本記事は、野村絵理奈氏の著書『THE SPEECH 人を動かす話し方』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています
人を説得する話し方の方程式
アリストテレスは、「弁論術とは、個々の事例に関して説得に資するかぎりのものを考察する能力」だと定義しています。つまり、弁論術は、様々な事柄に関し、自分にとって望ましい結果を得るために人を説得する技術であると言えます。
さらに、説得には、三つの要素があるとアリストテレスは言います。
すなわち、(1)語り手の人柄に存するもの、(2)聴衆を何らかの状態に置くことに存するもの、そして(3)証明することないしは証明していると映ることをとおして、言論そのものに存するもの。(「弁論術」第1巻第2章/同前)
これを整理すると、
1、語り手の人柄による説得 2、聞き手の感情による説得 3、話の論理による説得
ということになります。
アリストテレスはこの3つの要素を〈エトス〉〈パトス〉〈ロゴス〉と呼んでいます。本書ではよりスピーチに沿った解釈にするため、それぞれ〈人徳〉〈共感〉〈論理〉と訳して進めていきます。
この3つは、2000年以上の時を経ても変わることのない、「人を動かすスピーチテクニック」の構成要素であり、これまで世界を動かしてきた歴史に残るリーダーたちのスピーチにはこの3つの要素が巧みに取り入れられています。
テクノロジーが進化し、話す技術の必要性が少なくなったように思える現代においても古代から続く、人の心を動かす話し方の技術は変わっていません。
また、その技術によってあなたの心が操られている可能性だってあるのです。
本書では、古代レトリックや弁論術、スピーチの実例を引用しながら、現代のリーダーのために、望む結果を引き寄せるための話し方の技術を解き明かしていきたいと思います。
すべてをお話しする前に、結論から明かしましょう。
「人を動かすスピーチの方程式」とは、
〈語り手の人徳(エトス)〉×〈聞き手との共感(パトス)〉×〈話の論理(ロゴス)〉
優れたリーダーたちはこの方程式に沿って、人の心を操るスピーチを巧みに行います。
ただし数式のように単にその要素を盛り込めば望む答えが得られるというわけではありません。
本当の意味でこの方程式を成立させるためには、自分の価値観や考え方を深く知り、相手の感情を汲み取る洞察力を付け、論理的に説得するためのテクニックを知る必要があります。
(前略)これらを手がけるのは、推論の能力を有する者の仕事であり、また、諸々の性格や徳について、そして第三には感情について、諸々の感情とは何でありどのようなものか、そして何に起因していかに生じるのかを考察する能力を具えた者の仕事であるに違いない。(「弁論術」第1巻 第2章/同前)
つまりリーダーであるあなた、もしくは将来、人を導く立場を目指しているあなたは、「論理的に推論できる」スキル、「人柄や徳について考察する」スキル、「感情について考察できる」スキルを身につけなければなりません。
これは決して低くはないハードルです。
そもそも自分はまだそこに至るだけの経験が積めていないのではないかと心配になるかもしれません。
でも、恐れることはありません。
なぜならこれらのスキルは自分や相手に対しての理解を深め、トレーニングを重ねれば、必ず誰でも身につけることができるテクニックだからです。
元来、スピーチは、等身大のあなたの魅力を伝えるものです。正解、不正解はありません。
そして、話すことを高める努力を続けた先には、優れたリーダーたちがそうであるように、スピーチの内容はもちろん、その話し方さえも、リーダーにふさわしいものに変わってきます。
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