「自分だけ笑っていない」はラッキーなこと

それ以来、佐久間氏は、世の中の流行りを追わずに、自分の興味や違和感をヒントに企画を立てるようになった。そこからヒットが出るようになったそうだ。

「例えば、『誰も言わないのだけど、誰かに言ってほしいんじゃないかな』と思うことを企画すると、人気が出ることが多いですね。『ゴッドタン』の『腐り芸人セラピー』もそうです。芸人に対して皆がうすうす思っていることを言うことで、面白いと思っていただけているようです」

だから、企画会議のときに、自分一人だけが周囲と違う反応をしたときは、「ラッキー」と感じるという。

「皆がゲラゲラ笑っているのに、自分だけ面白さがわからない。こういうとき、『自分の感覚はちょっと変なんじゃないか』と感じ、場の空気を壊さないようムリして笑う人が多いと思いますが、心配する必要はまったくありません。そこを掘っていけば企画のヒントが見つかるわけですからね。むしろラッキーなことです」

「開けていない箱」に隠れている面白さ

佐久間氏が企画を生み出すヒントにしているのは、自分の内面だけではない。芸人の内面にも注目している。

「芸人の中には、まだ『人前で開けていない箱』を持っている人がたくさんいます。『ひねくれた物の見方をする』『意外と真面目』といった性格や、『意外と歌が上手』といった特技などです」

箱を開けていない理由は色々ある。他のディレクターや放送作家がスルーしていることもあれば、本人が「需要がない」と思い込んでいることもある。

「要するに、マーケティングの観点から、『開けても意味がない』と判断されているわけです。しかし、その開けていない箱の中身のほうが、本人がムリせずに出すことができるうえ、面白いことが少なくありません。そこで、その部分を前面に押し出した企画を立てているのです」

『ゴッドタン』の人気企画はこうして生まれた!

前出の「腐り芸人セラピー」は、その一例でもある。ほのぼのしたバラエティー番組にうまく対応できない、ひねくれた「腐り芸人」として、ハライチの岩井勇気さんやインパルスの板倉俊之さんにスポットを当て、新しい魅力を引き出した。

「もともと素の岩井君は『腐り芸人』的な物の見方をしていて、僕は面白がっていたのですけど、本人はそれをテレビの前で出してもウケないと思っていたらしいんです。僕は単に『その部分を出して大丈夫だよ』と言っただけですが、それが面白い企画になりました」

他にも、『ゴッドタン』の看板企画「マジ歌選手権」は、東京03の角田晃広さんが歌を自作していて、それがダサ面白かったことをヒントにした企画だし、「キス我慢選手権」も、劇団ひとりさんのアドリブの上手さから「本人を追い込んだら面白いのでは」と生まれた企画だ。

「チャラいキャラクターのEXITが、『実は真面目』という一面を出したのも、『ゴッドタン』です。兼近大樹君やりんたろー。君は、打ち合わせをしているとものすごく真面目なので、収録中に思いつきで『ネタはしっかりした真面目な作り』とカンペを出したら、ハネちゃったんですね。当初のイメージと真逆のキャラクターなので、本人たちにとって良かったのか悪かったのかはわかりませんが(笑)」