本記事は、杉山卓也氏の著書『タクヤ先生のメンタル不調相談室』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

Q 起きてもいないことがずっと不安で仕方がありません。

不安
(画像=PIXTA)

数年前、電車に乗っていた時にいきなり胸が苦しくなり、呼吸ができなくなってしまいました。

パニック障害と診断を受け、治療を続けていますが、それからというもの、なにか行動をしようとした時に、常に不安がよぎるようになりました。

電車やバスに乗っている時、自分で車を運転している時に「またあのパニック発作が起きたらどうしよう」というのが一番多いのですが、最近はその傾向が悪化しています。

「寝ている間に心不全で死んでしまうかも…」とか、「こんなことを言ったら嫌われてしまうかも…」といったように、生活のあらゆる場面で不安が頭をもたげるようになってしまい、本当に辛いです。

実際にはパニック発作も数年前の一度きりで、その後は起きていません。

色々な出来事への不安もほとんどが杞憂に終わるのですが、どうしてもそうした不安がこころの中に湧いてくるのを、抑えることができません。

たった一度の経験でこんな風になってしまうものなのでしょうか?

病院での治療を続けているのに、不安傾向はどんどん悪化しています。

本当に毎日が辛いです。

もう以前のような、健全な思考ができた毎日に戻ることはできないのでしょうか?

先生、教えて下さい。

A「予期不安」からは抜け出すことができます。

パニック発作の恐怖体験が「予期不安」を呼び寄せてしまったのですね。

非常に多く見られることです。とてもお辛い毎日かと思います。

一般的に予期不安は、パニック発作のコントロールとともに軽減していくことが多いのですが、今回のお悩みのように、病院で治療を進めているのに状況が改善しなかったり、悪化したりしてしまうケースもあります。

ただ、こういう場合でも、お薬だけではなく「認知行動療法」と呼ばれる治療法や、漢方薬での改善が望めるケースも多いので、どうか安心して下さい。

●ちょっと詳しく解説

予期不安はパニック障害、パニック発作から併発することが多いとされています。

以前にパニック発作などを起こしたことがある方は、「もしこの状況でパニック発作が起きたらどうしよう」という恐怖を感じやすくなります。それが広がっていくと、「もし何か(対処できない事態)が起きたらどうしよう」と一人で外に出るのが怖くなったり、そのうち衆人環境に出ていくことができなくなってしまうこともあります。

病院ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれるお薬を使ったりして、治療に臨むことが多いです。

ただ、それでも効果が十分でなかったり、人によってはこうしたお薬に対しての精神的依存が起きたり、眠気やふらつきなどの副作用が起こったりすることもあります。

西洋医学的なお薬での治療は、きちんとお医者さんと相談しながら適正な量を使い、経過を見ていくことが大切です。

僕の健康相談では西洋薬を否定せず、必要のある場合は西洋薬も併用しながら漢方薬を用いたり、その人に合った生活養生を提案したりして、改善計画を一緒に考えていきます。

また、僕が必ずお話しするのが「予期不安は認知の歪みが起こしている」ということ。

人間は、健康な時は常に、自分の置かれている状況を主観的に判断しているものです。

でも、強いストレスを長期に亘って受け続けている時や、鬱状態に近い時などには、この認知に「歪み」が生じてしまい、不安感や自己否定感が強くなってしまうのです。

「認知行動療法」というのは、こうした歪みを正すのに有効な療法と言われています。

どういうものか?簡単に説明しますと、気持ちが大きく動揺したり、辛くなったりした時に自分の頭に浮かんだ考えに目を向け、現実とどれくらい食い違っているのか、どれくらい過度に不安を覚えてしまっているのか、というのを検証しながら思考のバランスを取っていく、という療法です。

うん、これでもちょっとわかりにくいですよね。もう少しわかりやすく説明しましょうか。

冷静に考えれば異常な考えであることが当たり前のように感じられたり、当たり前の考えが異常に感じられてしまうのが、「認知の歪み」なんですね。

これが起こってしまうのが予期不安のメカニズム、と思っていただけるとわかりやすいでしょうか?

そして認知の歪みを作り出す原因は、やはり慢性的なストレスが最も大きなものである、ということからも、予期不安を消すためには受けているストレスケアが欠かせません。

漢方薬を飲むことでも予期不安を完全には消すことはできません。

漢方薬ができるのは予期不安が起きた時、不安に立ち向かうエネルギーをつけたり、落ち込んだ気持ちを持ち上げたりすることなど。

西洋薬も漢方薬も症状に対してケアをする力がありますが、結局の所、予期不安を起こさないようにするためには、原因を取り除き、前向きに毎日を楽しめるようにする、という生活作りが何よりも大切なことなのです。

予期不安で起こる不安に、一つずつ「大丈夫だよ」と優しく声をかけてあげること。

これも予期不安を消すための有効なトレーニングです。

いつでも安心した気持ちでいられるような生活作りは、予期不安脱却の土台として欠かせません。

予期不安を起こす自分を責めることなく、自分に優しい毎日を心がけてみて下さい。

タクヤ先生のメンタル不調相談室
杉山卓也(すぎやま・たくや)
薬剤師/漢方アドバイザー。神奈川県座間市にある「漢方のスギヤマ薬局」にて「あらゆる人生相談に乗れる漢方薬剤師」をモットーに、メンタル、子宝、子ども、ペットなど、ひとりひとりに寄り添った漢方相談を受けるかたわら、講師として年100回を超えるセミナー・講座を開催。また、漢方専門店「成城漢方たまり」、中医学や薬膳、経済学まで1年間で学べる「tamari 中医学養生学院」の経営や、漢方薬局経営者向けのコンサルティングも積極的に行う。中医学界初のオンラインサロンである「タクヤ先生の中医学オンラインサロン」も爆発的な人気を博している。『不調が消える食べ物事典』(あさ出版)、『漢方でわかる上手な「こころ」の休ませ方』(三笠書房)、『タクヤ先生、漢方でこころを元気にする方法、教えて下さい!』(ワニブックス)など著書多数。神奈川中医薬研究会会長、星薬科大学非常勤講師、合同会社Takuya kanpo consulting代表。

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