前回、前々回と「純資産額上位の投信の動きに学ぶ」と題し、月次運用レポートなどから投資信託を定性的に俯瞰する簡単な方法を紹介した。その真意は「自分に合った投資信託を選ぶ方法」を読者の皆さんに気づいてもらうためである。「投資を信じて託す」ものが投資信託である以上、営業担当者や金融機関の宣伝文句を鵜呑みにしたままに選んで欲しくないからだ。
実際に最前線で積んだ経験に基づく情報を発信
1993年、当時の勤務先であるさくら銀行(現在の三井住友銀行)から辞令を受け、「さくら投信」(現在の「三井住友DSアセットマネージメント」)という会社の立ち上げに青写真の段階から参画し、後に旗艦ファンドとなった「日本株オープン」の商品開発から運用まで背負って立った身(設定1994年9月~2005年3月末まで10年半の運用を担当)として、心から「投資信託」という金融商品自体は本当に素晴らしい仕組みのものだと思っている。あれから約30年近く経った今でも全くそれは変わらない。
だからこそ1998年6月には『入門の金融 投資信託のしくみ』(日本実業出版社刊 現在絶版)という入門書も、ファンドマネージャーとして企業調査に忙殺される傍らで、半年も掛けて書き下ろして上梓させて頂いた。日本で初めてファンドマネージャーとして担当する投資信託の販売用資料に顔写真を掲載して名乗りもあげさせて頂いた。1998年12月の銀行窓販開始にあたっては、役職員向けリスク商品販売研修に関東と関西を股にかけて走り回らせて頂いた。こうして、ずっと昔から投資信託に携わってきた。
その原動力の源泉は、投資家の方々にもきちんと納得がいく形で自分自身の大事な虎の子を信じて託せるものを選んで欲しいという想いだ。どんなに綺麗ごとを言おうが、美辞麗句を並べ立てようが、金融機関にとっての投資信託は、販売する度に「購入時手数料」が稼げ(ノーロード型は除く)、受託している間は仮に何もせずともチャリンチャリンと「信託報酬」が稼げるビジネスモデルの商品だからだ。ただ金融機関も仕事、生業として行っている以上、これはやむを得ない。もとより聖人君主のボランティア活動ではないのだから。第一、そもそも投資家だって、投資収益、運用益を稼ぎたいという話なので、双方本来は利害関係が一致し、ベクトルは同じ方向を向いているはず。
世の中には「今日は良いスープが作れなかったから店は休みだ」と味にこだわるラーメン屋の店主がいる。満身創痍になりながらも最後の最後まで戦い抜き、国中を沸き立たせてくれたラグビー選手達もいた。それはプロフェッショナルとしての意地があるからだ。職人気質があるからだ。仮にビジネスであっても、本質を貫き通そうという誇りがある人達だけが行っている限り、金融機関と投資家のベクトルの向きは一致する。だが、残念ながら時に邪な考えで関わろうとする人々もいる。ただそれを見抜けるのは投資家自身でしかない。
現在筆者はどの投資信託が販売実績を伸ばして巨艦ファンドとなろうと、全く販売が伸びずに苦戦しようと、そこに何の利害関係も生じない。現役のファンドマネージャーや投信会社の社長をしていた時とは全く違う。だからこそ、本音ベースで、時に辛辣に聞こえるかも知れないコメントも、何の忖度もなく言うことができる。机上の空論ではなく、実際に最前線で積んだ経験に基づく情報だけをお伝えしている。