本記事は、遠藤誉氏、白井一成氏の著書『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社/2020年8月発行)の中から一部を抜粋・編集しています
国連の専門機関を牛耳る習近平
現在、国連には15の専門組織(国連憲章第57条、第63条に基づき国連との間に連携協定を有し、国連と緊密な連携を保っている国際機関)があるが、そのうちの4つの専門機関の長は「中国人」が占めている。その4つの機関名と職位、中国人の名前および就任時期を書くと、【図表2―1】の表のようになる。その就任時期にご注目いただきたい。
習近平が中国共産党中央委員会(中共中央)総書記に着任したのが2012年11月で、国家主席の座に就いたのは2013年3月だ。なんと「みごと」ではないか。
親中の人間を国連や国連専門機関の長に据えるだけでなく、大陸の中国人そのものを国連専門機関の長に就かせることによって、中国は国連を乗っ取る戦略で動いているのである。
それだけではない。
国連専門機関のトップ以外の要職や、国連傘下の関連国際組織あるいはその周辺組織にも、【図表2―2】のように圧倒的な数の中国人が要職を占拠している。これはチャイナ・マネーで買収された(という言葉が悪ければ「心を奪われた」)人々によって「選挙で公平に」選ばれているメンバーたちだ。戦略的な中国は、着々と水面下で「仕事」をしてきた。
特に注目すべきは、今般問題になっているWHOは事務局長のテドロスだけではなく、事務局長補佐の一人は任明輝で中国人なのだ。WHOは中国によって牛耳られていると言っても過言ではない。
ここに列挙した人々は当然、全員「中国共産党員」である。中国建国の父・毛沢東の「世界赤化」の夢は、着実に実現しつつあるのだ。
建国以来(実際には1950年10月1日に改編)、天安門の城壁に掲げてあるスローガンを見ていただきたい。一つは「中華人民共和国万歳」だが、もう一つは「世界人民大団結万歳」だ。「世界人民大団結」は何を意味しているかというと「世界を中国共産主義化していくこと」、つまり「世界赤化」である。
今は共産主義を信奉する中国人民はほとんどいないので、習近平はマルクス主義から始まり「初心に戻れ」を中心としていかに共産主義が素晴らしいかを教育しているが、要は「共産主義の衣を着た中国という国家」が世界制覇をすればいいと思っているのである。
そのために中国人を要職に就けるだけでなく、国連のグテーレス事務総長(ポルトガル人。マカオを通して中国に抱き込んだ)や、IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事(ブルガリア人。ブルガリアは中華人民共和国を最初に認めた国の一つで一帯一路の東欧の拠点。習近平は彭麗媛夫人にブルガリア人のイリナ・ボコヴァ元ユネスコ事務局長に接近させ、IMF専務理事にクリスタリナ・ゲオルギエバを就けるべく水面下で動いた)など、国連の要職を親中派で固め、国連そのものを中国が乗っ取ろうとしている。
2019年8月26日、ワシントン・タイムズは「アメリカは国連で増大している中国の影響力に対処しなければならない」と警鐘を鳴らしているが、もう遅い。トランプのWHO拠出金停止は、中国が目論む世界新秩序を決定的に加速させる危険性を孕んでいる。
(※2021年1月バイデン大統領がWHO脱退の撤回を命じる大統領令に署名)
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