今さら大袈裟に言うまでもなく、資産運用/資産形成を志す方なら「リスクとリターンはトレード・オフ」ということは承知のはず。要するに何らかのリスクを取らなければリターンは得られないという話なのだが、もうひとつ重要なことは「ローリスク(Low Risk)」なら「ローリターン(Low Return)」、「ハイリスク(High Risk)」ならば「ハイリターン(High Return)」とリスクとリターンの関係はバランスしているということだ。言い換えれば「ローリスク・ハイリターン」とか、「ハイリスク・ローリターン」というのは結果論としては有り得るが、前提条件としては有り得ないということ。一般的に教科書的には「リスクとリターン」と言う場合が多いが、「リスク・リワード(Risk-Reward)」という言い方をする場合もある。「リワード」とは「褒美」という意味であり、こちらのほうが実感的に対価という意味ではしっくりくる。
今回、冒頭でなぜいきなりこんな初心者向けのようなことに敢えて字数を割いたかと言うと、金融商品を開発・提供、或いは提案をしてきた側の立場の実感として、投資家サイドがこの一番の基本を充分に正しく腹落ちして理解しているとは思えないからだ。特に「株はリスクが高いからダメ、債券のほうが良い」と言う人にその傾向が強いと思われる。
実は専門家でさえも見極めが難しい「信用リスク」
プライベートバンクが得意とする金融商品のひとつに「仕組債」があるということは以前お伝えしたが、仕組債は債券と言っても参照する株式や為替の価格変動リスクを金利として受取るものなので、少なくとも何を見ていればその後の展開がどうなるか、つまりリスクの正体は把握し易い。一方で、プレーンな債券、特に前回取り上げたハイ・イールド債券やハイブリット債券と呼ばれるものは「信用リスク」が金利の多寡を決めるリスクの源泉であり、本来は専門家でさえも見極めが難しいものだ。だがそれにもかかわらず、国際分散投資のひとつのアセットクラスとしてではなく、単に表面的な「利回り」追求で求める人が多いのが現実だ。
もちろん、「信用リスク」と「期間リスク」が債券の利回りを左右しているということは誰でも知っている。実際「期間リスク」については、その年限と金利変動を元にした債券価格の計算問題が証券業務の基礎知識として初級者試験にも出題されるぐらいだ。一方で「信用リスク」については、それがどのように調査分析され、どのように債券価格に反映し、どのように利回り(イールド)が変化するのか、更に債務不履行(デフォルト)が発生する可能性の把握などはどうするのかということは、多くの人が詳細には知らないだろう。筆者自身、その方面は専門家ではない。
余談にはなるが、筆者がバークレイズ時代に率いていたISS(インベストメント・ソリューション・スペシャリスト)がなぜチーム体制だったかと言えば、株式、債券、ファンド、リサーチといった各分野のスペシャリストを配置する必要があったからだ。社内の多数のプライベートバンカー(以下、バンカー)達に正確な情報を伝える、或いは必要ならば詳細なセミナーをするというようなことは、その分野に特化した専門家でなければできないことだ。これはグローバルでも同じような展開になっており、例えばファンド担当者はファンド担当者同士でグローバルに連携し、緊密なコミュニケーションを取っている。残念ながら現在はウェルスマネージメント部門の本体は日本から撤退してしまったので、日本市場に関わるものはどこか他の国からカバーしているはずだが、拠点ごとに、商品ごとの深掘りができるように作られていた。すなわち、それだけ本来は世界的にも専門性が高い内容であり、それらを嚙み砕いて、分かり易いようにコーディネートするのは容易ではない。実はISSの中でも各担当者同士でお互いの専門分野については質問し合うのが日常だった。例えて言うなら「それらしく相場見通しをSNSなどで語ることは誰にでもできるが、なぜ、どうしてという根拠や理屈まで踏み込むのは難しい」というのと同じことだ。たかが株式相場や債券相場、されど株式相場や債券相場とでも言おうか。