本記事は、藤原正明氏の著書『収益性と節税を最大化させる不動産投資の成功法則』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています
融資を受けて不動産投資をする前提の場合、NOI、FCRとともに重要となる投資判断の指標が「イールドギャップ」です。不動産投資に関する書籍やブログなどには、「物件の表面利回りと借入金利の差」をイールドギャップといい、表面利回りが高くても借入金利が高ければその差を大きく取れないので利益が残らない、などと解説されていますが、実は完全な間違いです。実際に物件を購入した方は経験があると思いますが、融資を受ける際に金融機関から提示される条件は「融資金額」「金利」「返済方法」です。これらの条件をもとに月々の返済額が確定します。 ところが、先ほどのイールドギャップの解釈では「融資期間」の要素が入っていません。これでは本当のイールドギャップを求めることはできませんし、投資判断を誤ります。
正しいイールドギャップはどうすれば導き出せるのでしょうか。そこで必要となるのが「ローン定数K(単位%)」という指標です。これは、金利と融資期間で決まる指標で、総借入金額に対し年間でどの程度の割合で元利返済しているのかを示します。借入金額に対する支払い負担率のようなイメージです。 ローン定数Kは次の計算式で求めることができます。
ローン定数K【%】=元利返済額÷総借入金額(残高)
そして、総収益率FCRとローン定数Kの差が正しいイールドギャップとなります。
イールドギャップYG【%】=FCR-K
正しいイールドギャップが理解できると、融資を受けての不動産投資でキャッシュフローを最大化させ、投資パフォーマンスを高める方法を賢く選択できるようになります。
当然、イールドギャップ(物件の利回りと借入金利の差/イールドは収益、利回りの意味)は高いほうが望ましいのですが、最低何%以上は必要と考えればよいのでしょうか。低過ぎると収入に対して支出の余裕がなく、空室が増えたり不測の修繕などが発生すればキャッシュフローがマイナスになる可能性が高くなるため、適正値の目安は押さえておきたいところです。
前提として、イールドギャップは投資の初期段階の判断で用いる指標です。これまで紹介してきた投資指標はあくまでもその時点での値であり、時間の経過とともに変化します。総収益率FCRは時間経過とともに賃料下落や空室率の増減によって変動しますし、ローン定数Kは金利が上昇したり、元金返済が進むと変化することに注目してください。
多くの方は元利均等返済、すなわち金利変動がなければ元利返済額は一定、という借り方をしますが、時間の経過とともに借入残高は毎年減っていきます。ローン定数Kは購入初期が一番低く、計算式の分母である借入金額の返済が進むにつれて毎年上昇していく値なのです。投資の初期段階の指標というのはそういう意味です。
これを踏まえたうえで、よくある投資条件での判断基準を考えてみましょう。
投資家の多くはフルローン(物件購入金額の全額の融資を受けること)、あるいはそれに近い条件での投資を希望していることでしょう。当社ではリスクを抑える観点から、一定以上(10%以上)の自己資金の投下を推奨しています。また昨今は金融機関の融資姿勢が厳格化傾向となっており、以前のようなフルローン・オーバーローンは難しく一定の自己資金を求めることが一般的になっています。とはいえ、多くの投資家は自己資金を可能な限り抑えて不動産投資したいと考えているはずです。
ではフルローンで物件を購入する場合、どの程度のイールドギャップを目標にすればよいでしょうか。キャピタルゲイン狙いの投資ではなく、インカムゲイン狙いの投資の場合においては、首都圏・関西圏の現在の不動産市況および融資情勢から鑑みると、新築物件・中古RC造物件で1.0~1.5%、その他の構造の中古物件で1.5~2.0%以上確保できるのが望ましいと考えています。
では、仮にこの数字を得られなければ投資対象となり得ないのかというと、そうではありません。自己資金を多めに入れて、自己資金×FCRからのキャッシュフローを多く取る方法があります。
あるいは保有期間中のキャッシュフローは薄くなりますが、後述する「潜在キャッシュフロー」である元金返済は進みますので、保有中のキャッシュフロー目的ではなく、売却時キャッシュフローを得る投資であれば、イールドギャップが多少基準値を下回ってもよいこともあります。その場合は、空室や滞納損失・修繕費用などに備えて、手元に一定の現金を保持しておくことをお勧めします。
最終的には物件ごとに個別の判断が必要です。イールドギャップの適正値は、あくまでも判断材料の1つとして参考にしてください。
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