(本記事は、宮村岳志氏の著書『ブランディング・ファースト』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

結局、「ブランディング」とは何か?

ブランディング
(画像=PIXTA)

価値を磨き、高めていく

前回は、みなさんのブランディングに対するイメージを上書きする目的で、概念的な話を中心にしてきましたが、今回は、ブランディングについて、より具体的な内容でお伝えしていきます。

すでに、「ブランディングとは、企業の大切な宝物を、誰もが納得する柱として確立させるための施策」だと説明していますが、ここで改めて、より具体的な形で再定義しておきます。

まず、下の写真をご覧ください。

ブランディング・ファースト
(画像=ブランディング・ファースト)

小売店の棚に、数え切れないほどの商品が並んでいます。この膨大な商品の中から、ユーザーに選ばれるために必要なのが“ブランド力”です。

ブランドとは、マークでも名前でもなく、ましてや広告や宣伝による装飾でもありません。ユーザーのさまざまな体験から形成されたイメージのかたまり。簡単に言えば、そのプロダクトが持つ、「目に見えない空気」や「雰囲気」のようなものです。

私たちは、プロダクトを選ぶとき、意識的にせよ無意識的にせよ、ブランドに左右され、影響を受けています。しかし、ブランドという武器を装備できるのは、残念ながら主人公たる自社だけではありません。すべての競合がブランドを確立したいと願っています。

そんな状況下で、膨大なライバルの中から選ばれるには、自社のプロダクトの価値を磨き、高めていくことが必要です。

ブランディングの目的は、ここにあると言っても過言ではありません。

「売れ続ける力」を目指す

つまり、ブランディングとは、「自社やプロダクトの価値を磨き、高める経営戦略」と定義できます。そして、価値の高め方にも種類があります。

目指すべきは、POP(競合他社との差を埋めて「追いつく」差別化)ではなく、POD(競合他社にないものを伸ばし「追い越す」差別化)です。

プロモーションは短期的な「売る力」であり、ブランディングは中・長期的に「売れ続ける力」という表現があるのですが、目標は、単発の成功ではなく、売れ続けるための本質的な力を身につけることです。広告を打つのを止めて、露出が減ったら売れなくなるようなら、ブランドを確立できたとは言えません。一方、広告を打たなくても継続的に買ってくれるユーザーがいるようなら、ブランディングに成功している―という見方も可能です。

ですから、まずもって目指すべきは、自社の柱(ブランディング)となる部分に注力して、市場の中で埋もれないプロダクトをつくり、育てていくことです。

ただし、本物のプロダクトを生み、育てていくことが大前提ながら、プロモーション的な広告宣伝を軽視していいわけではありません。

なぜなら、価値を磨き、高める目的は、「適切なターゲット(対象顧客)にプロダクトの価値を認めてもらうこと」だからです。どれだけ魅力的なプロダクトであったとしても、誰にも気づかれなければ意味がありません。

言い換えるなら、プロモーションとは、「適切なターゲットに、プロダクトを届け、知ってもらうための施策」なのです。

そして、当たり前の話ですが、ターゲットが価値を感じないプロダクトでは、知ってもらったところで選ばれませんので、まずはブランドの柱を育て、プロダクトの価値を高めていくブランディングに着手するべきなのです。

「本質」にフォーカスし、内面から外見を決める

ワタシの仕事
(画像=miya227/Shutterstock.com)

ユーザーは一瞬で価値を判断する

ブランディングを進めていく上で大きな問題となるのは、「すべての企業が自社のプロダクトを知ってもらうための努力を、ある程度はしている」という点です。

広告を打てるのが自社だけの世界なら、じっくりと言葉を尽くして説明すれば、自分たちの柱たる部分について知らせ、理解してもらうのもさほど難しくありません。

しかし、現在は、情報が世の中に溢れ、ありとあらゆるものがユーザーの時間を奪い合う時代です。その観点においては、たとえゲーム会社ではない企業でも、スマートフォンのゲームアプリだって立派なライバルとなりうるのです。じっくりと自社ブランドについて話を聞いてもらうのは至難の業と言えます。

世界の音楽のトレンドも、イントロが減ってすぐ歌から始まる曲が増えたり、1曲が5分あると「長い」と言われるようになったりしているそうですが、ユーザーは、企業がプロダクトに込めた思いなど知ったことではなく、一瞬で良し悪しを判断してしまうのです。

そこで特に重要になるのが、「デザイン」です。

コカ・コーラのペットボトルを見て、ユーザーが「コカ・コーラだ」と理解し、その味や炭酸の爽快感を思い浮かべるのは、ペットボトルのデザインが、コカ・コーラという商品やブランドを体現したデザインになっているからです。

適当に英語で商品名を書けばいいというものではなく、色づかいや、モチーフの配置にもすべて意味があります。

逆に言えば、一度使ってもらえれば大企業のプロダクトに負けずに選ばれるだけの魅力を備えた〈プロダクトA〉ができたとしても、その魅力を体現したデザインでなければ、ひと目でマイナスのジャッジを下されてしまうのです。

近年、ユーザー自身も気づいていない、行動の影に隠された本音や動機を意味する「消費者インサイト」が注目を集めています。ユーザー自身が意識して行う行動はわずか5%で、残り95%は無意識に行っているという調査結果があるほどです。『人は見た目が9割』(竹内一郎著/新潮社)というベストセラーもありますが、その無意識のジャッジに、目から脳に飛び込んでくる情報が大きく影響するのは間違いありません。

そこで一度でも、(無意識的なものであれ)良くないジャッジを下されてしまうと、マイナスイメージを覆す機会はまず訪れません。そのユーザーにとって〈プロダクトA〉は、「人気の競合プロダクトと同じ価格では買いたくない」ものであり続ける可能性が高いでしょう。

つまり、たとえプロダクトの価値を磨き、高めることに成功しても、その価値がユーザーに伝わらなければ、真価を理解されないまま終わってしまいかねないのです。

これが、ブランディングとデザインが、切っても切り離せない存在である理由です。

デザインがブランドの真価を伝える

ここで大切になるのが、「ブランドはインナーから生まれる」という考え方です。

デザインはブランドの真価を伝える重要な要素です。これは間違いのない事実ですが、だったら見栄えの良いデザインがあればいい―という話ではありません。本当に素晴らしいデザインでも、中身がスカスカなら、誇大広告として悪評が広まるだけです。

さらに言うなら、魅力的なプロダクトを生み出せるだけの、企業や経営者の思い、社会に伝えたいメッセージが、ブランドの根幹にあることが非常に重要です。

これは、経営者が定めた指針と姿勢があり、従業員がそれに共鳴してくれるから魅力的なプロダクトができる、という「モノづくりの理屈」だけでなく、「マーケティング」の観点からも言えることです。

特にこれからは、デザインが間接的に伝える「企業や経営者のメッセージ」の重要性が高まっていくと考えられています。

ミレニアル世代(定義に幅がある言葉ですが、ここでは1981~1996年生まれとします)は、気候変動などの社会問題に対する意識が高く、プロダクトを選ぶ理由として、環境保護などの企業の社会的責任(CSR)を重視する人が多いことで知られています。また、その下の世代は、社会問題に対する意識がさらに高いとする調査結果もあります。

環境(Environment)と社会(Social)と企業統治(Governance)に配慮した会社に投資する「ESG投資」も注目を集める昨今、「その企業やプロダクトが、社会にとって良いものであるか」という点は消費者インサイトにも大きく影響します。若者たちの心に訴えるもののない、見せかけだけのプロダクトは、次第に、確実に、通用しなくなっていくでしょう。

つまり、ブランディングを成功させるには、「素晴らしいデザインをまとわせ、社会やユーザーに届けたい」と思えるだけの本質がなければいけません。

とはいえ、本来、企業経営をする上でミッションやビジョンやバリュー(MVV)などがまったく存在しない状態は考えにくいでしょう。企業経営をするにあたっては、何らかの「思い」があるはずです。ですから、基本的にはいま生き残っているすべての企業には、何かしらMVVと言えるものがあるのです。

ただ、残念ながら、それがプロダクトにうまく反映されていない、または、MVVが単なる「言葉の羅列」でしかなく、企業活動と遠く離れた場所に存在していると思われる企業が多いのも事実です。

そうではなく、企業が生まれ、活動する原点にある本質を組織全体に宿らせ、ブランドに育て上げるのがブランディングの基本方針です。

「順番」が重要な理由

これは、プロダクトに限った話ではありません。企業の柱たる本質は、企業のありとあらゆる部分に現れることが求められます。

たとえば、高級ファッションブランドのお店に行くと、商品だけではなく、店内の空間ディスプレイなども、そのブランドを体現する魅力に満ちており、外から店内を覗くだけでドキドキしたり、少し緊張したりするものです。ところが、店内に入ったときの店員さんの応対がラフなものだったら、みなさんはどう思われますか?

カジュアルなお店なら好感を抱く理由になるかもしれませんが、高級ブランドとしては、ブランドイメージを毀損する応対と感じる方が多いのではないでしょうか。

ブランドとは、「プロダクトから最前線の従業員の振る舞いまで、一気通貫にすべてを貫くもの」です。逆に言えば、その統一なくして、ブランドは確立できません。

まず内面を磨き、しかるのちに外見も磨く―。これが、ブランディングの正しい順番ですが、企業の内面にも複数のレイヤーがあります。

まずはインナーから。そして、プロダクト。魅力的な人たちが、魅力的なプロダクトを生み出す。その上で、見せ方=デザインを考えるのです。

ブランディング・ファースト
宮村 岳志
株式会社グロウ・リパブリック 代表取締役、エグゼクティブクリエイティブディレクター。2003年にグロウ・リパブリックを創業。 ブランディング・クリエイティブ事業のかたわら、VJ(ビデオジョッキー)としても活動し、国内外の数多くの有名アーティストとイベントなどで共演。現在は、時流を予測したマーケティングから、コンセプト開発、クリエイティブ、分析・運用まで、一気通貫でディレクションを行っている。特にブライダル業界においては150施設以上の案件に携わるほか、美容・ファッション・教育・飲食など幅広い業界で、ビジネスとクリエイティブの両軸の深い理解を武器に、業界で一目置かれるブランドや上場企業のパートナーとして活躍している。その他、バリ島に特化した高級別荘の宿泊サービスの運営や、カフェ・飲食店の経営、音楽関連のグループ会社の経営にも携わる。

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