(本記事は、中島 豊氏の監修・編書「社会人の常識: 仕事のハンドブック」経団連出版の中から一部を抜粋・編集しています)

職場環境
(画像=PIXTA)

女性と職場環境

昨夜は、林部長が私と那須山くんを食事に連れて行ってくれました。南青山のおしゃれなイタリアンレストラン。新人の私たちの様子を聞きたかったからだって。
「早く仕事を任せてもらえるようにがんばります」とお話したら、「それはよかった。でも、いい時代になったよね。私が入社したころは、女性は「女の子扱い」で、なかなか仕事を任せてもらえなかった」と遠い目で言ってました。
そういえば、きのう昼過ぎに大杉専務がふらっと営業部の階にきて「おおい、雅子ちゃん」って呼んでたけど、林部長、むっとした感じで、わざと聞こえないふりしてたっけ。

男女ともに貴重な戦力として育成しています

今日、日本でも経済社会、産業社会での女性労働力への依存度は非常に大きくなっています。女性を優遇して登用するかどうかは企業の裁量によると考える人もいますが、明らかに十分な教育を受けている女性を登用できずにいる企業が、それを実行している企業に比べて競争力が低下するのは、明らかです。

「女性が働きにくい職場」では社員の不満が高まります。一方、働きやすい環境だけを整備したからといって、仕事のやる気が高まるとは限りません。すなわち、たとえ会社がセクシュアル・ハラスメント防止やジェンダー・ハラスメント(gender:社会的な性差)の防止に一生懸命に取り組み、「男性の役割」「女性の役割」といった仕事を性別で固定的に与えることはしないようになったとしても、女性社員にはいつまでたっても自分のキャリアにつながらない補助的な仕事や周辺業務ばかりを与え続けていると、その社員は会社に見切りをつけてしまいかねません。女性が仕事に積極的に取り組むためには、会社がやりがいのある仕事を配分し、また将来のキャリアを見据えた支援をしていく必要があります。

セクハラは法律で禁止されています

セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)が法律で禁止されるようになったのは、1999年に男女雇用機会均等法が改正されてからです。セクシュアル・ハラスメント禁止の法制化の取り組みは、日本は欧米に比べてずいぶん遅かったといえます。そしてこのときの改正法は、女性差別をなくす趣旨で制定され、「男性差別」を禁止していたわけではありませんでした。つまり、「女性であることを理由とする差別」を禁止したものの、「男性であることを理由とする差別」は禁止されていませんでした。この点は、その後の2007年の法改正により、「女性に対する差別を禁止する法律」から「性別による差別を禁止する法律」へと改められました。そして、それまでは女性へのセクハラのみが禁じられていたものが、男性へのセクハラも禁止されるようになりました。

セクハラと会社の処罰の関係についてはどうでしょうか。セクハラがあった場合の加害者に対する懲戒処分の適否は、セクハラ行為の具体的な性質・内容・回数などと関係します。職場の秩序を乱す身勝手な行為として、たとえば出勤停止や減給などが科されます。行為が悪質で執拗に繰り返されているような場合には、懲戒解雇事由として扱われることもあります。

ただし、セクハラか否かはきわめて主観的な問題であることから、懲戒処分は加害者側の事情や弁解も十分にヒアリングしたうえで慎重に判断がなされることになります。

苦情・相談窓口が設置されています

セクハラ問題を扱う際、未然防止対策・再発防止対策がもっとも大切です。セクハラが起きた場合、あるいはセクハラかどうかまだよくわからないが、セクハラのような気がするといったケースでは、相談窓口を通じて適切に対応がなされることになります。

窓口担当者には、カウンセリングなどの研修・教育を受けた人があたっています。また社員が相談をもちかけやすくするため女性担当者を必ず配置していますので、職場でハラスメントの問題に悩んだときは、まずは相談窓口で専門家に相談するようにしましょう。

自分の判断だけで対応してしまうと、いつまでも問題が放置されたり、状況が悪化したりして、自身にとっても会社にとってもリスクが大きくなってしまいかねません。

グローバル化

今日は先輩に同行して、トレンドソフトというIT企業を訪問しました。この会社は世界的に拠点を拡大していて、外国籍の社員も大勢働いているそうです。対応してくださったのが、ラジーブ・アイヤーさん。インドの出身だそうですが、日本語も流暢で、ちょっと安心。
アイヤーさんはアメリカのコロンビア大学に留学し、哲学を学んだそうです。日本の骨董や伝統文化にも詳しくてびっくり。「京都で座禅を組みたい」とおっしゃったので、「私はお寺に興味がなく、よくわかりません」と答えたら、「インターネットより日本の古いもののほうがおもしろいですよ。日本の若い人はそうしたものに興味はなさそうで、文化が失われていくのが悲しい」って言われてしまいました。

世界中の情報が即座に得られるようになりました

グローバル化は、時間をかけていくつかの段階を踏みながら進んできています。最初のグローバル化は、19世紀の半ばから20世紀の初めにかけて起きたといわれています。当時、鉄道、汽船、自動車などの発明により輸送コストが大幅に安くなったこと、電信・電話テクノロジーが進み情報の伝達速度が上がったことなどにより、経済活動が国境を超えて行なわれるようになりました。たとえば、そのころのイギリスの金融機関は世界各地の植民地からの情報にもとづいて、新興市場に多額の投資を行なっていましたし、アメリカの自動車産業は、ヨーロッパを中心に世界に輸出するようになりました。

時代が下り、グローバル化はもっと生活の身近なところで感じられるようになりました。1980年代には、モノづくりに優れた技術をもった日本は、品質の高い製品を世界に輸出し、さらに主要市場に製造拠点を設けて現地生産を行なうようになりました。

1990年代に入ると、衛星通信やインターネット技術などの通信分野が大きく進化したことで、個人と個人が国を超えてリアルタイムに結びつけられるようになりました。それによって、有名な世界の製品やブランドが身近になり、世界中の人々の憧れの的になりました。

日本でも、この当時、外国のブランドが数多く国内に店舗を構えるようになりました。たとえばマクドナルドは、1995年から97年の間に国内で1000店を超える新店舗を開店させました。GAPやスターバックスなど、今日われわれの身近にある店舗も、このころに第一号店をオープンさせています。

多くの職場でグローバル化が進んでいます

グローバル化がますます身近になったことにより、職場に外国籍の社員が多数雇用されるようになりました。特に、最近では、IT企業や金融機関を中心に欧米系に加え、インドや中国といったアジア系の社員の雇用が増加しています。日本の企業ではこれまで日本人だけのモノ・カルチャー(単一文化)を前提とした職場の管理や運営が当然とされてきたことから、民族や人種の違いということが問題にされることはほとんどありませんでした。しかし最近は、異なる文化の背景をもった社員との間で文化摩擦や誤解、偏見が頻繁にみられるようになってきているようです。

国籍や文化が異なれば、組織の多様性(ダイバーシティ)が高まり軋轢も生じます。たとえばインドの人々の英語は、言い回しや言葉の使い方が欧米人とは異なります。そのため彼らの話しぶりは日本人にとって時には攻撃的に映ることもあるようです。同じように、中国系の人々の英語を攻撃的に感じてしまう人もいます。こうしたことで対人関係、特に上司部下の間で不要な摩擦が生じている例をしばしば見かけるようになりました。

価値観や文化の違いを尊重することが不可欠です

グローバル化された職場においては、文化や価値観の違いをその人の個性として受け入れ、尊重するように全員が配慮しなくてはいけません。たとえば宗教上の理由から肉食や飲酒を禁じられている人もいます。そうした人々にとって日本流の酒席での「飲ミュニケーション」は苦痛となる点を理解することが必要です。

そうした気づきを促すためにも、外国語の素養を身につけることが望まれます。語学をマスターすることは、別の世界をもう一つ知ることでもあります。そして、語学だけでなく、その国の文化・慣習などまで理解したいものです。そのためには、まずは自分の文化をしっかりと理解して、他国の人に自国の文化を語れるくらいの教養を身につけることが望ましいでしょう。これからは、ますますBe Japanese with the eyes open to the world(世界に目を見開いた日本人であれ)ということが、ビジネスパーソンの条件となっていくでしょう。

社会人の常識: 仕事のハンドブック』
中島 豊(なかしま ゆたか)
日本板硝子(株)執行役人事部統括部長。富士通、リーバイストラウスジャパン、日本ゼネラル・モータース、ギャップジャパン、楽天にて人的資源管理の職務を歴任し、2007年日興シティグループサービス(株)人事部長、2009年シティグループ証券(株)常務執行役員人事部長。2019年より現職。

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