本記事は、須藤亮氏の著書『トッププレゼンターが教える「企画書とプレゼン」実践講座』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています
〈1つ上の企画書の極意〉シンプルである
POINT: 世の中、案外シンプルじゃない企画書が多い
ここからは、私が考える1つ上の企画書の極意3つをお伝えします。
まず1つ目は、シンプルであることです。
たとえば、200ページを超える企画書があったとします。これは良い企画書と言えるでしょうか。私はそうではないと考えます。
私が中国やアジアなどの新興国で経験してきたのは、そういう分厚い企画書が多いことでした。分厚い企画書が何をアピールしたいかと言うと、つまり量が多い=投入時間が多い=それだけ一生懸命考えてきた=だから評価されるだろう、という思い込みが提案者側にあるのです。
しかし、実際には外注して付け足したものが羅列してあったり、内容を自分たちでコントロールしてないことが見え見えだったりすることもあります。
また、提案自体がよくわからないものも多いです。何故かというと、提案が、これもある、あれもあるという並列型になっているからです。
現状分析にしても、アクションプランにしても、書けば書くほど一貫性やプライオリティは希薄になります。
そのくらいわかっていると人は言うかもしれませんが、実際は、提案にあたって色々調べてきたことをアピールしたくなるのも人情で、そんな企画書で溢れています。
しかし、それではこちらが言いたいことが相手に伝わるかというと難しいでしょう。
シンプルとは「言いたいことの絞り込み」と「平易な表現」
では、企画書がシンプルであるとはどういうことでしょうか?
それは、言いたいことが絞られていて、相手にわかりやすく表現されていることです。
たとえば、ページ数が少ない、頁ごとに見やすい、デザインが統一されているなど、見え方のシンプル化が1つです。
上の図は、[「R社の新商品開発」の企画書]の企画書の1頁です。課題の部分の書き方の一例ですが、非常に少ない字数で構成されていますね。
さらに、本文の上に、「すなわち、商品開発の課題は」と添えています。
実はこれが大事なのです。
なぜなら、後述しますが、企画書は提案後、独り歩きするからです。その時にプレゼンを受けない人でも、論の骨子や展開方法がシンプルでわかりやすいことが大事で、それを踏まえ、企画書を構成することが大事なのです。
Checkit! ・世の中、案外シンプルじゃない企画書が多い。 ・シンプルであるとは、言いたいことを絞り込み表現をできるだけ平易にすること。
〈1つ上の企画書の極意〉ロジカルである
POINT 各パートのパッチワークは論外
1つ上の企画書の極意の2つ目は、ロジカルであることです。
これも新興国で経験したことですが、戦略と施策が連動していないことが多々ありました。
その原因は、前半部分を書く人と後半部分を書く人が違うからです。それぞれが勝手に自分の言いたいことを書いているわけで、これでは聞き手は提案が頭に入らないどころか、クライアントが怒り出してしまう場面もしばしばでした。
論旨が一貫してないのは論外です。論旨の一貫性は企画書の原則であり、心 してかかるべきことです。
しかし、組織のセクショナリズムやチームの中にお山の大将が複数いたりする時など、日本でもありがちなことなので注意する必要があります。
論点集約がなされ、展開も首尾一貫していること
それが達成された上で、ロジカルとはどういうことでしょう?
現状分析の部分では最初、拡散思考をします。ですので、複層する事象がたくさんあり、それをそのまま並列に並べているだけだと何が重要なのかがわからなくなってしまいます。
そこで、プライオリティや因果関係を整理して見せることによって、論点が集約され脳の合点がいく。人間の頭は、そういう構造になっています。
よく政府や役所でやる論点集約とはそのことを踏まえているのです。
こうして整理した企画書は反論を許しにくいのも特徴です。集約作業とは、その理屈を考えることでもあり、それが企画書に併記されているからです。
また、論点集約があると、その後の展開施策がこれに沿ってなされているかどうか、という基準を相手に与えることができます。それがまた、受け手にとってわかりやすく、説得されやすい役割を果たすのです。
ここまで述べればリボンフレームに似ていると気づいたかと思いますが、基本はリボンフレームで作業を進めることで、極めてロジカルな企画書になるのです。
Checkit! ・論旨が一貫してない企画書は論外。分厚い企画書は新興国に多い。 ・ロジカルとは論点集約されていること。ロジカルだと人は腹落ちする。 ・リボンフレームで作業を進めれば論旨一貫が担保される。
〈1つ上の企画書の極意〉心を動かすストーリーがある
POINT 筋書の工夫で心を動かす
〈1つ上の企画書の極意〉の3つ目は、「心を動かすストーリーがある」です。
ここでいうストーリーとは、企画書を物語風にしろということではありません。企画書のちょっとした筋書きの工夫で相手の心を動かすという意味です。
具体的な手段として、3つを挙げます。
(1)課題から戦略の部分を決然と記述する
企画書の要(かなめ)は戦略と述べましたが、その部分です。戦略、すなわち問題解決の考え方のところを明快につくり、決然と記述する。それがしっかりしていれば、相手の心を動かすことができるはずです。
(2)現状分析にチャンスの視点を入れ込む
現状分析の部分には、マイナス要素だけでなくプラスの要素を入れ込みましょう。例えば文脈として、「こういう悲観要素があるが、こういうポジティブな要素もある」と構成し、プレゼンするのです。相手を1回凹ませて、次に希望を述べることで人間の心は動きやすくなります([〈企画書づくり〉現状分析]の問題点と機会の部分でそのコツを述べています)。
(3)施策部分にイメージや効果を入れる
最後の施策でゴールイメージを夢想させることが有効です。
例えば、施策をビジュアル化してより夢が膨らむようにするとか、この戦略を実行することでこんな効果があるでしょう、とポジティブ効果を実証するような数字やデータを入れるなどです。
もちろん、案件によって全部入れ込むことは難しい場合もあるとは思いますが、この3つのポイントを覚えておくと何かと役に立ちます。
このようにドラマタイズの要素を取り入れる効果は何かというと、相手が自分事として捉え、共感を得られやすいことです。それに付随して記憶に残りやすいというメリットもあります。
Check it!: 心を動かす企画書の筋書きの工夫として次の3つがある。
- 課題から戦略を決然と記述する
- 現状分析にチャンスの視点を入れ込む
施策部分にイメージや効果を入れる
須藤亮(すどう・りょう)マーケティングプランナー/株式会社TOM代表取締役社長。1980年早稲田大学法学部卒。博報堂で、35年間マーケティング職、ストラテジックプラニング職として、トヨタ自動車、花王、KFC、JT、味の素、全日空、マクドナルド、アステラス製薬などのクライアント企業を担当。途中、日本リーバ〈現ユニリーバ・ジャパン〉にアイスクリームのブランドマネージャーとして2年間出向。2001年よりタイのバンコクを皮切りに海外赴任生活に入る。タイのバンコクに博報堂アジア・ブランディング&ソリューション事務所を立ち上げ、その後、香港、広州、北京と渡り歩いた。博報堂での後半15年はトヨタ自動車をクライアントとし、電通との一騎打ちに奔走。博報堂のトッププレゼンターとして活躍。2013年帰国。2015年に博報堂を退社し、(株)TOM(トップ・オブ・マインド)を設立。(株)本TUBE取締役。さまざまな企業の実践マーケティング、ブランディング、コミュニケーション戦略プラニングなどのコンサルティングや地方創生事業などに従事。著書に『博報堂で学んだ負けないプレゼン』(ダイヤモンド社)、『スマホメモ 仕事と人生の質を上げるすごいメモ術』(CCCメディアハウス)がある。
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