(本記事は、宮村岳志氏の著書『ブランディング・ファースト』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

経営者に知ってほしい、ブランディング成功のポイント

ブランディング
(画像=PIXTA)

ブランディングを成功させる3つのポイント

私は書籍内で、ネクストブランディングの好事例として、ブランディングとデザインの先進国であるアメリカのハンバーガー店「シェイクシャック」と、オーガニックにこだわった小売りチェーンの「ホールフーズ・マーケット」を取り上げています。

シェイクシャックやホールフーズには、強いこだわりとも言える、明確なブランドコンセプトが備わっています。金太郎飴のように、どのタッチポイントを切っても「らしさ」が感じられます。

そして、そんなブランディングと密接に連携したデザインがなされ、さまざまなタッチポイントでブランド体験を得られるようになっています。

では、どうすればこんなブランディングが実現するのか。また、経営者やボードメンバーは何をするべきなのか。

これまで約400人の経営者と仕事をしてきた中で、私が必要不可欠だと感じるポイントを3つに絞ってお伝えします。

ポイント① クリエイティブ/テクノロジー/ソーシャルグッドの視点

クリエイティブの話はこれまでにしてきた通りです。デザインを単なる「最後の仕上げ」だけのものと思わずに、ブランド戦略の最初からクリエイティブ担当者がコミットするようにしてください。

そして、ただ任せるだけではなく、いまや欧米のビジネススクールでもデザインを学ぶように、経営者自身も、クリエイティブの知識や視点をある程度、身につけるべきでしょう。

私たちのような第三者を入れて翻訳させることも可能ですが、理想は経営者やボードメンバーが、デザイナーと同じ言語で会話できることです。

近年、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』(山口周著/光文社新書)や『アート思考―ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』(秋元雄史著/プレジデント社)など、アートとビジネスについてのビジネス書が人気を博しているのも、クリエイティブの視点を持つことの重要性を示しているように思います。

テクノロジーやデジタルも同様です。

『アフターデジタル―オフラインのない時代に生き残る』(藤井保文・尾原和啓著/日経BP社)で話題の「アフターデジタル時代」がいずれ訪れると考えられています。これは、オンライン・オフラインという区分けすらなくなり、私たちの生活すべてがデジタルに包括される時代を意味します。たとえリアル店舗に足を運んだとしても、その店舗内のシステムもすべてデジタルのコントロール下にあるということですが、すでに無人コンビニなどで、そのビジョンの一部は可視化されていると言えるでしょう。5Gがスタートすることで、その動きは大きく加速するかもしれません。

このような時代に、デジタル技術の知識がまったくない経営者では問題です。

もちろん、経営者がすべてのプロである必要はありません。経営者はまず「経営のプロ」であるべきです。不得意な分野は、その分野に強い部下や、社外の第三者を見つけて任せればよいのです。また、そうすることが非常に重要です。

ただし、人生で音楽を1曲しか聴いたことがない人には、その曲の良し悪し、新しいのか古いのかが判定できないように、まったく知識がないと、他者の強みも理解できません。

ある程度の知識があることで、他者の持つ「自分にないスキル」の価値を理解でき、仕事を任せるかどうかの判断もできます。その判断自体を第三者に任せることも可能ですが、その第三者が自分を騙して、いい加減な仕事をする可能性もゼロではないので、やはり経営者自らがクリエイティブやデジタル技術に親しみ、視野を広げていこうとする姿勢も大切だと思います。

そして、ソーシャルグッド。環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して良いインパクトを与える活動の重要性は、第2回でお伝えした通りです。

先ほどお話ししたホールフーズは、まさにこの典型的な事例でした。

オーガニック製品の取り扱いはもちろん、地元の食材を積極的に扱い、その生産や加工品の製造にも多く参画していました。

また、同社のYouTubeチャンネルでは、生産者の思いや日々の仕事ぶりの発信なども含めて広く地域への貢献を行い、それを知ってもらうための施策もすることでファンを増やし、通常の値段設定より3割程度高いと言われる価格でも、プロダクトが「売れ続ける」力―まさにブランド力を発揮していました。

加えて、「自社も社会の一員である」という意識は大切です。働きがいのある環境、できるだけ良い労働条件なども、広義のソーシャルグッドと言えるでしょう。

ミレニアル世代への目配せといった大きな話ではなくても、単純に自社の悪口などを就職支援SNSなどに書き込まれて、優秀な若者から選ばれない企業になっていくに違いありません。

そのような観点からも、デジタルやITを学ぶことはおすすめです。自分にない若い方々の能力の価値は、知識を身につけることで可視化できます。そうすれば、敬意を抱いて向き合うことも容易になるでしょう。

ポイント② CCOを設置する

CCOとは「Chief Creative Officer」の略称です。日本ではまだ一般的な役職ではありませんが、ブランド戦略に関するすべてのデザイン管理をする役職と言えるのがCCOです。近年は「顧客体験の設計」を統括するCXO(Chief Experience Officer)を設置する企業もありますが、体験を設計するのもデザインの領域ですから、CCOと近しい役職と言えるかもしれません。

大切なのは、経営層にクリエイティブを理解し、ブランディングのデザイン戦略を統括できる存在がいることです。そうすることで、経営戦略としてのブランディングの質と実行力が飛躍的に高まります。加えて、他の経営層のメンバーや、現場のクリエイティブ以外の部署のメンバーに、デザイナーの意図を翻訳して伝えることも期待できます。

また、いまの日本企業は、どうしてもデザイナーやクリエイターが単なる「実行部隊」として組織の下部・末端に配置されがちな点も問題ではないでしょうか。これでは、左脳と右脳が分断されて、経営戦略としてのブランディングがうまく進められません。

これまで、デザインはどうしてもマーケティングの「あと(または下)」の議題となりがちでした。まず論理的にマーケティング戦略を構築し、それに合わせたデザインを考えるという「リレー方式」でのブランディングが大多数であるように思います。

しかし、これまでに述べてきたように、それではブランディングは成功しません。理論とデザインが前後の関係ではなく、並列の関係で戦略を推進する「スクラム方式」を実現するには、プロジェクトの始まりからクリエイティブ担当者を参画させることも大切ですが、それに見合った立場や権限を持たせることも大切なのです。

「問題解決のデザイン」は、何度も述べたように特殊技能です。経営層にCCOのような役員を入れることが理想ですが、そうでなくても、クリエイティブを担当する優秀なメンバーには、それにふさわしいポジションを与えるべきだと私は考えます。

ポイント③ ブランディングは、継続してこそ

ブランディングは、本当に「継続してこそ」です。

実際、ブランディングの現場でも、「担当が代わったから方針を変える」とか、「思うような結果が出ないからブランド戦略を変える」といった声がよく聞かれます。これは非常にもったいない話です。

ブランディング・ファースト
(画像=ブランディング・ファースト)

このような考え方が生まれてしまうのは、ブランディングを広告宣伝的な戦略だと考えている方がまだまだ多いからでしょう。経営戦略を、担当者が代わったり、すぐに結果が出なかったりするくらいでコロコロ変更する企業はまずありません。また、そうしてもうまくいかないでしょう。

決めたゴールにどう近づいていくか、こまめな検討や現在地の確認等の大切さもあるものの、まずは「継続すること」が重要です。年単位でブレずに続けなければ、ブランドは確立できません。

また、一度ユーザーや取引先にブランドと認識されたとしても、継続できなければ、ブランドイメージは簡単に毀損されます。

先ほどポイント①でホールフーズに触れたとき、「典型的な事例でした」「参画していました」などと、ことごとく文末が「~ました」「~でした」となっていたことにお気づきの方もいるかもしれません。これは、あえて「過去形」として用いました。

なぜなら、先ほどのホールフーズの事例は、「これから先はどうかわからない」という断り書きが必要になるからです。

ご存じの方も多いと思いますが、ホールフーズは2017年、アマゾンに約1兆5000億円で買収されています。もちろん、それが悪いとは言いません。アマゾンのスケールメリットによって、高品質である代わりに高価格帯であったホールフーズの商品にも値下げがたびたび起こっているようです。

また、アマゾンプライムの会員による通信販売の利便性は高く、また店舗でもプライム会員限定の割引きがあるなど、シナジー効果も高そうです。

しかし、多くの報道などを見る限り、ホールフーズのホールフーズたる所以(ゆえん)は失われている気がします。

仕入れは本社に一元化され、それはコストダウンの実現につながっているに違いありませんが、各店舗が契約していた地元業者との関係が絶たれ、各地域のマーケティング担当者も多数解雇されたそうです。オーガニックではない、それなりに高品質で低価格の、平均点が高い大企業の商品も並ぶようになり、品切れで空いている棚が目立つようになっているとも聞きます。

もちろん、「そんなスーパーのほうが便利でいい」と思う人もたくさんいるに違いありませんが、かつてのホールフーズではなくなっている―言い換えるなら、アマゾンという企業が一貫して示してきたビジョンに沿った、別のスーパーマーケットになりつつあるように思います。

この例は、ブランドイメージを裏切らない一貫性を保ち続けるために、いかに継続が重要であるのかを示しています。

経営者はブランド戦略の指針と姿勢を示さなければいけません。そして、指針や姿勢というのは、簡単に変更してよいものではないのです(少なくとも、それが従業員も納得した指針や姿勢であるのなら)。

また、だからこそ、ブランディングの道半ばで不安になり、進行方向を大きく変えるようなことが起こらないように、初期段階で徹底的に議論を重ね、全員が腑に落ちる形で目的地を決定し、ブランディングという船を漕ぎ出さなければいけません。そしてそれは、ホールフーズのように一定の目的地にたどり着いてからも同じことです。ブランド戦略を継続できなければ、「同じブランド」として評価されなくなってしまいます。

ブランディングは、資産として積み上げられる投資です。5年後、10年後、30年後を見据え、大きな成果を残すためにするものです。

これをやめてしまうのは、それまでの積み重ねを無駄にする―あるいは、「投資」のつもりでやってきたことを、1期ごとにリセットされる「経費」にしてしまうようなものです。ブランディングに取り組むなら、最低でも3年はPDCAサイクルを回して細部を修正しながら、しかし大きな方針は変更せずに取り組むべきだと考えます。

また、ブランディングをするなら、始めからそのような意識で体制づくり、ルールづくりをするのも大切です。

経営者や、メインの担当者がどうしても代わらなければいけないこともあります。それは前提とした上で、戦略を継続できるようにするべきです。

たとえば、ブランディング担当者が代わる際には、非常にボリュームのある「ブランド引き継ぎ書類」のようなマニュアルを作成するのが一般的です。このマニュアルの内容は“絶対”で、ブランドを保つための大きな礎となります。これは担当者が代わってから作成するようでは遅いので、ブランド戦略の構築の段階から、ブランドブックなどと併せて制作を進めておくとよいでしょう。

ブランディングの上手な外資系企業に多いのが、コンサルティング会社などのパートナーを起用した上で、ブランド戦略を同じパートナーと共に推進するAE制(AE=Account Exective。下図に示すように、1つのクライアントに専任となる担当責任者がつくやり方)を採用することです。

自社の担当者が変わっても、ずっとブランド戦略に伴走してきたパートナーの担当者がいるので、「絶対に変えてはいけない重要な部分」などについてのチェック機能が働きます。AE制ではない場合との違いを見比べると、AE制の利点がよくわかるはずです。

ブランディング・ファースト
(画像=ブランディング・ファースト)
ブランディング・ファースト
宮村 岳志
株式会社グロウ・リパブリック 代表取締役、エグゼクティブクリエイティブディレクター。2003年にグロウ・リパブリックを創業。 ブランディング・クリエイティブ事業のかたわら、VJ(ビデオジョッキー)としても活動し、国内外の数多くの有名アーティストとイベントなどで共演。現在は、時流を予測したマーケティングから、コンセプト開発、クリエイティブ、分析・運用まで、一気通貫でディレクションを行っている。特にブライダル業界においては150施設以上の案件に携わるほか、美容・ファッション・教育・飲食など幅広い業界で、ビジネスとクリエイティブの両軸の深い理解を武器に、業界で一目置かれるブランドや上場企業のパートナーとして活躍している。その他、バリ島に特化した高級別荘の宿泊サービスの運営や、カフェ・飲食店の経営、音楽関連のグループ会社の経営にも携わる。

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