エシカルバンクとは、エシカル、つまり倫理的であることを投融資の条件にしている金融機関のこと。EU諸国を中心に注目され始めている。
「エシカル」という言葉の意味合いは何となくわかっているものの、正確にその意味を説明できないとお感じの方が実は多いのではないだろうか。これまでは知らなくても大きな問題はなかったが、SDGsへのコミットが世界的な流れとなりつつある今、エシカルバンクだけではなく、エシカル消費などビジネス活動のエシカル(倫理的)な側面に無頓着では済まされない。
本記事ではエシカルバンクについて、その周辺情報も交えて2021年の時点で知っておくべき情報をまとめた。
目次
1. エシカルバンクとは?
まずは、エシカルバンクを理解するのに必要な「エシカル消費」について、あるいは、そもそも「エシカル」とはどういう意味なのかについて解説しよう。
1.1. エシカル消費とは?
エシカル消費のエシカルは、日本語では「倫理的」と訳されている。消費者庁はエシカル消費を倫理的消費と訳しており、「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮した消費行動」であると定義している。
戦後の高度経済成長以降、公害や過重労働など、企業活動が社会的な問題を生むにつれて、企業も社会の一員として貢献するべき存在であるとの考え方が広がり始めた。CSR活動(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)が重視されるようになってきたのは20世紀末からの最近数十年だが、エシカル消費は企業のCSR活動の発展を間接的に後押しする消費運動だと言える。
2015年の国連サミットでSDGsが採択されてから、エシカル消費はSDGsの12番目の目標である「つくる責任、つかう責任」に関連する取り組みとして注目されている。最近の消費者は社会や環境などに資する活動をしている企業の商品やサービスを選んで消費する傾向が強まっている。
1.2. エシカルバンクとは?
エシカルバンクとは、エシカル(つまり倫理的)であることを投融資の条件にしている金融機関のこと。2つの定義があるとされている。
▼エシカルバンクの定義
・投融資先を公表して透明性を確保していること
・投資先に軍事産業と原子力産業が含まれていないこと
持続可能な社会づくりに資する事業や企業に投融資をするのがエシカルバンクだ。
1.3. エシカルバンクが登場した背景
2015年に国連でSDGsが採択され、企業や団体、個人に至るまであらゆるものが持続可能な社会というゴールに向かうべきとの価値観が生まれた。SDGs登場以前にも同様の価値観はあったが、コンセプトが整理され、明確なゴール設定がなされたことで、普及にはずみがついた。
現代はSDGsの観点に立った消費、あるいは投資判断を迫られる時代であると言える。エシカル消費に高い意識をもつ消費者や投資家は、自らの資金が脱炭素化や再生可能エネルギーの普及促進などエシカルな分野に使われることを望むようになった。逆にエシカルではない領域に融資を行う金融機関にはお金を預けないという動きも出始めている。
こうしたニーズに応えるのがエシカルバンクと評される金融機関だ。特にSDGsへの意識が高いEU諸国では多くのエシカルバンクが誕生し、たとえばノルウェーでは年金基金を運用する際の投資先に倫理規定を設けるなど、大きな社会的ムーヴメントとなっている。
2. エシカルバンクは具体的に何をやっているのか?
それではエシカルバンクと呼ばれる金融機関は、どんなことをしているのだろうか。その活動内容について解説しよう。
2.1. エシカルバンクの取り組み
先ほど解説したように、エシカルバンクは投資先が行っている事業が倫理的であると判断できるものにしか投融資をしない。
2.2. ダイベストメント
ダイベストメントとは、インベストメント(投資)の反対の意味にあたる。金融機関にとってのダイベストメントとは、既存の投資先から資金を撤退させることを意味する。
たとえば、地球温暖化防止の観点を踏まえ、化石燃料に関連する産業への投融資から撤退をするのは、エシカルなダイベストメントということになる。エシカルなものに積極投資をする一方で、エシカルではない分野から資金を引き揚げるのもエシカルバンクの特徴だ。
2.3. SDGsの目標に合致していることがエシカルバンクの評価
エシカルバンクは、エシカルであるか否かをどのように判断しているのだろうか。その判断基準は金融機関によってさまざまだが、基本的にはSDGsが設定している17の目標に1つでも多く合致していること、もしくは反するものがないことだ。
日本エシカル推進協議会という団体もSDGsの17のゴールで金融機関を評価し、スコアリング(10点満点)をしたうえでエシカルか否かを判定しているとしている。
2.4. 日本にエシカルバンクはまだ存在していない
EU諸国では大きく注目されているエシカルバンクだが、残念ながら2021年の時点では日本に該当する金融機関はない。それでは日本国内の富裕層や投資家がエシカルバンクを利用できないかというとそんなことはない。今すぐできるエシカル金融への投資方法については後述する。
3. 国内銀行のエシカル関連の評価の例
日本国内の銀行に対してエシカルであるか否かを評価している事例がある。ここでは2つの事例を紹介しよう。
3.1. エシカルバンクとしての評価例1:Fair Finance Guide Japan
自分が直接投資をするならともかく、預貯金がどこに投資されているかまでを意識する人は少ないだろう。自分の預貯金が何に使われているのかを啓蒙する目的で実施されているのが前述の「Fair Finance Guide Japan」だ。
気候変動や自然環境、人権、労働、兵器産業など合計16項目が設けられ、それぞれについて金融機関の評価点がつけられる。たとえば「気候変動」であれば、温室効果ガスの排出削減に資する融資高が多ければプラス、逆に温室効果ガスを大量に排出する火力発電所や製鉄所、石油化学プラントなどへの融資が多ければマイナスになるといった具合だ。
実際の銀行への評価は、Fair Finance Guide Japanで見ることができる。
3.2. エシカルバンクとしての評価例2:RIEF(サステナブルファイナンス大賞)
サステナブルファイナンス大賞は、環境金融に貢献した銀行や企業などを選ぶ取り組みで、一般社団法人 環境金融研究機構が運営している。RIEFは同団体の英語名である「Research Institute for Environmental Finance」の略称である。
選考では新規性やESG度、他の金融機関への波及、顧客・社会への影響、収益性、企業評価の6項目が審査対象となり、それぞれの得点を合計して大賞が決められる。詳細や過去の受賞履歴などについては、公式サイトで見ることができる。
4. エシカル消費関連にお金を投じたい人の選択肢
投資家として、あるいは消費者として、エシカル消費に参加したい場合はどうすればよいのか? その具体的な選択肢を3つ紹介しよう。
4.1. エシカル消費への投資例1:SDGs関連ファンドに投資する
SDGsへの取り組みに投資する投資信託ファンドがある。こうした投資信託を購入することで、間接的にエシカル消費に貢献できる。すでに多くの投資信託が組成・販売されている。その一部を紹介する。
[SDGs関連の主な投資信託]
ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド: 持続可能で誰一人取り残さない世界を実現するための貢献と長期的なリターンの獲得を目指すとしている。社会的課題の解決に資する事業活動を発掘し、運用対象とする。
ニッセイ SDGsグローバルセレクトファンド: 2030年を期限としてSDGsの達成に貢献する企業の中から、株価上昇が期待できる銘柄を選択して投資する。SDGsやエシカル投資への関心の高まりを受けて純資産残高も右肩上がりの上昇を続けている。
イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド: 脱炭素への取り組みやイノベーションで貢献する企業を運用対象とし、「クリーンエネルギー生成」「交通・輸送の変革」「産業用エネルギー転換」の3つの分野で成長が見込まれる企業を選定して投資する。
これらはほんの一例で、他にも多くのSDGs関連の投資信託がある。証券会社のWebサイトやモーニングスターなどでも見つけることができる。「SDGs」「ESG」といったキーワードを用いると効率よく見つけることができるだろう。
4.2. エシカル消費への投資例2:ふるさと納税を活用して寄付をする
ふるさと納税は使い方によってはエシカル消費を支援できる納税手段だ。過疎化に悩む地域や地場産業を支援したり、エシカルをテーマにした返礼品を提供している自治体に寄付をすることが可能である。
4.3. エシカル消費への投資例3:エシカル消費、SDGsに配慮した方針を示す企業に投資する
エシカル消費やSDGsへの取り組みに積極的な企業の株を購入することは直接的なエシカル投資ということになる。現在、企業はSDGsへの取り組みを競うように推進しているため、各企業の具体的な取り組みはWebサイトで確認しやすくなっている。こうした情報から投資先を決めることは、企業がSDGsに積極的に取り組むインセンティブになるだろう。
5. まとめ:自然環境保護を金融で支えるエシカルバンク
SDGsやESG投資、そしてエシカル消費やエシカル金融。こうしたキーワードが続々と誕生していることからも分かるように、世界ではすでにSDGsの達成に向けて大きなうねりが起きている。それを金融面から支えるエシカルバンクも今後、増えるだろう。