本記事は、エイミー ウィテカー氏の著書『アートシンキング 未知の領域が生まれるビジネス思考術』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています。
エネルギーと時間を管理する
ジム・レーヤーとトニー・シュワルツは、2003年の著書『メンタル・タフネス 成功と幸せのための4つのエネルギー管理術』の中で、ホールライフ思考を独自の視点をまじえて述べている。彼らは人生を「時間とエネルギーを絶えず管理するシステム」ととらえ、エネルギーには頭脳、情動、精神、身体の、四つの種類があると仮定した。レーヤーとシュワルツによると、たいていの人は二種類のエネルギーを使っている。しかし、そこにはエコロジカルにエネルギーを制御するという発想がない。例えば、生活の大半を仕事とエクササイズに費やす人は、主に頭脳と身体のエネルギーばかり使っている。子育て中の人は、情動と身体のエネルギーをたくさん使う。デスクワークの会社員は頭脳エネルギーを使いすぎて、身体エネルギーの使用が不足しがちになる、など。
レーヤーとシュワルツの説は、テニスのエリート選手たちを調査する過程で生まれたものだ。世界大会のトーナメントで勝ちあがる選手がいる一方で、技術的に劣るわけではないのに、なぜか結果を残せない選手もいる。トップクラスの選手たちの明暗を分けるものはいったいなんなのか? その謎を解き明かすため、レーヤーとシュワルツは選手たちに電極を装着し、プレー中の脳波を測定した。最終的に何セット戦うことになるのか事前にわからない状態でプレーするテニスという競技は、スタミナに関する興味深い研究事例となった。その調査からレーヤーとシュワルツが発見したのは、意外だけれども一貫した結果だった。勝利する選手たちは、「休息」をうまく利用していたのだ。この場合の休息とは、動きを止めることではなく、別のエネルギーに切り替えるという意味だ。
例えば、ある選手はサーブをする前には必ず、ボールをラケットの上で弾ませる独特の儀式を行う。いったん異なる種類のエネルギー活動に切り替えて、休息を取るためだ。勝利する選手たちは、そのように「試合に対する極度の集中状態」と「儀式的習慣による一時的な休息」をうまく組み合わせたプレースタイルを確立していたのである。レーヤーとシュワルツは、私たちの生活にもこのスタイルを取り入れられるはずだと考えた。完全な休息を取らなくてもいい。一つの活動から別の活動に切り替えて、エネルギーの使用が偏った状態から一時的に離れることが大切なのだ。
レーヤーとシュワルツは、エネルギーバランスの取れた生活設計を手助けするコンサルタントの仕事を始めた。あるクライアントの女性は、仕事では高い評価を得ていたが、心の不安に悩まされていた。そんな彼女に対して、彼らは週に二度のジム通いを、楽しんで身体を動かせるダンスのクラスに変更し、毎週火曜と木曜にそこに通う「儀式」を行うように助言した。すると、彼女のエネルギーエコシステムのバランスが改善し、リラックスできるようになった。身体エネルギーを使うためにしぶしぶジムに出向かなくても、ダンスクラスに通うという儀式が彼女に身体エネルギーと情動エネルギーの両方の使用を促したからだ。
あなたの生活はどうだろう? もっとも多く使っているエネルギーはなんだろうか? まずは心の中で――あるいは実際に一枚の紙の上に――円を描いて四等分してみよう。四分円のそれぞれに四つのエネルギー(頭脳、情動、精神、身体)を割り振り、あなたが日常的に行っている活動を四つに分類する。次に、各活動の関係性をチェックしてみよう。うまく組み合わせられそうな活動はあるだろうか? 日々の生活の中で、無理なく切り替えができそうな組み合わせを矢印で繋いでみよう。さらに、経験したことはないけれど、対の関係としてふさわしそうな活動を思いついたら、その活動を従来のものと入れ替えてみるのもいい。
そんなふうにして、あなたというエコシステムのバランスを整え、エネルギーができるかぎり活性化するように生活を再設計してみよう。そうすれば、日々のスケジュールの中に、ある種のブラックボックスのような空白が生まれ、そこに結果を求められることなく気ままに探求する「スペース」――時間や場所や儀式――を組み込むことができるだろう。