本記事は、茂木健一郎氏の著書『 眠れなくなるほど面白い 図解 脳の話』(日本文芸社)の中から一部を抜粋・編集しています
アイデアが次々とわく脳になりたい!
ある大手のおもちゃメーカーでは、新入社員にアイデア出しのトレーニングをさせるそうです。学生時代、おもちゃについて真剣に考えたことなどなかった人がほとんどですから、はじめは1日中考えても1個も出せない人だっています。
ところが、しばらく経つと30も40も出せるようになってくるといいます。脳はひらめきのクセをつけると、こんなに変わっていくのです。
このとき、私たちの脳はどんな状態になっているのでしょうか。
考えてはそれを打ち消し、別の角度からのアプローチを模索し、しっくりくるものを求めて頭をフル回転させ続けているのだと思われます。そして、「これだ!」というアイデアが生まれてくるというわけです。
これを脳科学の用語で「アハ!体験(Aha!Experience)」といいます。何かについて説明されて腑ふに落ちたとき、英語で「Aha!」などといいますが、そこからきた言葉です。
じりじりするようなもどかしさのなかで、真剣に考え続けていると、ある瞬間にパッと頭のなかが明るくなったように、「これだ!」という感覚が得られるのが、「アハ!体験」です。そしてアイデア出しというのは、「アハ!体験」の典型的なものです。
わからない問題をじっと考えて脳をフル回転させ、脳が活性化する状態をつくり出す。これが、アイデアを出すための近道だと考えられます。
脳研究をする立場からすると、非常に興味深い現象がここにあります。
「アハ!体験」のとき、脳では何が起きている?
アルキメデスは、お風呂から水があふれるのを見て、アルキメデスの原理を発見したといいます。ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て、重力を発見したとされます。そのとき、彼らは「わかった!」と叫んだに違いありません。これも、偉大なる「アハ!体験」といえるでしょう。
では、「アハ!体験」の瞬間、脳内では何が起こっているのでしょうか。
人間の脳は、平常時と「アハ!体験」時でははっきりと異なる反応を示します。
後者においては、0.1秒のほどの間に、驚くほど集中的な神経細胞の活動が生じるのです。同時に、報酬系の物質であるドーパミンがタイミングよく分泌されていることが知られています。
この神経細胞の一斉活動と、ドーパミンの分泌こそが、「アハ!体験」の「わかった!」という感覚の正体だと考えられています。
これは、私たちが何かをひらめいた瞬間のメカニズムそのものといえます。
つい最近まで、知識が豊富な人や事務処理能力の高い人が評価されてきました。しかし、時代は大きな転換点を迎えています。
これから求められる資質のキーワードとして、「創造性」や「ひらめき」を挙げることができると私は思っています。
創造性やひらめきは、もちろんどのような時代にも必要とされるものですが、現代社会においてこれまで以上に必要とされ、より評価される時代になりつつあります。そんなことを、最近つくづく感じるのは私だけでしょうか。
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