本記事は、ケヴィン・スコット氏の著書『マイクロソフトCTOが語る新AI時代』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています

2017年に小学校へ入学した児童の65%が就く仕事

今まだない仕事
(画像=PIXTA)

ノースダコタにほど近い、アメリカ有数の農業州として知られるネブラスカでは、オマハとリンカーンのあいだで、マイクロソフトの元幹部ジェフ・レイクスが家族の巨大な農場と牧場を営んでいる。わたし自身は一緒に働く機会はなかったが、レイクスはマイクロソフト・オフィスの生みの親である伝説的な人物で、ずっと以前からコンピュータを使って家族の農場経営を助けていた。

だから、レイクスが今も技術と農業の交差点のパイオニアであり続けるのに驚きはない。本人いわく、1940年には農場を切り盛りするのに300人が必要だったが、今では必要な人数もだいぶ減り、たとえばWi-Fi接続のある肥育場を整備したことで、人間の手を借りずともウシに適切な量の水と餌をやれるようになっている。

もっとも、事はそれほど単純ではない。農業は技術への依存度をどんどん高めている。レイクス自身は7歳のときにトラクターの動かし方を学んだが、今農場で使っているトラクターは免許がないので1台も使えないという。

「この農場で働くには、技術リテラシーが欠かせない」レイクスは言う。

レイクスには、現在の小規模農家の多くが商売として成り立つ最小限(MVE)の事業単位に届いていないという持論がある。彼の試算では、20世紀のMVEは当初は40エーカーだったが、70年代には400エーカーになり、今では土壌の質や気象条件で上下するが、1000〜1500に達している。しかしそのなかで、農業用AI技術は生産性を高め、環境へのダメージを減らすだけでなく、手の届きやすいものにもなった。

それによってMVEの値も大きく変化し、実質的にどんな広さの土地でも作物を収穫し、地域に雇用を生み出せるようになる可能性がある。小さな農場を始めるためのハードルが低下し、経営のコストも下がり、生産性は上がって市場での競争力が高まれば、もっとたくさんの地域に小さな農場ができ、それに伴って地域の仕事も増える。

当然ながら、今後の農業はこれまでとは少し異なったものになる。今後の農家には、最低限のITスキルが欠かせない。とはいえ、大きな障害にはならない。学校で学べるスキルだし、わたしが通った中学校や高校でも、じきに21世紀式農業の授業を行うようになるはずだ。いつの時代も農業が簡単だったことはないし、優れた農家は常に、土壌と種、そして生産性を高める農耕機具に習熟した偉大な技術者だった。

AIもそうした道具のひとつにすぎない。しかも、農業に役立つ(いや、農業に限らず環境保全でも、エネルギー生産でも、医療でも)AIプラットフォームは、用途に合わせたアルゴリズムを構築できれば何より簡単に使えるツールになる。あとでまた話すが、クラウドプラットフォームには経済的なインセンティブがあるから、AI活用のハードルは自然と下がっていくだろう。オープンソースはAIツールを民主化するだろうし、機械教示のような革新的な技術が業界への参入障壁をさらに下げるはずだ。

このように、AIと先進自動化技術には、小規模事業を立ち上げやすく、競争力を高めやすくすることで、農村の景気を直接的に刺激するポテンシャルがあるが、好影響はそれだけにとどまらない。AIプラットフォームとAIビジネスが、未来志向の人間でも想像しにくい、まったく新しい仕事を生み出すのは間違いないからだ。

リンクトインが2017年に出した新職業に関する報告書によれば、この年に小学校へ入学した児童の65パーセントは、成人後に今はまだない仕事に就くという。確かに、わたしがグーグルに入社した2003年には、データ・サイエンティストなどという職種はまだなかったが、今や世界で最も需要が伸びている仕事で、リンクトインの2018年8月の労働力報告書によれば、15万人あまりが不足しているという。AI関連で間もなく登場しそうな新しい仕事を予測するのは難しいが、これまでの技術革命の歴史を土台にした仕事になるのは間違いなさそうだ。

マイクロソフトCTOが語る新AI時代
ケヴィン・スコット(Kevin Scott)
マイクロソフトのチーフテクノロジオフィサー(CTO)兼エグゼクティブバイスプレジデント。モバイル広告のAdMobでテクノロジー・チームの立ち上げを指揮し、業界で頭角を現す。AdMobが2010年に買収されたのを機にGoogleに移籍。GoogleやLinkedInで役員や技術職を歴任し、現職に至る。GoogleFounder’s AwardやIntel PhD Fellowship、ACM Recognition of Service Awardなど輝かしい受賞歴を誇る。また現在は、スタートアップ企業顧問、エンジェル投資家、非営利団体Behind the Techの創設者、Anita BorgInstituteの名誉理事などの顔も持つ。ヴァージニア州の田舎町出身で、妻と2人の子供とともにカリフォルニア州ロスガトス在住。

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マイクロソフトCTOが語る新AI時代
  1. AI時代の新たな波「インテリジェントエッジ」とは
  2. 2017年に小学校へ入学した児童の65%が就く仕事
  3. AI関連で重要性を増す「新しい仕事」2つ
  4. 社会をよくするためのAIの活用法3つ
  5. AIによって医療従事者の仕事はなくなるのか?
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