「自分に合った特徴」こそ成功のカギになる
佐久間氏は、芸人だけでなく、後輩スタッフの「開けていない箱」も開けている。同局の人気ゲーム番組『勇者ああああ』を板川侑右プロデューサーが企画したきっかけは、いつもゲームの話をしているのにゲーム番組の企画を出さないことを佐久間氏が指摘したことだった。また、ADの真船佳奈氏がADマンガ『オンエアできない!』(朝日新聞出版)で漫画家デビューしたきっかけは、他のテーマの作品ばかり書いていた真船氏に、「ADのことを書いたほうがいい」と指摘したことだ。
「真船は『甥おいっ子がかわいい』みたいな漫画を書いていたので、『自分しかできないことで、ムリしないでできることをやったほうがいいんじゃないの』と言っただけです。本人に合っている特徴のことを、業界ではよく『仁(にん)』と言いますが、売れるためにはその『仁』を見つけることがすごく大切だと思います」
ただし、佐久間氏は、ムリに価値観を押しつけるようなことはしないという。
「芸人の中には、開けていない箱を開けてしまうとキャラクターが変わってしまい、やりづらくなる人もいます。だから、開けていない箱を開けるときは、ほとんどの場合、『いつもと違った打ち出し方をしますけど、いいですか?』と本人に確認を取ります。面白ければいいというわけではなく、あくまで相手にとってプラスになる形でやろうと考えています」
なぜ若手の芸人には細かく説明しないのか?
面白い番組企画を思いついたとしても、プロデューサーが出演者やスタッフを上手く導かなければ、形にすることはできない。収録の現場で、佐久間氏はどのようなことを心がけているのだろうか。
「自分にできることとできないことをちゃんと見極めて、できないことは人に任せるようにしています」
実は佐久間氏は、30代半ばまで、番組制作に関して、なんでもかんでも自分でやるタイプだったという。コント番組『ウレロ☆シリーズ』は、シーズン4まで全話、最終的に佐久間氏が編集したという。
「でも、40歳を超えたあたりから、『自分の能力はもう伸びないから、自分を過信しないほうがいい』と思い始めました。抱えている番組の数が増えたこともあって、『不得意なことは他の人に任せたほうが良いものができる』と考え方を改めたんです」
もっとも、番組に対するクオリティに関して妥協するつもりはない。そこで、スタッフに仕事を任せるときは、企画内容について細かく丁寧に説明する。ただ、出演者については、相手によって伝え方を変える。すでに一定の地位を築いている実力派芸人には細かく説明する一方で、まだ若手の芸人に対してはあえて細かく説明しないようにしているそうだ。
「若手芸人に細かく説明しすぎると、『言われた通りやらないといけない』と真面目に考えてしまい、縮こまってしまうからです。そこは相手のキャラクターを見て変えますね」
常に自分や相手の内面に目を向ける。そのことが、佐久間氏のプロデュースの根底にあるようだ。
《取材・構成:杉山直隆 写真撮影:永井 浩》
《『THE21』2020年3月号より》
佐久間宣行(さくま・のぶゆき)
〔株〕テレビ東京 プロデューサー
1975年、福島県生まれ。99年、早稲田大学商学部卒業後、〔株〕テレビ東京に入社。『TVチャンピオン』などで、チーフアシスタントディレクターやロケディレクターとして経験を積みながら、入社3年目に『ナミダメ』でプロデューサーに抜擢。その後、『ゴッドタン』(2005~)や『ウレロ☆シリーズ』(11~)などのプロデューサーを務める。19年からはラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)のパーソナリティも務めている。(『THE21オンライン』2020年03月18日 公開)
【関連記事THE21オンラインより】
・いい企画が生まれて広がる「アイデア会議」のススメ
・伝わる企画の立て方……まずは全体の構成・骨子から考えよう
・即断即決せず 「優柔不断になる」 勇気