの約30センチ先あたりになるでしょうか。ただ大事なのはボールポジションではなく、そこをインパクトに、氣をボールに強くぶつけられるかです。
インパクトを強く、鋭くする両手のしぼり
荒川先生から教わった体の動きのなかで、特に刺激的で衝撃的だったのが、両手の〝しぼり〟という動きです。特に右手のしぼりについては、実際にその動きをスウィングに取り入れると、目からうろこが落ちるような思いでした。
「しぼりがなければ、日本刀で人を斬ることはできない」
とのこと。すでに何度も登場した、王さんたちの真剣で藁の束を斬る練習も、突き詰めればこのしぼりを身につけるためのものだったようです。
しぼりというと多くの人は、雑巾しぼりを思い出すでしょう。しかし剣術、野球のバッティング、そしてゴルフスウィングでいうしぼりは、握り方からまったく違います。その最大の違いは、水の出る方向です。雑巾をしぼれば水は下に落ちますが、スウィング中のしぼりは消防ホースのように前に前にと出していくイメージです。小祝さくらプロはこのしぼりで飛距離を10ヤード伸ばしました。
具体的にはインパクトからその直後、右の手のひらと左手甲を、地面に向ける動きです。厳密にいえば向けるのではなく向く、〝しぼる〟ではなく、勝手に〝しぼれる〟動きを指します。右手人差し指を立てて、水が前に飛んで行くよう意識し、素振りしてみましょう。反対の動きをすれば、水が下に落ちることもわかります。
しぼりは右ひじを柔らかく、腕をムチのように使うこと
スウィング中に〝しぼり〟をしたら、腕が捻れて悲鳴をあげるのではないか、と思う人もいるでしょう。荒川先生にこの動きを教えてもらった当初の私がそうでした。まして荒川先生は、しぼりを繰り返すばかり。腕からひじ、肩、首に激痛が走ることもありました。
しかし、これを繰り返すうち、荒川先生のいう「しぼるのではない。勝手にしぼれる」という意味が、少しずつ理解できていくようになりました。というのも体のどこかに痛みが現れるのは、自分でしぼろうとするリキみだったからです。
そこで腕をブラブラにして、しかもシャフトの柔らかいクラブを振ってみると、不思議なことに腕が勝手にしぼれ、しかもまったく痛みが走りません。このしぼりの動きを身につけるため、私はスポーツタオルの先端を結び、それを選手たちに振らせています。柔らかいタオルだとグリップを強く握ることもありませんし、力任せに振ると上手に振れません。右肩に乗せたタオルを左肩に乗せるつもりで振って、タオルが首に巻きついたとき、その手の動きがしぼりだと初めて気がつくのです。
そのためのコツはひじ、特に右ひじの力を抜いて、どれだけ柔らかく使えるかだと思っています。トップでは曲がってる右ひじは、ダウンで徐々に伸び始め、インパクトの直後には真っ直ぐに伸び、そしてしぼれて体に巻きついていくのです。このようにひじを柔らかく、ムチのように使うことで、スウィングの回転、ヘッドスピードが速くなります。
荒川先生のインサイドイン、つまりインパクトの直後にインに振り抜いていく軌道は、しぼりなしにはできないスウィングです。ちなみに全盛時代の王さんのスウィング写真は、私たちが振るタオルのように、振り抜いたバットが体に巻きついているように見えます。